嫁たちの想い
ティーア:イベント会場跡
いちちち……魔王にやられた傷がまだ痛む。魔王が治療してくれたおかげで大分スッキリはしたけれど。
「勇者、動けるか?」
「まーね。それよりも……」
私の傷よりも優先しないといけないのは、ケンジとナルセの戦い。私はケンジと同じ呪文をかけられたと思っていたのだが、どうやらケンジは違う呪文もかけられたようだ。私とヴァリエーレに使用した呪文よりも強い操りの呪文だろう。
「さて、行くとしよう」
「うん。ナルセを助けないと」
こんな所でじっと時間が流れるのを待っていられない。ルハラとヴァリエーレもナルセの援護に入った。私も頑張らないと。
成瀬:イベント会場跡
援護に入ったルハラとヴァリエーレさんのおかげで、私の傷は回復できた。ルハラが剣地を相手に戦っているが、かなり苦戦しているようだ。ジョンの方は……今ガルートスの人たちと協力してペルを追い詰めているようだ。ジョンの野郎に黒幕を任すのはちょっと嫌だけど。この状況じゃあ仕方ない。さっさと剣地を元に戻してジョンの所に行こう。
「おっとっとー」
ルハラが回転しながら私とヴァリエーレさんの元へ戻ってきた。かなり傷を負っているようだ。
「いつものケンジじゃないね。本気で殺すつもりみたい」
「傷が多いわね、大丈夫ルハラ?」
「何とかね」
ルハラはそう言っているが、体には多数の切り傷があり、少し感電しているせいか、時折ルハラは小さく体を震わせていた。ルハラの様子を見ていると、ヴァリエーレさんが武器を持ってこう言った。
「ルハラ、私がやるわ」
「治療は終わったの?」
「終わったわ。それに、ティーアとヴィルソルも復活したみたいだし」
後ろには私たちの援護にきたティーアとヴィルソルが立っていた。ティーアの傷は治ったようだ。
「ごめん、迷惑かけたね」
「我と勇者、ナルセでケンジと戦う。ヴァリエーレはルハラの治療が終わったらきてくれ」
「大丈夫だよー。今傷治ったから」
どうやら会話中にルハラは傷の手当てをしていたようだ。だが、その隙に剣地も私たちの元へ突っ込んできた。迎え撃つ準備はできている。
「行くわよ、皆!」
私の声を聞き、皆は一斉に魔力を込めた。
「うごァァァァァァァァァァ!」
剣地の狙いはルハラ。さっき戦って傷つけたため、すぐに倒すことができると考えたのだろう。だが、ルハラは治療を終えて完全に復活したし、その前にはティーアとヴィルソルが武器を持って立っている。
「加減はするからね」
「元に戻させる! 意地でも!」
二人はそれぞれ光と闇を発し、一つに合わせて合体した魔力を作り出し、剣地にぶつけた。とんでもない大きさで、すごい力を感じているが、この攻撃を受けても死なないように加減はしてあるようだ。それなら安心。剣地は合体した魔力に命中し、悲鳴を上げた。
「ぐわァァァァァァァァァァ!」
「次は私よ、元に戻ってケンジ!」
ヴァリエーレさんが剣を持って接近し、加減して攻撃を行った。素早い剣の攻撃が剣地を襲ってはいるが、どれも傷は浅い。
「ルハラ、次はお願い!」
「あいあーい」
ルハラは剣地に接近し、みぞおちを殴った。
「うごぉ!」
この攻撃がかなり効いたのか、剣地はみぞおちを抑えながらうずくまった。その隙にルハラは剣地の襟元を掴み、私の方を見た。
「ナルセ、最後は任せたよ! ケンジを任せた!」
「ええ。分かったわ!」
ルハラの声を聞き、私は魔力を開放した。その時、私の魔力を感じたティーアが恐る恐るこう言った。
「あの……力出しすぎじゃないの?」
「大丈夫、剣地がああ見えて頑丈なのは私が一番知っているから!」
「うん。それは私もケンジの嫁だから知っているけどさ、いくら何でもこの魔力は……」
「大丈夫よ、剣地を信じて! さぁ、やるわよ剣地!」
ルハラは剣地を掴んで私の方へ放り投げた。私は両手を前に出し、解放した魔力を一気に放出した。その魔力は大きな塊となり、虹が混ざったような色をしていた。その時、ヴィルソルが慌ててこう言った。
「まさか、全属性の魔力をこの塊に……」
「ええ。これさえ当てれば剣地も元に戻るわ!」
私がこう言った直後、剣地が迫って来た。どうやらみぞおちのダメージも回復し、着地して私に攻撃を仕掛けようと考えているようだ。そうはさせない。この一撃で元に戻す!
「元に戻りなさい、バカ剣地!」
私は大声と共に、魔力の塊を剣地に向けて発射した。猛スピードで飛んで行く魔力の塊は剣地を飲み込み、空高く浮き始めた。
「うわー」
「ナルセ……私はやりすぎだと思うわ」
「魔王、治療の準備を」
「勇者も準備をしてくれ」
皆の声が聞こえる。皆剣地を心配していると思うけど……私がやりすぎたって声も上がっているわ。でも、これで戻れば何もかもが……。
「うわァァァァァァァァァァ! ぎょェェェェェェェェェェ! ピッギャァァァァァァァァァァ!」
魔力の中から属性同士がぶつかり合う強烈な音に混じり、剣地の悲鳴も聞こえる。
「助けてェェェェェ! 何で俺だけこんな目にィィィィィ!」
この攻撃を受けて剣地は我に戻ったようだ。私は急いで塊が破裂するように操作したが、破裂した際の衝撃で剣地は猛スピードで地面に激突した。
「ぐ……ふぅ……な……成瀬……いくら何でも……これは……酷い」
と言って、剣地はその場に倒れた。ちょ……ちょっとやりすぎたかな? でも、元に戻ったし……よかった……のかな?
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