妖となった愚か者
ルハラ:ジャングル
ケンジに向かって変な棘が投げられた。あんな長い棘が頭に刺さったら脳まで届く。うげー、嫌な技。それよりか、さっきまで倒れていた女の人の姿が見えない。まさか、私たちの隙を見て変なスキルを使ったな。
「ケーッケッケ! 今の攻撃を避けたのは運がよかったねぇ! だが、次はそうはいかないよ!」
「姿を出しやがれ! 今度は俺がぶっ飛ばしてやる!」
ケンジは武器を持って周囲を見回した。声はしたけれど、姿は見えない。あるのは木だけだ。
「二人とも。わしの近くにいてください。遠くいると守れません」
ニッコーさんが私とケンジに向かってこう言った。確かに。敵がどう動くか分からない今、下手に攻撃をするよりもニッコーさんの周りにいた方が安全だね。私とケンジは剣と盾を構え、魔力を開放してニッコーさんの近くに来た。
「気配で場所は分かるぞ。出てこんか愚か者!」
「そう言われちゃあしょうがないねぇ。じゃあお望み通り出てきてあげるよ!」
声がした後、あの女の人が現れた。だが、あの女の人はクモのようなモンスターの姿になっていた。うっげェェェェェェェェェェェ! 気持ち悪い光景を見ちゃった!
「禁断スキルでも使ったのか? すげー気持ち悪い」
「スパイダーボディ。このスキルを使えばクモのような体になることができる禁断スキルさ。この傷を負った以上、あんたらを始末するのはこれしかなくてねぇ」
「妖にそんなのがいたな。クモ女とかそんなの」
「酷いねぇ、化け物扱いかい? ま、こんな見た目じゃそう言われても仕方ないね。だけど……あんたらはその化け物に殺される運命だよ!」
と言って、クモの化け物になった女の人は私たちに向かって糸を放ってきた。
これはまずい。
ニッコーは刀でメディヌが放つ糸を斬って攻撃を対処していた。何かしらの禁断スキルを使うのは分かっていたのだが、どんなスキルを使うのかは分からなかった。ニッコーも禁断スキルの存在は理解していたが、こんなものがあるとは思ってもいなかった。
「そーれそれそれそれそれ!」
メディヌは尻から無数の糸をニッコーに向けて放っていた。ニッコーは素早く刀を振るって糸を対処していたが、剣地がニッコーの隣に立った。
「無限に出てくる糸か……ニッコーさん。俺に任せてください」
「剣地殿? 銃を持って何をするのですか?」
「糸を封じます」
剣地はハンドガンを構え、メディヌに向かって発砲した。飛んでくる弾丸を見たメディヌはにやりと笑って棘のような糸を発し、剣地が放った弾丸を打ち落とした。
「嘘だろ!」
「アーッヒャッヒャッヒャ! 糸は自由に操作することができる。長さ、硬さ、粘着力、どれもこれも自由自在にね!」
「さっきのケンジを狙った攻撃が分かったよ。納得」
ルハラはそう言うと、風を発して飛んでくる糸を吹き飛ばした。それを見たメディヌは鼻で笑って高く飛び上がった。
「あ、木の上に移動しやがった!」
「やはり、クモらしい動きをする……」
ニッコーは相変わらず高笑いをするメディヌに対し、呆れてため息を吐いた。その後、刀を鞘に納めて周りを見た。すると、どこからかメディヌの声が聞こえた。
「おやおや、武器をしまって降参のつもりかい?」
「確かめてみればいいのではないか?」
メディヌの挑発交じりの言葉に対し、ニッコーは笑いながらこう言った。笑い声を聞き、木の上に潜んでいるメディヌは気持ち悪そうに呟いた。
「追い詰められて頭のねじがぶっ飛んだのかい? まぁいい、奴を始末するのは今しかないね」
呟きを終えると、メディヌは毒がある糸を発し、鋭く尖らせた。毒針を作ってニッコーを始末しようと考えたのだ。剣地とルハラが残っているが、魔力を感じて十分に戦えないとメディヌは考え、後で始末すると計画した。
「さぁ……終わりにしましょう。この戦いを!」
メディヌは気配を消し、下にいるニッコーに目がけて突進を仕掛けた。猛スピードで動くため、この突進はかわせないだろうとメディヌは自身たっぷりでそう思っていた。動じずに立っているニッコーの姿を見て、この勝負は貰ったとメディヌは思った。しかし。
「甘いの! そんな簡単に勝てると思わないでほしいわ!」
ニッコーは急に振り返り、居合の形で刀を振るった。
「え……」
刀が自分の腹を切断する感覚を、メディヌは感じていた。それがしばらくして消えると、今度は突如下が軽くなった。そして、今までに感じたことのない強烈な痛みがメディヌを襲った。
「ギャァァァァァァァァァァ!」
「妖怪退治をこの世界でするとは……思ってもいなかったの」
ニッコーは血で濡れた刀の刃を拭き、そのまま鞘に納めた。何がどうなったのか分からないメディヌは、立ち去ろうとするニッコーにこう言った。
「待って……今の私……どうなっているの?」
「お前の腹をスパっと斬ってやったわい。その出血じゃあしばらくして死ぬの」
ニッコーの言葉を聞き、メディヌは何とか少し離れた地面を見た。そこにはクモのような下半身が落ちていた。それを見て、メディヌは悲痛な悲鳴を上げた。
「嫌だァァァァァ……こんな所で……こんな姿で死ぬのは……嫌だァァァァァ……助けて、ねぇ助けてよ」
メディヌの悲鳴を聞いたニッコーは、ため息を吐いた後、振り返ってこう言った。
「お主は命乞いをした人間を助けたことがあるか?」
「し……したことないわ。そんなことより、早く……助けて……」
「わしは外道に対して優しくはない。外道は外道らしく、哀れな姿であの世へ逝け」
と言って、ニッコーは剣地とルハラと一緒に去って行った。去って行くニッコーたちを見て、メディヌは何度も声を出した。その声は剣地やルハラにも聞こえていた。だが、しばらくしてメディヌの声は聞こえなくなった。
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