戦いは始まったばかりであった
ヴァリエーレ:セントラー城
姫を奪還した次の日。ケンジとナルセが倒した二人の男から、ありとあらゆる情報を手に入れた。その他にも、洞窟内で宴をしていた連中も皆捕まえたから、そいつらからも話を聞きだすことに成功した。
「一応姫は取り返したけど……」
ナルセがこう言ってため息を吐いた。そう。この騒動には裏があった。連中が言うには、現アオーラ国の王のイウチが絡んでいる。この騒動は奴が仕組んだことだろう。姫をさらった理由は、姫を人質にしてセントラー城へ攻め込み、城を渡すように伝えたかったのだろう。セントラー王国は世界の中央でもある国。ここを攻めればこの世界を統一したと同じだ。
「今後、あの連中の仲間と戦うことになるな」
ヴィルソルがコーヒーを飲みながらこう言った。その言葉に反応し、ティーアが頷いた。
「確かにね。まだ仲間がいるかもしれないし、残った奴らで襲ってくる可能性があるね」
「じゃあ、どうする?」
ケンジの言葉を聞き、皆が振り返った。
「ただここでずっと奴らがくるのを待つのはダメだと思う。ああいう連中は無視しておくと厄介な存在になる」
「じゃあどうするのよ?」
「こっちから攻めてぶっ潰す」
ナルセの質問に対し、ケンジはこう答えた。
「じゃあ、姫はどこに避難するわけ?」
再びナルセがケンジに質問をした。この問いを聞き、ケンジはずっと黙って考えことをしていた。
「考えてないのね」
「奴らの狙いは姫だし、姫を狙うのは間違いないけど……」
「戦いに巻き込まれたら大変じゃのう」
リーナ姫の護衛の問題もあるか。確かに、私たちがセントラー王国から離れれば奴らが狙われた時に対処できる戦士がいない。向こうは裏ギルドの連中を含めて攻めてくるだろう。攻められたら確実にセントラー王国は滅びる。
何かいいアイデアがないか考えていた時、私はあることを思い出した。あるじゃないか、いい避難場所が!
「あったわ。姫の避難場所が!」
「どこ?」
「聖域よ。ケンジの呪いを解くためにあそこの水を使ったのよ。聖域へ移動できる呪文も使えるし、すぐに行けるわ!」
「そうか! 聖域があったね、あそこなら安全だ! それに、何かあったら師匠もいるし!」
「よし、じゃあその聖域って所へ行こう。安全ならそこへ避難しよう」
その後、私たちは姫と兵士たちを呼び、聖域へ移動した。聖域へ移動した時、姫たちは驚いて周りを見回していた。
「何だ、ここは?」
「神秘的な場所だが」
「こんな所があったなんて」
と、声が聞こえている中、あの白い馬が私に近付いてきた。
「たくさんのお客様を連れてきましたね」
「白馬さん。実は……」
「分かっています。セントラー王国の人たちですね。あの事件は聖域に住む私の耳にも入りました」
どうやら事情は知っているらしい。話をし、姫たちのことをお願いと伝えた。白馬さんはすぐに了解してくれた。
「ここならアオーラ王国の連中がくることはないでしょう。安心して戦いへ向かってください」
「うし! じゃあ行くか!」
と、ケンジが張り切る中、白馬さんがケンジに近付いた。
「では、ヴァリエーレさんたちをナノフェイ海岸近くまでワープさせます」
「え? アオーラ国までワープできないのか?」
「はい。ナノフェイ海岸の近くまでが、ワープできる最大の範囲なので」
会話後、私たちの足元に魔法陣が現れた。移動する準備ができたのだろう。その時、姫が私たちの方に声をかけた。
「皆様……どうか無事に帰ってきてください」
私たちはその声に対し、はいと答えた。そして、ナノフェイ海岸までワープした。
アオーラ王国。革命を成功させたイウチが、王の間で座って部下の話を聞いていた。
「これで以上です」
「フン。役に立たない裏ギルドだ」
「しかし、セントラー城を半壊させたのは評価してはいかがなものかと」
「半壊させただけだろ? それだけじゃあ意味がない。完全に崩壊させないとダメだ。次の命令に失敗したら全員処分すると伝えろ」
「は……はっ!」
イウチの言葉を聞いた部下は、いそいそと去って行った。イウチは窓際へ立ち、机の上にあった葉巻を口に入れ、火を付けた。そんな中、別の部下が現れてこう伝えた。
「ギャッツ様がお見えになりました」
「うむ。通せ」
イウチの言葉の後、ギャッツが部屋に入った。
「何の用だ?」
「金の話だ。革命のために使った武器の費用を貰いにきた」
「そうか。いくらだ?」
「三千万ネカ」
「三千万か……分かった」
「すぐに欲しいから、早めに頼むな」
ギャッツはそう言うと、来客用のソファーに座り、机の上にあったワインを飲み始めた。ワインを飲むギャッツを見て、イウチは笑いながらこう言った。
「もしかしたら、またお前の武器に頼るかもしれん」
「反乱軍の片付けか?」
「それもある。じゃが……どうやらわしの野望の邪魔をする奴がいるらしい。そいつのせいで、リーナ姫をさらう作戦が失敗してしまった」
「リーナ姫……現セントラー王国の王的存在ではないか。人質にはせず、処分した方がよくないか?」
「噂だと、かなりの美人らしい。殺すには惜しい。人質としても利用し、スケベなことにも利用する」
「見た目通り、スケベだねぇ」
ギャッツの苦笑を聞いたイウチは、不機嫌な顔をして窓の方を見た。
「とにかく、邪魔者を排除せねばわしの野望は実現しない。じゃから、また武器を買うかもしれん」
「そうか……じゃ、しばらくはこの近辺にいた方がいいな」
ギャッツがこう言うと、三千万ネカの札束が入ったアタッシュケースを持った部下が現れた。ギャッツはケースを持ち、重さでネカの量を判断した。
「うん。この量は三千万入っている証拠だ」
「金はいくらでもある。その分、武器が必要じゃからな」
「はいよ。それじゃあ、また用があったら呼んでくれ」
と言って、ギャッツは帰って行った。
ヴィルソル:ナノフェイ海岸近くの港
我らはナノフェイ海岸近くの港へ移動し、船がないかを調べていた。しかし、最近のアオーラ国の事情が悪いせいか、そこまでの船がない。
「ゴメンネお客さん。どの船乗りもアオーラ国は今危険だから行きたくないって言ってねぇ」
「そうですか……」
ま、そりゃそうだろうな。今アオーラ国は各地で反乱が発生している状況。下手に入国したら巻き込まれて死んでしまう。
「何か飛行機的な乗り物ってないかなー」
「俺のライダーセンスで飛行機、もしくは戦闘機なら操縦できるけど」
「近くに空港らしきものはないわ」
ケンジたちは空から行こうとしているが、あの国にも侵入者対策で対空ミサイルとかそんな兵器があるだろう。ともかく、空からも海からもあの国に入るのは難しそうだ。
もう手段はないのかと思ったその時、一人の船乗りが大声を上げた。
「最近の若いのは度胸がないのかってんだ!」
その船乗りは、見た目五十代くらいの男性で、頭にはねじり鉢巻き、服装は黒いランニングと一部破けたジーパンを履いていた。何だか変な奴が絡んできたが……こいつも船乗りなのか?
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