オノブたちの過去
剣地:ココチーノ山道
一時はどうなるかと思った。成瀬たちがあいつらを倒さなければ、今頃俺とルハラとヴィルソルは生き埋めにされていた。
「ケンジ、傷はない?」
ヴァリエーレさんが、俺に近付いてこう聞いた。地面に埋もれかけただけで、特に怪我を負ったということはない、ただ、さっきの戦いで成瀬たちが疲れの表情を見せている。うーん。先に行きたいけど、ここは成瀬たちを休ませないと。
「怪我は大丈夫です。それより、ヴァリエーレさんたちは戦ったから休んだ方がいいじゃないですか?」
「そうね……」
「剣地の言うとおりだわ。もう辺りも暗いし、先に進むのは止めましょう」
「さんせー」
と言うわけで、俺たちはここで野宿をすることになった。うーん、キャンプセットとか持ってくればよかったな。
俺たちは一つに集まり、焚火の前で座っていた。
「ねぇ、アオーラまであとどの位かな?」
と、ティーアがこう言った。
「順調に行けば、明日辺りに着くと思うわ」
「ただ、奴らの手先がいるかもしれんな」
ヴァリエーレさん曰く、順調に行けば明日に到着するとのこと。しかし、ヴィルソルの言うとおり、奴らが雇った裏ギルドの連中と戦うかもしれない。時間はかかりそうだ。
「ねー、オノブさんたちはどうなっているかなー?」
ルハラが俺の袖を引っ張ってこう聞いてきた。そうだ、さっきの戦いで忘れていた。オノブさんたちは飛行船の改造で山のふもとにいる。終わったら合流すると言っていたけど。
「うーん……俺も分からんな」
「ん? 何この音?」
俺の横で目をつぶっていた成瀬がこう言った。耳を澄ますと、何か音が聞こえてくる。それは徐々に俺たちの方へ近づいていた。
「飛行船の音?」
「噂をすれば何とやら。多分オノブさんだ」
しばらくすると、オハリの飛行船が俺たちに向かって近づいてきている。山を越えられるように装備を変えたのか、いろんな部品が付いていた。
「おーい皆―! 迎えにきたぞー!」
メガホンでも使っているのか、大きなオノブさんの声が俺たちの耳に聞こえた。
ヴァリエーレ:オハリの飛行船
オノブさんたちが聞くれたおかげで、ゆっくりと休むことができる。野宿をしていたら、疲れた体を癒すことなんてできない。空なら連中が襲ってくることはまずないだろうし、安心して眠れると、皆は思っているのだろう。
今、私は外に出て風を浴びている。他の皆は疲れているのか、部屋で眠っている。
「ヴァリエーレ、お主は寝ないのか?」
「ええ。今、そういう気分じゃないの」
私は近付いてきたオノブさんにこう答えた。ずっと疑問に思っていた。オノブさんは快く私たちを迎えてくれたけど、本当にいい人なのだろうかと思っている。それに、あの人がケンジとナルセの名前を呼ぶ時、私たちと発音が少し違うような気がする。
「オノブさん、あなたは一体何者ですか?」
「ほへ? おわっちゃ!」
変なことを聞かれたと思ったのだろうな。オノブさんは慌ててしまったせいで、お茶が入ったマグカップを落としてしまった。
「何者って……わしゃただのエルフの旅団の団長じゃ」
「本当ですか?」
私の顔を見てか、オノブさんは観念したような表情を見せた。
「お主のようなしっかり者が嫁なら、剣地の奴は幸せじゃのう。わしらについて、話をしないとな。いろいろ話すことがあって長くなるから、明日になったら改めて剣地たちにあれこれ話す」
「明日ですか……」
「今日はもう遅い。夜更かしは健康の大敵じゃ」
そう言って、オノブさんは去って行った。一体、オノブさんは何者だろう……。
翌日、オノブさんとタトミさん、ニッコーさんが私たちの部屋にきていた。
「今からわしらのことを話す。かーなーりー重要だと思うから、ちゃんと聞けよー」
オノブさんはそう言って、咳ばらいをした。緊張感がないのか、皆はリラックスしていた。
「実はのう、わしらも剣地と成瀬と同じように転生者じゃ」
この後、少し間が流れた。このセリフを理解したのはその数秒後だった。
「うェェェェェェェェェ! オノブさんも転生していたの!」
「どこからきたの? どこ? どこどこどこどこどこどこ?」
「一体何者なのじゃお主ら?」
「静かに。今から話すっつーのに」
騒ぎ始めるルハラたちを静かにした後、オノブさんは剣地と成瀬を見て、こう言った。
「わしらも剣地と成瀬と同じ、日本からきた。ただ、時代が少し違うようじゃが」
「時代が違う? じゃあいつ転生したのですか?」
成瀬の質問を聞いた後、オノブさんは考えながら答えた。
「えーっと……多分五百年前以上。それより、剣地、成瀬、お主らはわしらが何者か知りたいじゃろ?」
「はい。日本の人に会えてなんか嬉しいです」
「よーし、ちゃんと聞いとけよ……日本にいた時のわしの名前は織田信長。改めてよろしくの」
オダ……ノブナガ……多分、これがオノブさんの正式な名前なのだろうか。もしかしたら、転生した時に名前を改めた可能性もあるけど。それよりも、正式な名前を聞いたケンジとナルセの動きが固まっている。もしかして、ニホンって国ではそうとうな有名人だったのだろう。
「成瀬……俺ら、すごい人と仲良くなっていたな……」
「ええ。まさか、教科書に載るような人と一緒に行動していたなんて……」
「あれ? もしかして、わしって未来の日本ではかなりの有名人か? こりゃまいったのう」
オノブさんは笑いながらこう言った。まぁ、悪い人ではないということが分かっただけでもいいだろう。
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