洞窟内での隠密行動
剣地:キュアンタ渓谷の洞窟
奴らは俺に気付かずに騒いでいた。俺は今、奴らの後ろにいる。姿を隠すために物の後ろにいるけど。この様子だと、遠くにいる成瀬たちの存在も気付いてないだろう。
さて、奴らの騒ぎは無視しよう。何かあったら、こっそり倒せばいい。俺がするのは、リーナ姫がどこにいるかを探ることだ。多分、厳重な所にいるとは思うけど、その前には見張りがいるだろう。しばらく歩いていると、騒いでいない二人組の男が歩くのを見かけた。
「ふぁーあ、俺たちは見張りか……」
「俺たちも騒ぎたいけどねぇ」
「リーナ姫を捕まえたのは俺たちデーモンノイズなのに、アオーラの奴らは自分たちがやったかのように喜んでやがる」
「いい身分だよな。クソッたれ」
「はぁーあ、早く牢屋にいるリーナ姫の怯える顔を見て癒されようぜ」
「だな。あの可愛い顔が恐怖に染まるのを見ると、興奮するよな」
「ああ」
会話から察すると、あの二人はリーナ姫の所に行くようだ。丁度いい。俺はばれないようにあの二人の後ろをついて行った。
数分後、あの二人はなんも変哲もない壁の前に立った。
「俺たちだ。リーナ姫に変なことはしてないよな?」
「大丈夫だ。何もしてない。したいけど我慢している」
壁の方から声が聞こえた。その直後、壁が動いた。あれはカモフラージュのために作られた扉だったのか。その奥には別の二人組の男が立っていた。その奥には牢屋があり、そこに誰かが倒れているのが見えた。あれは……リーナ姫だ。リーナ姫がいる!
「さっさと入れよ」
「分かっているよ。俺たちの分の酒とか肉を残してくれよ」
「分かった」
奴らは会話をしながら、扉を閉めようとしている。まずい、このままだと助けられなくなってしまう。俺は急いでサイレンサー付きの銃を装備し、男たちに向けて発砲した。
「あげっ!」
「ぐおっ!」
「ぎゃっ!」
「あおっ!」
よし、特製電撃弾丸が効いたようだ。あれを受ければ、一発で気を失うほどの電撃が走るようになっている。俺は急いでリーナ姫の元へ向かい、剣を装備して目の前の牢屋を静かに斬り落とした。この音を聞いても、姫は気を失っていた。
「リーナ姫、大丈夫ですか?」
俺が頬を触りながら、姫が目覚めるのを待った。しばらくし、姫の目がゆっくりと動いた。
「うぅ……誰……ですか?」
「お久しぶりです、ケンジです。助けにきました」
俺に気付いたリーナ姫は、安堵した表情を見せた。姫の顔を見て、俺も安心した。
「入口の方に成瀬たちがいます。そこまで移動して成瀬たちと合流しましょう」
「分かりました……しかし……」
リーナ姫は足元を見て戸惑っていた。そうか、今リーナ姫はヒールのある靴を履いている。それに、白いドレスを着ていて、あまり激しく動けるような状態じゃない。俺は考えた末、リーナ姫をお姫様抱っこした。
「このまま向かいます。何かあったら俺が戦いますので」
「はい……お願いします」
その後、俺は道を戻って成瀬たちの所へ戻ろうとした。奴らはまだ宴をしている。牢屋を斬った時の音が聞こえてないのだろうか……いや、この騒ぎじゃあ斬った時の音はかき消されてしまうな。さっきと同じルートなら大丈夫だろう。俺は姿を隠しながら姫を抱えて移動していた。
アオーラ国の兵士たちは酒を飲み、つまみなどを食べて騒いでいた。
「ういー。酔っちまったぜー」
「目が回られらろれー」
「バーカ、飲みすぎだよ!」
「どこ見ている? こっちだよ、こっち!」
兵士たちは酔いが回ったのか、奇天烈な行動をし始めた。そんな中、一人だけ騒がずに酒を飲んでいる男がいた。
「あるぇ? 酔ってないのでしゅかドネさん?」
ドネと呼ばれた男は、フッと笑って聞いてきた兵士にこう言った。
「分からないのかお前は?」
「へ? 何が?」
「そうか、分からないならそれでいい。そのまま極楽気分でいろ」
そう言って、ドネは刀を持って立ち上がった。
「どこへ行くのでふふぁー?」
「風を浴びてくる」
「ふぁーい、分かりまちたー」
返事を聞いた兵士は、酔いが回ってその場に倒れた。
ヴィルソル:洞窟の入口
ケンジが姫を担いで戻ってきた。我らは姫が無事なことを知り、ホッとしていた。
「いやー、無事でよかったですよー」
「ルハラの言うとおりね。ケガもなさそうだし」
「さ、早くこんな所から出ましょう!」
その後、我らは急いで洞窟から脱出した。今の連中は宴で騒いでいるが、いつか姫が消えたことに気付く。その前に逃げなければ大変なことになる。あの程度の連中なら大した相手ではないのだが、今は姫を連れている。戦いに巻き込むわけにはいかない。本来は洞窟にいる連中を一網打尽にしたいところだが、今は姫のことを優先に考えないと。
「下に車がいるはずです。向かいましょう」
ナルセが姫にこう言った直後、下の方で爆発が起きた。まさか……気付かれたか?
「嘘だろ? 俺、ナチュラルエアを使っていたのに!」
「甘いなぁ坊ちゃん。いくらナチュラルエアを使っていても、ほんの小さな足音で気配に気が付く奴もいるぜ。俺のように」
聞き覚えのない男の声が聞こえた。すると、我らの後ろから何者かが飛んで目の前に着地した。
「うーん。ナイス着地だ。百点満点を付けたいくらいだよ」
「車をやったのはお前か?」
ケンジが銃を突き付け、男にこう聞いた。
「まーね。驚いた?」
人を殺しておいて、気楽な態度をとっておる……こいつ、根が腐っておる!
「テメェ!」
ケンジが銃を発砲したが、男は手にしていた剣を抜いて弾丸を斬り落とした。
「感情任せの攻撃か。動きがすぐ読まれちゃうよ」
「それはどうかねぇ? 俺以上にブチ切れている奴がいるぜ」
ケンジは後ろに下がり、背後にいたナルセの姿を男に見せた。ナルセはすでに光と闇の球体を作っていた。
「あーらら。こりゃ珍しい」
「死ね!」
物騒な言葉とともに、ナルセは光と闇の球体を男に向かって飛ばした。しかし、地面から現れた別の男が、光と闇の球体を弾き飛ばしてしまった。
「ういー! おいドネ、きてやったぜ!」
「ナイスタイミングだ、バリ。下手したら俺が塵になっていた」
「そりゃあどうも、ガーハッハッハ!」
バリと言う大柄で豪快な男は、勢い良く飛び上がり、地面から抜き出た。
「で、こいつらが侵入者か?」
「ああ。すでに姫は奴らの手だ。殺して奪い返すぞ。今動けるのは俺と貴様だけだ、チームプレイで行くぞ」
「了解!」
奴らは会話後、一斉に襲い掛かってきた。
「ヴィルソル、姫を頼む。こいつらの相手は俺が引き受ける!」
と、ケンジはそう言って武器を構えた。ケンジの奴……二人相手に戦うつもりか? 我は止めようと思ったが、ナルセが奴らに向かって魔力を放った。
「ここは剣地の言うとおりに行動して。私と剣地はあの腐れ外道どもをぶっ飛ばしてから戻るから」
「とりあえず、近くのギルドで待機してくれ。俺たちもあとでそこに向かうから」
ケンジとナルセの言葉を聞き、我たちは頷いて返事をした。
「ケンジ、ナルセ、必ず戻ってね」
「姫のことは任せて。きっと二人ならあんな奴を倒すの、ラクショーだよ」
「あんな奴ら、やっつけてね」
「無事でいろよ、二人とも!」
「ケンジ様……ナルセ様……ご武運を……」
我たちはケンジとナルセにこう声をかけ、キュアンタ渓谷から降りて行った。
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