闇を持った勇者
ティーア:城内の廊下
城に入ってきた侵入者との戦いが始まろうとしている。
「ケンジ、片方の相手はできる? 私は電気の鞭使いを相手にするわ」
「オッケー。すぐに片づけてくるから」
ケンジの言葉を聞いたのか、氷使いの男が嫌な顔をしてこう言った。
「俺、結構格下に見られている」
「ぶっ殺して強いってこと見せつけてやれ」
「おうよ」
あいつらも、二手に分かれて私とケンジに挑むようだ。一対一の戦いだ。この戦い、絶対に負けられない!
成瀬:リーナ姫の部屋
部屋の中で警報が鳴り響いている。剣地とティーアは侵入者と戦っているのだろうか?
「侵入者ですか……どうしてこんなことに……」
リーナ姫は恐怖のあまり、動揺している。自分の命を狙う奴がここに乗り込んできたんだ。動揺するに決まっている。
「大丈夫です。何かあったら私たちが守りますので」
「安心してー」
ヴァリエーレさんとルハラがリーナ姫の横で座っている。何かあっても安全だ。
「おいナルセ。我に力を貸してくれ。魔力のバリアでこの部屋を囲む」
「分かったわ」
私はヴィルソルの背中に触り、自分の魔力をヴィルソルに注いだ。
「すごい魔力だ……この魔力ならとても強力なバリアを作れる」
この直後、部屋全体を囲うように紫色の壁が生まれた。
「ふう。この位のバリアなら攻撃を受けてもびくともしないだろう」
「そうね。後は二人の無事を祈りましょう」
私はこう言った。今は剣地とティーアの無事を祈るしかない。無事に帰ってきてね。
ティーア:城内の廊下
この男、電気と鞭を使っての攻撃が得意と見た。さらに、電撃を纏う鞭は剣のように鋭い。兵士を斬ってしまったのだから、かなりの威力があるのだろう。あれに触れたらまずいな。
「さてと。じゃあさっさと死んじゃってね」
「悪いけど、あんたみたいな三下に私は殺せないわ」
私は思ったことを相手にぶつけた。その言葉を受けた相手は、少し苛立ったのか舌打ちをした。
「調子に乗るな、クソガキ!」
相手は鞭に電撃を纏わせ、私に向けて降ってきた。私は盾を手にし、相手の攻撃を防御した。盾からちょっと電撃が伝わったせいか少し痺れたけど、それだけだ。
「チッ、盾持ちかよ」
「もう終わり? じゃあこっちから行くわよ」
私は右手に剣を持ち、左手の盾を前に突き出しながら相手に向かって走って行った。
「おいおい。むやみに突っ込むと怪我するぜ」
男は鞭をしまい、両手に電撃を発して床にぶつけた。
「感電しちまいな」
床に電気を流し、私を感電させる気なのだろうか。だが、そんな手には乗らない。私は空高く飛び上がり、相手の頭上まで近づいた。
「甘いな、嬢ちゃん」
男は左手の人差し指を私に向け、電気を放った。こうくることは予想していた。私は盾で電撃を防御し、盾を突き出したまま相手の頭上に落下した。
「よっと。盾で俺を殴ろうとしていたのか?」
「攻撃の策を相手に言うバカはいないよ」
攻撃のために私は盾を突き出したわけじゃない。安全に相手の懐に潜るためだ。
男は左手に電撃を纏い、私を殴ろうとしている。じゃあ、このままカウンターをしよう。私はそう思い、相手の攻撃を待った。
「カウンター狙いか? 無駄だぜ、嬢ちゃん」
何? しまった、左手に纏っている電撃の一部が、私の体に命中した!
「電気が引っ付いたな」
その直後、私の体中に電撃が走った。私の悲鳴を聞き、男はにやりと笑っていた。
「いい声で鳴くねぇ。このまま絶頂してあの世へ逝くのはどうだい?」
クソッ、体が痺れて何もできない! 男は鞭を手に取り、私を狙っている! 一か八か……魔力で攻撃するしかない!
そう思った私は無我夢中で魔力を練り始めた。だが、いつも使っている光属性の魔力とは、少し感じが違った。何故か、禍々しい雰囲気を感じている。男も私が発している魔力を見て、驚いている。
「嘘だろ……闇属性の魔法だと……」
嘘と言いたいのは私の方だ。どうしていきなり闇属性の魔力が使えるのか? 知りたいのは私の方だ。私は昔から光属性の魔力しか使えないのに。
考えるのは後にしよう。丁度相手は闇の属性の魔力を見て、油断している。体中に走っている電撃もさっきより比べて弱くなっている。今がチャンスだ!
「いっけェェェェェ!」
私は闇を矢のような形にし、男に向けて投げた。闇の矢は男の右足に命中、奥深く刺さって行った。
「うげっ!」
闇の矢が消えた後、私は男に接近し、思いっきりぶん殴ってやった。殴られた男は壁の方まで吹き飛び、かなり強く体をぶつけた。
「げぇぇっ……」
男は悲鳴を上げ、白目をむいた。ふぅ。何とかこっちは片付いた……。
だけど問題は残っている。どうして私が闇属性の魔力を使えたのか? ふと、左手の甲を見ると、一族に伝わる剣と盾の紋章以外にも、魔王の紋章とエルフの紋章が浮かんでいたのだ。まさか……ケンジとチューした時に……私は魔王とルハラともキスしたってこと? うっそォォォォォ!
ヴィルソル:リーナ姫の部屋
外が騒がしいな。あの二人、派手に戦っているのか? 我はそう思いながら姫を守っていた。魔王が姫を守るとは……少しおかしな状況じゃのう。
さて、何かあっても大丈夫なように、少し魔力を使って体を動かそう。我はそう思い、魔力を発しようとした。だが、その時変な違和感に襲われた。何故か体の中が太陽で照らされているかのように暖かい。変だなと思いつつ、魔力を発してみた。すると、我の手の上には光の魔力の弾が生まれていた。おかしい。我ら魔族は基本的に闇属性と他の魔力を使うが、光の魔力は使えないのだ。
「やはりか」
初めてケンジとキスした時、流れで皆と交わったことをうっすらと思いだした。もちろん、一時のテンションに身を任し、勇者ともキスした。このせいで、我にも勇者の血が流れ、光魔力が使えるようになってしまったのか。
「光を使う魔王って……ありなのか?」
我は小さく呟いた。
ティーア:城内の廊下
私がその場で座っていると、気絶した男が立ち上がってこちらを睨んでいた。結構回復力あるな、あの男。
「クソガキが、クァレバのエバーソンを甘く見るなよ。確実にぶっ殺してやる」
あいつの名前、エバーソンって名前なのか。どうでもいい、どうせ今から倒す男の名前なんて、憶えていても無駄だし。
「死ね! クソガキィ!」
エバーソンは電撃で鋭く尖った剣を持ち、私に向かって走ってきた。剣で私に戦うなんて、なんて無謀だろう。あの構え方、どうやらエバーソンはソードマスターのスキルを持っていない。やけになってこっちにきているのだろう。
「三下相手に使うのはもったいないけど、勇者の本気を見せてあげるわ」
私は剣を装備し、魔力を剣に練りこんだ。闇の魔力が使えると知った今、その力を使うしかない。魔力を剣に練りこんだ結果、刃部分には光と闇が混じり、激しく唸るような音が響いていた。それを見たエバーソンは、少しビビっていたけど攻撃を仕掛けようとする気持ちは変わらなかったみたい。
「受けなさい、光と闇の剣を」
エバーソンに向け、私は剣を振り下ろした。振り下ろした瞬間、エバーソンは何が起きたか分からなかったようだ。あいつの体を見ると、剣で切られた傷ができている。だけどそんなに深い傷じゃない。だけど、あいつの様子が少しおかしい。
「体が熱い……傷が熱い……」
その直後、あいつの体から光と闇の波動が放たれた。しばらくし、エバーソンは短い悲鳴を上げてその場に倒れた。私は倒れたエバーソンに近付き、生きているかどうか調べた。どうやら生きているみたい。まぁ……なにはともあれこいつとの戦いに勝利したみたい。
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