エルフの旅団
成瀬:オハリの飛行船
あれから私たちはオノブさんたちと話をしていた。オノブさんたちは仲のいい集団でこの世界を旅してまわっている。私たちよりもこの世界のことを知っている。こんなことを四百年前以上からやっているらしい。
「いやー、噂には聞いたことがあるけど本当にいたなんてねー」
同じ種族だからか、ルハラが興味津々でオノブさんの話を聞いていた。久しぶりに同族に合えたからか、ルハラは少しテンションが上がっている。オノブさんも笑顔で話をしていた。そんな中、長髪の男性が私たちに近付いてきた。
「ん? どうしたタトミ?」
「オノブ様、謎の集団が後ろからきます」
窓から後ろを見ると、私たちを追ってきた連中がこの飛行船に向かって走っていた。
「しょうがない連中ね」
私は立ち上がってあの連中を倒そうとしたが、オノブさんが刀を持って私に止まるように合図をした。
「なんじゃあいつらは?」
「私たち、海でここに移動中にあいつらと戦いました」
「事情は大体把握した。ま、お主らに復讐するために喧嘩を売るようじゃの。ちょっと待ってろ」
と言って、外に出て行ってしまった。ヴァリエーレさんは慌てて止めようとしたが、ニッコーさんが止めた。
「大丈夫です。あの程度なら、オノブ様の相手ではないですよ」
「でも、敵の数が多いですよ」
「雑魚がどれだけいても所詮は雑魚。あの人、ずっと座っていたから動きたかったのでしょう」
呑気なものだ。上司に任せるつもりなのだろう。本当にここで待っていていいのだろうか。
刀を持ったオノブは、あくびをしながら浜辺を歩いていた。目の前には、武装したフレッドデルタとデーモンノイズの団員が武器を構えていた。
「何だ、お前は?」
「さっきのガキ共を出しやがれ!」
団員の罵倒を聞き流し、オノブは耳をほじりはじめた。
「この野郎、俺たちの話を聞きやがれ!」
「カスの罵倒など耳にする価値はない」
この言葉を聞いた団員は怒り出し、一斉にオノブに襲い掛かった。それを見たオノブは笑いながらこう言った。
「はっはっは。先に伝えておくけど、多勢でわしに襲い掛かっても無駄じゃ」
「何を言っている?」
「あの世で後悔しな!」
オノブは刀を握り、物凄い速さで刀を振った。しかし、襲い掛かって来た団員に傷はなかった。団員は何をされたかと思ってその場に止まって確認したが、なんともなかった。
「はっ! 攻撃を外してやがる!」
「こいつ、口は立派だが剣の腕はそうでもないらしい」
「バカだな、そんな腕で俺たちに敵うわけねーだろ!」
オノブはにやりと笑い、団員にこう告げた。
「いーや、お主らはもう戦えん。それでも戦うならかかってこい」
この言葉を聞いた団員はさらに怒り出し、オノブに襲い掛かった。
「ふざけたことを言うなよ、三流以下のへぼ剣士!」
「お前はバラバラにしてぶっ殺してやる!」
「覚悟しやがれ!」
叫びながら襲い掛かったが、その瞬間に団員の腹から血が流れた。
「なっ……」
「ぐはっ……」
「何……で……」
オノブは後ろにいる残った団員を睨み、こう言った。
「斬られたかったらかかってこい」
睨まれた団員は悲鳴を上げ、逃げて行った。
剣地:オハリの飛行船
す……すげぇ……あんな早い居合斬りは見たことがない。ダメージが時間差でくるとは思ってもなかった。
「おーい、戻ったぞー」
入口の方からオノブさんの声が聞こえた。オノブさんは刀を長髪の男性に渡し、俺たちの元へ向かった。
「お主らに聞きたい。何じゃあいつら?」
「実は……」
ティーアとヴァリエーレさんが話をし、事情を説明した。話を聞いたオノブさんは、険しい顔をしてこう言った。
「丁度良かった。わしらもあの国に向かう途中でのぉ」
「ほう。一体何のために?」
「アオーラ王国を助けるために」
その言葉を聞いたヴィルソルは、すぐにこう口を開いた。
「お主らはあの国と関係があるのか?」
「ま、いろいろと。話すと長くなる。わしは長話をするのが苦手での」
と言って、ニッコーさんたちに話をしながらどこかへ行ってしまった。なんかあるらしいけど、詮索するのは止めておこう。俺も長話は好きじゃない。
その後、俺たちはオノブさんたちと話をした結果、一緒にアオーラ王国へ向かうことになった。向かう場所が一緒なら、連れて行ってやるとオノブさんが言っていたのだ。それに、俺たちの話をもっと聞きたいと言っていた。
「じゃあ、これから道中についてお話をします」
ニッコーさんが今後の予定表を持ってきて、俺たちに見せた。しばらくは空の旅になるが、アオーラ王国近くにあるココチーノという山の前までしか移動はできない。飛行船の高さを超えるほど山は高いらしい。それと、その山からアオーラ王国へ向かう道中にはハーヤナギと言う谷があり、かなり険しいとのことだ。その時のことは後で考えるとのこと。
「では三分後に離陸する。お主らは疲れているだろ、山に近付いたら教えてやるからそれまで寝ているがいい」
オノブさんは俺たちを見てこう言った。確かに、あの連中と戦い、嵐を乗り越えた後だからかなり疲れている。少し眠りたい。
「そうですね……俺たちは少し休みます」
「分かった。客用の寝室を用意してやるからそこで休んでおれ」
その後、俺たちはオノブさんの案内に従い、寝室へ向かった。しばらくは休んで次の戦いに備えよう。あの連中のことだ、俺たちがここにきたことを察知しているに違いない。いつか追手がくるだろう。
アオーラの城の頂上にて、イウチが携帯電話でフレッドデルタとデーモンノイズの団員と会話をしていた。
「そうか。分かった。お主らはどこかで休んだ後、後を追って奴らを始末しろ」
と言って、電話を切った。すると、後ろから二人組の男がやってきた。
「ん? 何じゃ、お主らか」
「お主らかじゃありませんよ、雇い主様」
「そろそろ俺たちを戦わせたらどうだ?」
二人組の男からこう言われ、イウチはしばらく悩んだ。そして、こう答えた。
「奴らはきっとハーヤナギ谷を越えてくるだろう。そこで奴らと戦え」
「了解」
「久しぶりに本気で戦えるぜ」
その二人組はそう言って去ろうとしたが、イウチは慌てて引き留めた。
「ちょっと待て。実はハーレムパーティー以外にオハリという連中が手を貸すらしい。奴らも始末するように」
「オハリね。分かったぜ」
「誰だろうがぶっ殺せばいい。それでいいだろー」
と言って、去って行った。しばらくし、イウチは空を見上げて拳を強く握った。
「わしの天下統一を邪魔するつもりか……」
「昔の知り合いがいるのですか、おじい様?」
庭の出入り口から、男の声が聞こえた。イウチは振り返ってため息を洩らした。
「何じゃ、ミツか」
「なかなか戻らないので、探しにきました」
「世話をかけたな、すぐに戻る」
「はい」
その後、二人は廊下を移動して王の間へ向かっていた。その途中、ミツはイウチにこう言った。
「おじい様、もしあの世界へ戻れるとしたらどうしますか?」
「あの世界へ?」
質問を聞かれたイウチは、しばらく考えた後でこう答えた。
「特にすることはない。わしはもうあの世界には興味がない」
「そうですか」
こうはそう言って、ミツは冷ややかな目でイウチを見つめていた。イウチはその視線には気付かず、先へ歩いて行った。
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