怒りの一閃
剣地:オハリの飛行船、外
目の前で成瀬が撃たれるところを俺は見てしまった。成瀬は無事のようだけど、俺の怒りが収まるわけがない。もうブチ切れた。本気でブチ切れた。
「グッ……小僧……」
俺は無理矢理背負い投げした男……名前は……どうでもいい、ぶっ倒す相手の名前なんて覚えてられるか。そいつは腰をさすりながら、俺を睨んでいた。
手を後ろに回している。隠しナイフでも使うつもりか?
「気を付けて剣地! そいつ、ナイフを持っているわ!」
「やっぱりな」
俺は剣を握り、奴に斬りかかった。
「んなっ!」
俺が怪我をしているせいで、動きが鈍っているのだと思っていたのだろう。確かにさっき刺された背中は痛いけど、怒りのせいで痛いって感覚がない。
「何だと!」
攻撃を受けた奴は後ろに下がり、俺から離れようとした。しかし、背後からニッコーさんの飛び蹴りが奴を襲った。
「剣地殿、わしは援護に回ります。思う存分暴れてください」
「あいつはお前がやれ!」
ニッコーさんとオノブさんが俺に向かってこう言った。二人がいるなら、心強い。
「グハッ! この野郎……」
「覚悟しろよ」
俺はもう一つ剣を装備し、奴に向かって襲い掛かった。
「俺を狙うか。なら、俺も本気で行こう!」
奴は襲ってくる俺に対し、二丁の銃を装備した。
「ハチの巣になりな!」
そうか、その銃で反撃するつもりか。しかし、俺は銃での攻撃に対しての対応策を練っている。奴は傭兵、銃を持っているぐらい予想はできている。俺は飛んでくる弾丸に対し、剣を回して弾丸を弾き飛ばしながら、前へ進んでいった。
「弾丸を弾くか……なら! このライフルはどうだ?」
と、奴はさっき成瀬を打ち抜いたライフルを装備し、俺に向かって発砲した。ライフル弾は俺に向かって回転しながら飛んで来ている。俺は弾丸に対し、剣先を向けて軽く上に振り上げた。すると、弾丸の軌道が奴の方に変わり、勢いを殺さぬまま飛んで行った。
「弾丸を弾き返しただと!」
奴は俺が弾丸を弾き返したことを驚いていた。盾や魔力で弾き返すのはありそうだが、剣で弾き返すとは考えていないようだ。弾丸はそのまま、奴の横腹を貫いた。
「ガァッ!」
「これで終わりじゃねー」
俺は奴に接近し、二つの剣で攻撃を始めた。すぐに攻撃は終わらせない、何度も何度も俺は奴を攻撃した。気が済むまでは、攻撃を止めないだろう。
「止めろ……もう止めてくれ……ギャァッ!」
俺は攻撃の手を止め、奴の様子を見た。奴の体には無数の切り傷ができており、目からは涙が流れている。痛みに耐えられないのだろうか。
「俺の負けだ……降参する」
その言葉、嘘くさい。俺が剣をしまって後ろを振り向いた時、奴は俺を襲うだろう。俺は呆れてもう一度攻撃しようとした時、オノブさんが俺の腕を掴んだ。
「もうよい。こいつは戦えない」
「こいつを信じるんですか?」
「ああ」
俺はオノブさんの言うことを信じ、剣をしまった。その後、怪我をした成瀬に近付いた。
「成瀬、動けるか?」
「治療したから大丈夫。ただ、まだ弾が入ったままだから不安なの」
「剣地殿、成瀬殿、わしが治療室に案内しますので、そこで治療の続きを行ってください。剣地殿も怪我をしましたので、無理なさらずに治療してください」
「はい」
俺は成瀬を担ぎ、ニッコーさんの後を追おうとした。その時、後ろから音がした。だが、それだけだった。奴が俺を襲おうとしたのだが、途中で邪魔が入ったようだ。
「な……何だと……」
それもそのはず、オノブさんが奴の腹に目がけて拳を沈めていたからだ。
「貴様のような下種野郎の考え、とっくに見抜いていたわ。じゃから、わざとお前を信じる演技をしたんじゃよ」
「ぐ……ぐふっ……」
奴は血を吐き、その場に倒れた。オノブさんは倒れた奴を担ぎ、ニッコーさんにこう言った。
「わしは後から行く。先に治療室へ行け」
「はっ」
戦いが終わった後、俺たちは治療室へ向かった。
ルハラ:治療室
ケンジとナルセが戦いで怪我をしたと聞いて、私たちは急いで治療室へ向かった。ヴィルソルは拷問の続きをタトミさんに任せ、私たちと合流した。
「ケンジ! ナルセ!」
私たちが部屋に入ると、そこには上半身裸で包帯を巻かれているケンジと、左腕と右足に包帯を巻かれたナルセを見た。ナルセは治療のためか、ベッドの上で横になっている。
「ごめんね、ちょっと油断しちゃった」
「ちょっとではない。本当に下手をしたら死ぬところだったぞ」
ヴィルソルが棚の上に置かれている弾丸を見てこう言った。ヴィルソルが手にしている弾丸は、かなり鋭くて大きい。こんなのが急所に命中したら一発でやられてしまう。生きる破壊兵器だと噂されているナルセでも、やられてしまうだろう。
「じゃが……無事でよかった」
ヴィルソルはホッとしているのか、近くのソファに座って大きく呼吸をしていた。
「しばらく二人は戦線離脱だね。こんな傷を負っちゃってさ」
「やったのは誰?」
「フォリーティックって裏ギルドの連中です」
と、ケンジはヴァリエーレの質問にこう答えていた。その答えを聞いていたのか、ティーアがタブレットを取り出して何かを調べ始めた。
「何を調べているの?」
「さっきケンジが言っていた裏ギルドのことについて。おっ、あった」
ティーアは私たちに端末を見せた。そこには、さっきケンジが言っていたフォリーティックに関するニュースが書かれていた。
「奴らは傭兵のようだね。金のためなら戦争はもちろん、革命や悪事にも参加する」
「傭兵、戦いのプロか。厄介な連中が出てきたのう」
「そいつらも、アオーラ王国が雇ったかもね」
今回の事件、いろんな裏ギルドが関わっているようだ。
リーナ姫をさらい、海で私たちを襲ったフレッドデルタとデーモンノイズ。そして裏の傭兵集団フォリーティック。こんなに裏ギルドの連中と関わったの、今回が初めてだ。
「裏ギルドが多数関わっている以上、戦いはきつくなるかもね」
ティーアが静かにこう言った。その言葉を聞き、皆は深刻な顔をして頷いた。私も今回ばかりはエッチなことを封印しないといけないようだ。
今回の事件、解決までは先が長そうだ。さっきケンジが倒したフォリーティックの奴も強かったし、その位の強さを持つ奴は出てくるだろう。それに、フレッドデルタとデーモンノイズの連中がこの先にいるかもしれない。ま、とりあえず今は何もなさそうだし、もう少し休んでおこう。ケンジとナルセが戦えない今、少しでも奴らと戦えるようにね。
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