光と闇を扱うために
剣地:城内の救護室
何があった? あの時、クァレバの男と戦っていたら、急に意識が吹き飛んだ。俺は何が起きたか分からない。
「どこだここ」
起き上がろうとすると、腹部に激痛が走った。俺は思わず悲鳴を上げてしまった。
「どうしたの、剣地!」
「何かあったの!」
扉が開き、外から成瀬とヴァリエーレさんが入ってきた。
「あ……あれ? 二人とも……じゃあここは城の中か?」
「やっと気が付いたようじゃの」
騒ぎを聞きつけ、ヴィルソルが俺に近付いてきた。後ろには泣き叫んでいるティーアとルハラがいた。俺は近付いてきたルハラとティーアを見ながら、ヴィルソルに話した。
「何があったか教えてくれ」
「ケンジ、お前は何者かに銃で撃たれた」
「銃で……」
少し思い出した。あの時、気を失う前に発砲音が聞こえたのだ。それからすぐ、気を失った。
「林の中にスナイパーが一人隠れていたようだな。目の前の敵と戦っていて気が付かなかったのだろう」
「ああ」
隠れていたスナイパーに気が付かないなんて……少し情けないな。
「落ち込まないでよ。多分ケンジが戦ったの、クァレバのリーダーだよ」
「へ? あいつが」
ルハラの言葉を聞き、俺は戦いに入る前のことを思い出した。そうだ。確かにクァレバの連中はあのおっさんの命令に従っていたな。
「クァレバの連中もボロボロになっているし、しばらくは動けないはずだよー」
「じゃが、奴らも奴らで手は打っているだろう」
ヴィルソルはこう言うと、俺に近付いてこう言った。
「ケンジ、明後日姫はプラチナタワーという塔のイベントに出席する」
その言葉に反応し、ティーアが続けて俺にこう言った。
「思い出した! ピレプがこの情報を得た後、自分の部屋で何かしていたよ」
「まさか、このイベントのことをクァレバの連中に伝えたのか!」
「私もその話は聞いているわ。恐らく、クァレバはこのイベントの中、姫様を襲う」
ヴァリエーレさんも、俺と同じことを考えていた。やばいな。このまま寝ているわけにはいかない。
「成瀬! 魔力で一気に俺の怪我を直してくれ!」
「そうくると思ったわ。ちょっと待って」
成瀬は俺の腹に手を当て、力を入れた。魔力を使い始めたのだろう。暖かい空気が俺の腹辺りに集中している。そして、俺の傷は完全に治った。
「サンキュー成瀬」
俺はベッドから立ち上がり、すぐに着替えを始めた。
「何するの、剣地?」
「少し鍛えてくる。このままじゃあまたあいつにやられる」
あの時の敗北。もう一人の存在に気付かなかったというのもあるが、それ以前に俺はあいつのせいで足を怪我した。いくらソードマスターのスキルを持っていても、意味がない。強くならないと。強くならないといろいろと守れなくなる!
ヴァリエーレ:救護室
ケンジは元気だな。怪我が治った瞬間にトレーニングを始めている。そろそろ、私も戦いに備えて準備をしないといけないかもしれない。最近はケンジやティーア、ルハラとヴィルソルが戦っていたから、そろそろ私も前に出ないと。このメンバーの中で、歳が一番上だから。
「少し私も席を外します」
「どうかしました?」
「クァレバとの戦いに向けて、少し体を動かしてきます」
ナルセにこう言うと、私は中庭へ向かった。レイピアを出し、魔力を刃に練り始めた。しばらくすると、光と闇の波動が生まれ、レイピアの刃に集まった。
やはりそうだ。ティーアとヴィルソルにキスをされた時から、私は光と闇の魔力が使えるようになった。光と闇、どちらも他の魔力とは違い、とても強い。使いこなせばどんな敵相手でも戦える。しかし、扱いがとても難しい。本来選ばれた者しか使えない力だからか、普通の魔力しか使えなかった私には、とても使いこなせない。
「くっ……ううっ」
しばらくし、光と闇は音を立てながら破裂した。
「やっぱまだ難しいか……」
「オワァッ!」
その直後、少し離れた所で爆発が起きた。しばらくして、煙の中からケンジが転がるように現れた。
「ケンジ!」
「あれ? ヴァリエーレさんも修行?」
ケンジは立ち上がると、私に近付いた。
「光と闇のトレーニングですか?」
「そうよ。もしかして、ケンジも同じことを?」
「はい。ティーアとヴィルソルとあれこれした後、俺も光と闇が使えるように。まぁ難しいからなかなか使いこなせないけど」
と、ケンジは笑いながらこう言った。
「使いこなせないと、宝の持ち腐れですから」
「そうね。使いこなしてクァレバとの戦いに備えないと」
「じゃあ、使えるようになるまで修行に付き合おうか?」
そこにいたのはナルセとルハラだった。
「成瀬! 姫の護衛はいいのかよ?」
「ティーアとヴィルソルが張った強力なバリアの中にいるから大丈夫」
「二人が光と闇を使えるまで、特訓に付き合うよー」
ルハラがこう言うと、私に近付いて胸を揉み始めた。
「さぁ、力を入れる時はリラックスしてー。そしてそのまま光と闇を自分の手足だと思いながら扱うのだー」
「ねぇ……ルハラ……何で胸を揉みながら説明するの?」
「なんか揉みたくなった」
「ルハラ、真面目にやりなさい」
ナルセが私からティーアを離し、私とケンジにこう言った。
「二人は真面目に修行をしているのよ。それだけクァレバの連中が強いってことよ」
「かもね。私が戦ったバルサって女は強くはなかったけど、組織自体大きそうだし、もっと人がいると思う」
「俺もそう考えている。だから、強くなって姫や皆を守りたい」
「だから修行に付き合うわ。だけど、私の修行は厳しいと思うけど?」
ナルセの返事を聞き、ケンジはこう言った。
「何が何でも付いていく」
とある洞窟の中、奥にいるレッジは小さく呟いた。
「明後日か……」
レッジは明後日に行われるプラチナタワーのイベントのことを考えていた。リーナ姫が参加することはピレプから聞いており、この時が暗殺のチャンスだと彼は考えていた。だが、この前の戦いでレッジは大怪我を負ってしまい、自由に動くことはできないのだ。
「あの時の奇襲がなければ仕事ができたのに……無理してでも動くか」
「レッジさん! 動かないでください!」
様子を見にきたバルサとイングがレッジに駆け付け、動かないように伝えた。
「動いたら傷が開きますよ」
「明後日の仕事、できなくなりますよ」
「分かっている。だが、少し運動しなければ……」
「大丈夫です。そのためにあいつが動き出しました」
その言葉を聞き、レッジはにやりと笑った。
「そうか、あいつが動くのか。なら、姫の暗殺は可能だな。それで、今あいつはどこに行った?」
「セントラー城です」
イングがこう返事をすると、レッジは目を丸くして驚いた。
「何考えているのだ、あいつは? 何をしに行った?」
「裏切り者の始末だそうです」
「エバーソンとイッシュの始末か……まぁあいつらが口を割ったせいでこんなことになったからな……」
レッジはこう言うと、体を横にした。
「しばらく休む。明後日までには傷を治す」
「はい」
セントラー王国の外れにある林の中で、不自然な人影が木の上にいた。その人影の手には、望遠鏡が握られていた。その中に映っているのは、投獄されているエバーソンとイッシュだった。
「エバーソン、イッシュ。俺たちのことを話したらどうなるか……分かっているはずだよな?」
そう言うと、エバーソンの姿を望遠鏡に入れたまま、指を鳴らした。その直後、男の指から刃が飛んでいき、エバーソンに命中した。急に倒れるエバーソンを見て、驚いたイッシュは窓へ近づいた。男はチャンスだと思い、イッシュの姿を望遠鏡で捕らえ、同じように指を鳴らして刃を作った。そして、イッシュもエバーソンと同じように攻撃され、その場に倒れた。
「さて……裏切り者は始末した。次のお楽しみは……明後日か」
男はそう言うと、笑いながらその場を後にした。
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