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リーナ姫の涙


剣地:城内に設置された墓場


 戦いの翌日、場内ではあの戦いで犠牲になった兵士の葬式が行われていた。同僚の兵士がセントラー王国の紋章が描かれた盾を掲げ、涙を流していた。俺たちはリーナ姫の周りにいる。空気を読まない裏ギルドのことだ、この葬式の最中に襲ってくる可能性は十分にある。だから姫を守らないといけないのだ。


 葬式が始まって数時間後、死んだ兵士の棺桶は外に運ばれ、墓の中へ入れられた。それで葬式は終わりだという。


「では、葬儀を終了します。皆様、もう一度亡くなった人たちを思い出しながら、祈りをささげてください……」


 僧侶がこう言うと、皆目をつぶって犠牲者のために祈りを始めた。俺たちも目をつぶって祈り始めた。


 葬式が終わり、俺たちはリーナ姫の部屋へ戻っていた。


「皆さん、本日はお疲れ様です」


「いやー、何もなくて安心したよー」


 ルハラが緊張感から解放されたのか、いつもの口調でこう言った。


「ルハラ、素に戻っているわよ」


「いいじゃん。気を楽にしようよ。ほら、ほらほらほら」


 ルハラはヴァリエーレさんに近付き、胸を揉み始めた。こんな状況でよくセクハラができるな、こいつ。


「ま、相も変わらずの方がやりやすいか」


 ヴィルソルの言うとおり、少し楽にした方が仕事はやりやすい……というか気が楽になるか。


「食事が出される前に、皆様はどうしますか?」


「ここで待機しています」


「分かりました……私は少し、ベランダの方にいますね」


 と言って、リーナ姫はベランダへ行ってしまった。


「俺、ベランダへ行ってくる。成瀬たちは部屋に侵入者が入ってこないか見張ってくれ」


「分かったわ」


「ケンジ、昨日みたいに強い奴がいる可能性もあるってこと、忘れないでね」


 成瀬とティーアの言葉に俺は頷き、ベランダへ向かった。


 葬式の時は城内関係者がたくさんいたから襲えなかったと思うが、今はベランダで姫様が多分一人だ。こんな状況、相手にとっては好都合のはずだ。急がねーと!


 俺がベランダへたどり着くと、リーナ姫はその場でうずくまっていた。やばい、やられてしまったか?


「リーナ姫!」


「はっ、ケンジ!」


 リーナ姫は俺の言葉を聞き、振り返った。泣いていたのか分からないけど、目はかなり充血していた。


「無事ですか? 変な奴らに襲われはしませんでした?」


「え……ええ……」


 リーナ姫は返事をすると、俺に近付いた。


「すみません。狙われている中、一人で行動してしまって……」


「いや、そんなことないですよ。無事だったから」


 俺は笑顔でフォローをしたが、リーナ姫の顔は変わらなかった。


「どうかしましたか?」


「どうしてこんなことに……」


 リーナ姫は俺に近付くと、俺を抱きしめて泣き始めた。


「私のせいで無関係の人の命が奪われる。兵士の命が無駄に奪われることが……もう我慢できません……皆様はいい人です。いい人ばかりです! なのに……どうして命を奪うなどと野蛮なことをしてくるのでしょうか……もう嫌です」


 どうやら姫は、自分のせいで無関係の人たちが死んでいくのが嫌な様子だ。当たり前だ。自分を守って人が死んでいくなんて、精神面で耐えることができない。この数日でたくさんの兵士が死んだ。クァレバの連中が手をかけたのだが……そいつらに仕事を依頼した黒幕も同罪だ! 必ず見つけ出してぶっ飛ばしてやる!


「姫様。これ以上奴らの思い通りにはいかせませんよ」


「ケンジ……」


「私たちが必ず奴らをぶっ飛ばしますので」


 後ろから成瀬たちの声が聞こえた。あーあ、カッコつけようとしたのになー。


「おい、ここは俺が決める場面じゃねーか」


「すいませんでしたね、ラブシーンの途中で」


 成瀬が皮肉交じりにこう言った。クソッ、何がラブシーンだ!


「あのなー、嫉妬するなよ! 俺はリーナ姫を慰めていただけだ!」


「どれどれ……」


 ルハラは俺に近付き、股間を握りしめた。


「うがぁっ! な……何すんだ?」


「硬くはなってない。大丈夫だよー、今のケンジに下心は存在してないよー」


「そんなこと確認しなくても分かります!」


 と、ヴァリエーレさんが大声で叫んだ。その後、成瀬たちは俺とリーナ姫に近付き、こう言った。


「姫様。あなたを狙った奴を倒すため、私たちを雇ったのですよね」


「悪い奴らは私たちがやっつけますので安心してください!」


「魔王に挑もうとする奴らは皆、空へ吹き飛ばしてやるわ!」


「皆様……」


 ふぅ……やーっとリーナ姫に笑顔が戻った。成瀬たちがきてくれたから、安心したな。


「今は悲しいと思いますが、いつか絶対に心の底から笑顔になる時がきます。クァレバの連中と黒幕は俺たちで退治します。安心してください」


「皆様……ありがとうございます」


 と、笑顔に戻ったリーナ姫は俺たちにこう言った。


 たくさんの兵士たちを失い、つらい状況の中だとは分かっている。だけど、兵士たちも辛そうな姫の顔を見ていたら多分成仏できないだろう。だけど、この笑顔と俺たちの誓いを聞いて、安心して成仏……してくれたらいいな。とにかくだ! 兵士たちの仇も取りたいし、とっととクァレバの連中と戦おう!




 城から離れた砦の中。そこへ派手な車が門の前に到着した。運転手は窓を開け、口を開いた。


「私だ。仕事の話がある!」


 と、助手席に座っていたスピーカーに向けて叫ぶと、目の前の門が大きな音を立てて上へ上がった。車は砦の中へ入り、入り口前に駐車した。そして、助手席から黒いマントを羽織った肥満の男が現れた。


「お前はそこで待機しろ」


「はっ」


 付き添いの運転手を車の中へ待機させ、自分は砦の中へ入って行った。


「おいレッジ! レッジはどこだ?」


「ここにいますよ。ピレプさん」


 レッジはあくびをしながらトイレから出てきた。


「便所くらいゆっくりさせてくださいよ」


「貴様、仕事はどうした?」


 ピレプは睨みながら、レッジに問い詰めた。レッジはハンカチで手を拭きながら、ピレプの質問にこう答えた。


「状況が変わりました。姫の暗殺に向かったエバーソンとイッシュが帰ってこない」


「雑兵など気にするな!」


「うちは団員を雑には扱わない。ただ、裏切り者は殺しますがね」


 レッジはピレプに返事をしながら、後ろを向いて去って行った。その時、顔を赤く染めるレッジにこう言った。


「仕事はやりますよ、言われた通りにね」


「早めに頼むぞ! 早くリーナを殺さないと私が王の座に就くことはない! できれば、一週間以内か、王が死ぬ前に!」


 この言葉を聞き、レッジは足を止め、指を指してこう言った。


「じゃあ報酬金を百万ネカ追加で」


「ひゃ……百万も? 前金で百五十万を貰っておきながら!」


「その時は期限について何も言わなかったでしょうが。だから遅くなってもいいのかなーって思いましてね」


「客を待たすのではない!」


「黙れ、豚野郎」


 レッジはナイフを取り出し、ピレプの後ろの首筋に当てた。その時、ピレプの目にはレッジの動きが見えなかった。


「俺は真面目な人間でしてねぇ。あんたが期限内に始末しろと言わなかったから、姫を殺すのが一年先になっちまっても大丈夫かと思いましてねぇ」


「あ……あの……その……」


「こっちも一応作戦練って仕事をしているので、もし早く殺したければそれ相当の金を用意してもらいませんかねぇ?」


「わ……分かった」


「じゃあお願いします。あ、受け渡しは現金でお願いします」


 と、レッジは腰を抜かしたピレプに向かってこう言った。


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