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オノブの怒り


 ロストジャスティスの団員と戦っているヤーウは、突如変わった風の流れに驚いていた。どこからか分からないが、誰かの気配が風を歪ませていると理解したのだ。


「どうかしたか、ヤーウ?」


 ヴィルソルがヤーウに声をかけてきた。声を聞いて我に戻ったヤーウは慌てるかのようにヴィルソルにこう言った。


「風の気配が変わった。どこかで誰かが怒っているような感じがする」


「そうだな。ナルセが怒った時はいつもこんな感じだ」


「え? そう? 私、いつもこんな感じなの?」


 成瀬が嘘でしょと言うような感じで呟いた。そんな中、ヴィルソルは嫌な予感を感じ、ケンジたちの無事を心の中で祈っていた。




 オノブと家光の勝負に乱入した男は少し心の中で悔やんでいた。化け物の戦いに乱入するのは間違いだったと。


「おい立て。勝負は終わってなかろう」


 オノブは無理矢理男を立ち上がらせ、刀を抜いた。オノブの動きを見た男は剣で防御をし、そのまま後ろへ下がった。だが、下がる際に体のバランスを崩してしまった。足を怪我していることを察したのだ。


「足が……グッ、クソ……」


「相手の実力を測れない雑魚がでしゃばるからそうなったのじゃ。自分の愚かさを嘆くがいい」


「おいおい……まるで悪役のようなセリフだね」


「ハッハッハ! 口だけは達者じゃのう! お前との戦いはこれで終わりにしてやる!」


 オノブは追撃を行うため、男に接近して刀を振り上げた。攻撃は命中し、男は血を流しながら後ろへ吹き飛んだ。


「ガッハァ!」


「これで終わりか? 戦いの邪魔をされたわしの怒りはこんなもんじゃ済まんぞ! 気が済むまでお前をボッコボコにしてやる!」


「ハッ……勘違いしないでくれよ。これで……終わりじゃないよ。とりあえず褒めてやるよ、このベヌザをここまで追いつめるとはね……」


 ベヌザと名乗った男はゆっくりと態勢を整えながら魔力を開放し、剣を握った。


「本気で戦わないと殺されるようだ……さて……ここからはかくれんぼの時間だ!」


「なーにがかくれんぼじゃ! 子供のお遊びをしている暇はない! 真面目に戦うつもりはないのかお前は!」


 何かすると察したオノブは急いでベヌザの元へ走って行った。だが、その前にベヌザの体が消えてしまった。


「何じゃ、消えた?」


 何らかのスキルを使ったのだろうとオノブは思い、魔力を刀に込めて切り払った。木や草を斬った手ごたえはあったのだが、人を斬ったような手ごたえはなかった。


「おっかしーのー。変なスキルを使っても体は斬れるはずなのに」


「俺のスキルを調べようとしているのかい? 安心しなよ、禁断スキルじゃないから」


 オノブの耳にベヌザの声が聞こえた。その瞬間オノブは刀を振るったが、手ごたえはなかった。


「空振りか」


「残念」


 この直後、オノブは何かの音を聞き、その場から離れた。その瞬間、さっきまでオノブが立っていた場所の草が一気に斬られた。


「そこにいたか!」


 オノブは刀を再び構え、そのまま突っ込んで行った。しかし、刀は空を斬っただけであった。


「えー? そこにいたと思ったのに」


「フフフ……このまま俺に斬られるがいい」


「ふざけるなよ、若造。貴様みたいな未熟者にわしを斬ることはできぬぞ」


 オノブはそう言うと、目をつぶった。不審に思ったベヌザはしばらくオノブの様子を見た。だが、何も身動きしないため、諦めて死ぬつもりかと思い、剣を持って姿を現した。


「フフフ……ミラージュライトの力はやっぱりすごいね。光の屈折を利用したスキルなんて誰も知らないだろう。光を利用すれば姿をごまかすくらいできるというのに」


 小さく呟きながらオノブに近付き、剣を突き刺そうとした。だがその瞬間、オノブが素早く動いて逆にベヌザの胸に刀を突き刺した。


「ガハァッ……な……何故……」


「ハーッハッハ! 手品のタネは耳にしたぞ。光を利用して姿をごまかしていただけか。タネが分かれば楽に対策を練れるぞ!」


「グッ……耳がいいね。あんた、本当に老いぼれか?」


「勝負はここまでじゃ! 人の勝負に乱入したらどうなるか、身を持って理解するがいい!」


 オノブはベヌザに突き刺さったまま、刀の向きを変え、そのまま左上に向けて切り上げた。心臓を狙うつもりだと察ししたベヌザは少し動いて心臓への直接攻撃は避けた。しかし、それでも大きなダメージをベヌザは負ってしまった。


「グッ……グゥゥゥゥゥ……」


「おーおー、痛そうじゃのう。このまま楽にしてやろうか?」


 奇妙な笑みを浮かべながらオノブはベヌザに近付き、ベヌザの傷に左手を突っ込んだ。無理矢理傷に手を入れられたせいで、激しい痛みがベヌザを襲った。


「グァァァァァァァァァァ!」


「悲痛な悲鳴じゃ。ま、裏ギルドの外道を哀れむ余裕はわしにはないからの。このまま大人しく倒れろ」


 殺されると思ったベヌザは、ミラージュライトを使って姿をごまかし、その場から離れようとした。いきなり姿が消えたため、左手をベヌザの体から抜いてしまった。


深い傷を負っても禁断スキルを使うことができるが、ベヌザとオノブとの実力差が大きい。禁断スキルを使っても、オノブは倒せないとベヌザは理解したのだ。何としてでもこの場から逃げ、回復した後オノブを殺す。そうベヌザは考えていた。しかし、後ろから迫ってくる衝撃波がベヌザを襲った。


「ギャァァァァァァァァァァ!」


「バカじゃのう。地面に付着する血でどこに行ったかバレバレじゃ。もうその手品は意味がない」


 オノブは刀で地面を見るように促した。そこには、手刀による追撃の攻撃で流れた血の跡が付いていた。これを見て、もう手はないとベヌザは思った。


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