魔王の力
ヴィルソル:アジトから少し離れた場所
トリバーという男の銃から放たれる弾丸は、何度も何度も我に向かって飛んできた。だが、我の闇の力の前ではただの弾丸など、無意味なものだ。闇が弾丸を飲み込んでしまうからだ。
「チッ、面倒なガキだな」
トリバーは銃をしまい、ナイフを持って突っ込んできた。どうやら、ナイフも使うらしいな。
「接近戦か……久しぶりに使うか」
我は闇の槍を取り出し、相手に立ち向かった。
ナイフと槍、リーチでは槍が優位だが、接近戦に持ち込まれたら我が不利だ。それに、相手は無我夢中でナイフを振り回し、我に猛攻をかけている。相手が我の懐に入るのも時間の問題だ。
「さっさと死ね!」
トリバーはナイフを振り上げ、我の首元に斬りかかった。だが、その攻撃を予測していた我は闇で防御をし、攻撃を防いだ。その後、トリバーは舌打ちをして後ろに下がった。
「守ってばかりじゃ俺を倒せないよー」
「いちいち相手に話をするな。貴様のような奴の話相手になってたまるか」
我は魔力を練り、地面から闇を発した。
「さて……俺も本気出しますか!」
トリバーは大きく深呼吸をし、物凄い叫び声をあげた。その直後、トリバーの筋肉が一気に膨張した。
「スキル、マッスルフィーバー!」
マッスルフィーバーというスキル……聞いたことがある。自身の筋肉を膨張させ、筋力と俊敏性を高めるスキル。一部の戦士や格闘家がよく会得しているスキルであり、そんなにレアじゃないスキルだが、これほどの筋肉の膨張は見たことがない。
「フフフ……驚いているな。このスキルはレアではないが、鍛えれば鍛えるほど、効果は増す!」
「それが貴様の本気か」
確かにマッスルフィーバーのもう一つの効果を知って我は驚きを見せた。だが、そんなのを使ってもこの魔王には倒せない。そのことを教えてやろう。
ルハラ:アジトから離れた河辺
いやー、何なのさっきの野太い男の声? 遠くから聞こえたと思うけど、かなり響いたよ。
「トリバーの奴、本気を出したようだね」
バルサって女がこう言った。だけど、この隙を私は見逃さなかった。私は一瞬にバルサに近付き、服を剥ぎ取った。
「へ? ギャァァァァァァァァァァ!」
「おほー、いい声で鳴くねー」
「ふざけるな!」
バルサは私に飛びかかり、服を奪い取ろうとした。だけど、私は風でバルサの服をズタズタに切り裂いた。
「あああああ! 何をするの、このスケベエルフ!」
「お楽しみはこれからだよー」
ふひ……ふひひひひひ。この先の楽しみのことを考えると、笑いが止まらない。
「クソ……ふざけているだろお前……」
私の笑みを見て、バルサが睨んだ。
ヴィルソル:アジトから離れた場所
トリバーは深呼吸をした後、我に向かって襲ってきた。確かにさっきまでよりスピードが増している。
「クッ!」
我は高くジャンプをし、トリバーの突進をかわした。だが、トリバーはブレーキをかけ、我にめがけて高く飛び上がった。
「見ろ、この筋肉! 味わえ! この力を!」
トリバーの右フックが我の顔に命中した。攻撃を受けた我はそのまま地面に激突した。
「グッ……うう……」
意外と攻撃力が高い。殴られた頬がずきずきと痛む。それに、地面に激突した時に腕を痛めたようだ。
「意外とやるな」
「ハッハッハー! 死ねぇ、クソガキ!」
クソガキか……まさかこの魔王が犯罪者ごときに舐められるとは。
「愚か者。我を誰だと心得る?」
「知るかそんなこと」
返事を聞いた後、我は魔力を解放した。闇魔法ならダークマジック・ゼロで魔力の消費なしで使える。
「我は魔王、ヴィルソル・カリーノ。我に歯向かったことを公開させてやる」
「魔王か……ハッ! そんな脅しが通じると思うなよ!」
マッスルフィーバーのおかげで自信過剰になっているのだろう。トリバーは笑いながら我に向かって突っ込んできた。
「死ね、魔王!」
トリバーは再び我に向かってフックでの攻撃を仕掛けてきた。だが、そんなの攻撃……今の我には通用せん。
「シャッハァァァァァ!」
トリバーの左フックが我に襲い掛かった。だが、我は攻撃を防御し、魔力を込めて水の魔力を発動して奴を濡らし、水の温度を下げて凍らせた。
「何をするつもりだ?」
「少し動きを封じさせてもらう」
我は闇以外にも、水を扱うことができる。そのためにウォーターマジック・ゼロのスキルを習得している。あいつは自分の腕が凍ったことを察し、驚いている。
「なっ……まさか……」
「これで自慢のフック攻撃はできないな」
我は戸惑って動けないトリバーに向かい、槍で攻撃を仕掛けた。
「グワァァァァァァァァァァ!」
槍での猛攻が効いたのか、トリバーは悲鳴を上げて倒れた。マッスルフィーバーで筋肉が膨張した分、当たり判定も大きくなっている。確かに鍛えれば攻撃力とスピードが増すが、それに伴ってデメリットも大きくなっている。
「く……くそ……」
あれだけの攻撃を受けたが、トリバーは立ち上がろうとしている。ダメージを受けたせいでボロボロになり、動きも鈍くなっている。
「さて、その自慢の筋肉を奪うか」
我はトリバーに近付き、筋肉に触れた。
「イレーズフォース!」
我の手から紫色の波動が発し、トリバーを包み込んだ。
「何だ……これは?」
「このスキルのことを知らないのか? イレーズフォースは相手の強化を無効にできるスキルだ。貴様のマッスルフィーバーは強化系。どういうことか分かるだろう」
「ま……まさか……」
直後、トリバーの筋肉はガスが抜けた風船のようにしぼんでいった。力が抜けたトリバーは片膝をつき、荒く深呼吸を始めた。
「さぁ、どうする?」
我は槍を出し、トリバーに突き付けた。それに対してトリバーは銃を取り、我に突き付けた。
「お前を殺す」
「貴様では我を殺すことは無理だ」
我はトリバーの銃を蹴り上げ、そのまま槍で攻撃を始めた。
「さぁ、この戦いを終わらせるぞ」
我は魔力を練り、槍に力を込めた。闇のオーラが槍の周囲を纏い、槍の刃が氷でさらに鋭くなった。そして、闇の中に光が混じった。勇者とキスしたせいで得てしまったこの力……使うとするか!
「この一撃を受けるがいい!」
我は高く飛び上がり、地面で倒れているトリバーに向けて槍を投げた。投げられた槍は猛スピードでトリバーに向かって飛んでいき、トリバーに命中した。
「ウワァァァァァァァァァァ!」
槍が命中した直後、光と闇が混じった大爆発が起きた。爆発の中心部にいるトレバーを見て、我は思わず呟いた。
「あー……やりすぎたか……」
我は地面に降り、爆発の中心部にいると思われるトレバーを探した。しばらくし、黒焦げになっているが、何とか息をしているトレバーを見つけた。
「何とか生きているか」
トレバーの生死を確認した後、我は奴を抱えて魔力を探知した。どうやら近くでルハラが敵の女と戦っているようだ。もし、苦戦していたら援軍に行こう。
この作品が面白いと思ったら、高評価とブクマをお願いします! 感想と質問も待ってます!




