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勇者が剣地に惚れたわけ


剣地:ギルドの部屋


 険悪な空気が部屋を支配している。そんな空気を知らず、ティーアとかいう勇者は俺の膝の上に座っている。初めて会った時、未来の旦那様とか言ってたけど、本気で言っているのだろうか?


「なぁティーア……だっけ? そろそろ降りてくれないか?」


「どうして?」


「周り見てみろ」


 ティーアに周囲を見ろと俺は促した。成瀬はすごい形相で睨んでいるし、ヴァリエーレさんも少し軽蔑した目をしている。だが、ルハラはいつも通りだった。


「どうしてそんな顔で私を見るの?」


「初めてあった人に未来の旦那様とか言うからだよ。というか、俺は君のことを知らん。そもそも勇者の存在すら知らなかったし」


「自己紹介だけでは足りないのね」


 部屋に入る前、ティーアは俺たちに自己紹介をしている。


 フルネームはティーア・コラジェム。年齢は俺と成瀬の一つ下の十四歳。スキルはソードマスター。それとアックスマスターとスピアマスターというのがある。斧と槍を使えることができるスキルと俺は察した。他のスキルはブレイブソウルとライトマジック・ゼロ。ライトマジック・ゼロは魔力消費なしで光の魔力が出せるとかだろう。


 で、あいつは自己紹介の最後でケンジの嫁に、私はなると、どこかの海賊王を目指す麦わら帽子のゴム少年が言ったようなセリフを成瀬たちに言い放った。それから、成瀬たちは機嫌が悪いのだ。


「ケンジ、暇だし町を案内してよ」


「私がするわ!」


「行きましょう、勇者様」


「面白そうだし私も付いてくねー」


 と、成瀬たちが立ち上がり、文句を言うティーアを連れて去って行った。部屋に残された俺は、暇だったので銃の手入れを始めた。というか、あんな険悪な状態で町の案内とか大丈夫かよ。




成瀬:ロイボの町


 私はティーアを連れて町に出た。イライラしているのは、この子が剣地と結婚したいと言ったからじゃない。不安なのだ。私たちとこの子は互いのことを分かっていない。性格とか、どんな人間なのか理解をしていないのだ。それなのに軽々と嫁になる宣言をした。一体どんなことを考えてあんなことをしたのだろう?


「ねぇ、どうしてケンジの嫁になりたいの?」


 いつもより真面目な雰囲気で、ルハラがティーアに問い詰めた。


「勇者の勘ね」


「勘?」


「そう。この人と私の相性はバッチリってこと」


 勘。そんな理由でこの子は剣地と結婚しようとしているの?


「あのねぇ、剣地という人間を理解していない状態で、結婚するとか言っちゃダメよ」


「勘の他にも理由はある」


「何?」


「性格」


 前の答えと違い、真面目な返答が帰ってきた。予想外の答えを聞いて私は黙った。


「ベロラーダの事件のことは知っているわ。名の知れた奴の汚職事件に首を突っ込むなんて他の人はやらないわ。ケンジは曲がったことが大嫌いでしょ?」


「そうかもしれない」


 長い間、ずっと剣地と一緒にいたけれど、確かにあいつはたまにどうしようもないスケベな部分がある。しかし、困っている人は見過ごせないし、不正や悪事は大嫌いだ。


「あなたはケンジのそういう部分に惹かれたの?」


 ヴァリエーレさんがこう聞くと、ティーアは威勢のいい返事を返した。


「うん。それで私は確信した、仲間にするなら彼がいいと!」


「もし、私たちがケンジを連れて行くのを阻止したら?」


 ヴァリエーレさんがこう言うと、ティーアは少し笑ってこう言った。


「強引にでも連れていく」


「じゃあ分かった。しばらく一緒に住む?」


 と、ルハラがこう言った。この言葉を聞いた私たちは目を点にして驚いていた。


「どうしてそうなるの?」


「互いを深く知るためだよ。このまま騒いでいても何にも解決しないし、私たちが何か言ってもこの子は言うことを聞かないと思うよ。だったらしばらく住んで互いを理解した方がいいと思う。それに、まだ魔王は動き始めてそんなに時間は経っていない。向こうの情報がないと何もできないよね。あと、ケンジだけ魔王退治には行かせないよ。行くなら私たちも行く」


「ふむ……確かに……」


「ルハラ……話を聞いてないと思ったけど、一応考えがあったのね」


 そうだった。ティーアが動き出したのは魔王の存在がある。確かに魔王が動いたと知っても、相手がどう動いているのか、何を目的に動き出したのかまったくもって分からない。


「ではしばらく世話になるかもしれないけど」


「私はどっちでも構わないよ。ナルセとヴァリエーレさんはどうするの?」


 私とヴァリエーレさんはしばらく考えた。そして、出した答えは。




剣地:ギルドの部屋


「しばらくティーアがここに住む?」


 俺が知らない間に話が進展していた。何がどうしたらティーアがここに住む流れになった?


「理由はある。ケンジのことを深く理解するためと、魔王の情報が入るまで待機」


「食費の分はティーアがギルドで稼ぐって言っているわ」


「居候分のお金は大丈夫だね」


「それに、まだベロラーダの事件の時とシキヨーク町長の事件解決でもらったお金はあるし」


 どうやら成瀬たちはティーアの居候に賛成のようだ。俺もその意見に乗るしかない。それに、反対する理由もないし。


「分かった」


「うわーい!」


 俺の返事を聞いたティーアが俺に抱き着いた。


「しばらくは一緒に寝ようねー!」


「ちょっと待てよ……一緒に寝るって言ったって……」


 俺はベッドの方を見た。今、寝る時は四人で一つのベッドを使っている。一人増えたら大変なことになる。いろんな意味で。


「大丈夫だ! 夜のことについては勉強済みだよ」


「誰だ、十四歳の子にとんでもないことを吹き込んだ奴は?」


「私の師匠」


「大丈夫かその師匠?」


 とまぁ……いろいろあって勇者がうちに住むことになりました。


 夕食後、ティーアは目をつぶって何かをしていた。周りからは魔力が発生しているし、修行でもしているかと俺は思った。


「ふぅ……あいつの動きが分からないな……」


 目を開け、ティーアが息を吐きながらこう言った。


「あいつって誰?」


「魔王。あいつらがどうして動き出したのか、何を目的としているかまだ分からないの」


 こんな時でも、ティーアは魔王のことを考えていた。というか、魔王ってこの世界じゃあどんな存在か俺知らなかった。


「なぁ、魔王ってどんな奴だ?」


「詳しくは分からない。百年前に私の先祖と戦った魔王が消えてから、それから魔王は存在しなかったの」


「勇者って一子相伝なの?」


 成瀬がこう聞くと、ティーアは左手の甲を見せた。そこには剣と盾の紋章が青白く光っていた。


「この紋章は代々コラジェム家に伝わる紋章だよ。勇者に選ばれた一族とその一族と口づけをした者に浮かぶ紋章なの。まぁ、勇者になるにはいろんな修行が必要だけど。勇者の一族に生まれたからって、絶対に勇者になれるってわけじゃないの」


「へー、じゃあケンジとティーアがチューしたら、ケンジの左手の甲にそれが浮かぶの?」


「その通りだけど」


 と、ティーアはルハラの返事に答えながら、俺の左手の甲を見た。


「すでにエルフの紋章が浮かんでいる……その状態で口づけをしたらどうなるやら……」


「物は試し、やってみよう」


「ちょっと待って。まだ話の途中よ」


 俺とティーアを無理にキスさせようとしたルハラをヴァリエーレさんが止めた。ナイスタイミング。


「で、魔王が生まれていたってどこのタイミングで分かったんだ?」


 俺は乱れた髪を直しながら、ティーアにこう言った。


「いや。魔王の誕生は大分前から察していたと師匠が言っていた。私と生まれた時と同時らしい」


「勇者と魔王が同い年かー」


 そうだな。ティーアと同じタイミングに生まれたとしたら、丁度魔王も十四歳だろう。


「向こうがどう動くか分からない以上、こちらも手の打ちようもないな」


「ああ。ま、何かあるまでそれまではいつも通りに過ごすか。対策は練るけどな」


 俺は皆にこう言った。


 魔王が動き出したが、何を目的で動いているのか俺たちには分からない。ゲームのように世界を滅亡させるとか、世界征服を企んでいるのであれば、もしかしたら戦う可能性がある。いくら俺と成瀬が異世界からの転生者であったとしても、勝てるかどうか今は分からない。それに、魔王という存在の強さを、俺らは把握していない。遭遇した時、苦しい戦いにならなければいいなと、俺は願った。


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