海の底で散る命
ティーア:海の遺跡
まずいことになった。落とし穴だらけの部屋でビークとの戦いになりそうだ。ヴァリエーレに抱えられたままの状態から抜け出した私は、魔力を開放して皆にこう言った。
「魔力を開放して、高く飛び上がって! 部屋の中央なら穴が少ないから戦えるかも!」
部屋の中央には穴があまり存在しなかった。もし、奴がここにくるとしたら、迎え撃つのに適している場所はそこしかない。私はそう思いながらジャンプしようとしたが、急に体が重くなった。
「勇者! どうしたのだ、急に落ちおって!」
「落ちたくて落ちたわけじゃないよ……急に……体が重くなった」
私の言葉を聞き、ヴァリエーレがまさかと呟いた。気になった私と魔王はヴァリエーレに近付いた。
「何がまさかなのじゃ?」
「もしかして、この部屋の罠として穴の他にも、高く飛び上がらないような仕掛けがあるかもしれないって思って……」
「思って……じゃないよ。あるよ、その仕掛け。この部屋を考えた人はかなり心が狭いと言うか、陰湿なことを考えるね。魔力を開放して高く飛べないように仕掛けを作るなんて」
「侵入者を始末するために作ったわけじゃからな。当然じゃ」
その時、私は扉の向こう側からビークの叫び声を耳にした。
「まずいわ、話している場合じゃないわ!」
「早く部屋の中央に行かないと!」
私たちは大慌てで移動を始めた。しかし、穴が多いため、むやみに走って移動はできない。部屋の中央まではそれなりの距離だが、もうビークの声がすぐ近くまで聞こえている。
「奴が近い。急いで向かうぞ!」
「いや……もう奴はもうすぐそこにいるよ!」
私がこう言った直後、扉の入口からビークの姿が見えた。奴の皮膚はさらに真っ赤になっており、血管の筋も大きくなっていた。それと、異常なほど汗をかいていた。
「あいつの血管かなり太くなっているよ」
「いずれ破裂するかもしれぬ」
私とヴァリエーレが話をする中、ビークは大声を上げて私たちに向かって走ってきた。
「くるぞ!」
奴が迫っていると察し、私たちは走り始めた。何とか部屋の中央にたどり着き、武器を構えて魔力を解放した。ここで奴と決着をつけてやる!
しばらくし、ビークは部屋の中央までたどり着いた。
「グッガァァァァァァァァァァ!」
ビークは大声と共に腕を大きく振り上げて攻撃を仕掛けてきた。私たちは攻撃をかわしたが、地面にめり込んだ奴の腕は床を破壊し、周囲に破片を散らばせた。
「グ……グギャァァァァァァァァァァ!」
攻撃を外したが、ビークはまた大声を発して近くにいたヴィルソルに向かって襲い掛かった。
「魔王!」
ティーアがヴィルソルに向かって叫んだが、ヴィルソルは身動きしなかった。攻撃が迫っているのに何で動かないの? ヴィルソル、早く動いて!
「慌てるな、勇者。戦わなくて済みそうだ……こいつはもう終わりだ……」
ヴィルソルが声を出した直後、ビークの動きが止まった。苦しそうにもがき始め、しばらくして左胸を抑えた。ヴィルソルはビークに近付き、魔力で治療を始めた。
「おい、しっかりしろ」
「魔王。どうして奴の容態が悪いって分かったの?」
ティーアがこう聞くと、ヴィルソルは治療をしたまま話をした。
「血管がかなり膨れ上がり、魔力の動きもおかしい所があった。勇者とヴァリエーレは気が付かなかったのか?」
「魔力はおかしいと思ったけど……」
「私としては、いつ倒れてもおかしくないと思っていた」
「じゃろうな。我もいつ倒れるか分からなかったが、流れる汗の量が異常じゃったから、もしやと思った」
その時、ビークの腕が動き出した。私は武器を構えたが、ヴィルソルが武器を下ろせと言った。
「止めろ、ヴァリエーレ。こいつにもう戦う力はない」
「だけど……」
「ヘッ……分かっていたのか、嬢ちゃん……」
ビークはこう言って立ち上がり、苦しそうな足取りで歩き始めた。
「おい歩くな! まだ治癒は終わっておらぬぞ!」
「無駄だよ。もう心臓が破裂しそうだ。魔力で血の流れを変えても無駄さ。結局また早くなる。グファッ!」
ビークは吐血した後、虚ろな目で私たちの方を向いた。
「ここまでしてくれて悪いが……オイラの人生はここで終わりのようだ」
「終わらせぬ。生きて罪を償え」
「そうはいかないようだ。法がオイラを裁くより……天がオイラを裁いたようだ。今まで悪いことばかりしてきたから、その報いがきたようだ」
その直後、ビークは再び吐血した。それもさっきの吐血よりも、血の量が多い。
「敵のオイラを……回復してくれてありがと……あんたたちみたいなギルドの戦士も……いるって知ったよ。優しい戦士が……」
ビークがこう言った直後、両目が開き、口や鼻、耳から血が流れた。そして、ビークの体は後ろに倒れ、穴へ落ちて行った。私たちはビークの体を捕まえようとしたが、部屋の仕掛けで重力が発生しているのか、ビークの体は猛スピードで落ちた。
「死ぬことはないのに……」
落下していくビークの体を見ながら、私は小さく呟いた。
家光とニートゥムと行動しているアセックは、何かに気付いて立ち止まった。
「ビークの魔力が完全に消えた」
「逝ってしまいましたか」
家光はアセックに近付いてこう聞いた。アセックは短い返事をし、ため息を吐いた。
「悪い奴じゃなかった。あいつは、仲間想いの良い奴だった」
「ですが、ここで立ち止まっていてはいけません。さっきも言いました」
「だな。これを終わらせた後で盛大に葬式を開こう」
そう言って、アセックは立ち上がって歩き始めた。
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