いざ修行へ
剣地:ギルドの自室
「修行をしよう!」
仕事から帰ってきたある日、急にティーアがこう言った。
「何じゃ急に、修行って……」
驚いたヴィルソルがこう聞くと、ティーアは腕組をして答えた。
「ずっと考えていてさ、ニートゥムの奴が呪われた剣で私と戦った時、とんでもない力を持っていたの。あの力はきっと、どんどん力を増す」
「あれ以上力が増したら、とんでもないことになりそうだな」
ティーアの言葉を聞き、俺は同じことを思い始めた。何とかティーアがニートゥムの奴を追い払ったけど、奴が力を付けた状態で戦ったら確実に俺たちは殺される。いくら成瀬の魔力があったとしても、攻撃が奴に届かなければ意味がない。
「確かに。ニートゥム以外でも、ブレアみたいな輩と戦う可能性があると見込んでも、修行は大事じゃ」
ヴィルソルもその考えに賛成のようだ。後は成瀬たちが何て言うかだ。今、三人は出かけているのか部屋にはいないようだ。しばらく待って話を聞こう。俺はそう思い、シャワー室へ向かった。
数分後、扉の開く音が聞こえた。
「ただいまー」
音とともに、成瀬の声が聞こえてきた。すると、ルハラが興奮しながら俺に抱き着いてきた。
「すごいもの当たっちゃったよー!」
「すごいもの?」
「実はね、商店街のくじ引きで無人島リゾートのチケットが当たったのよ」
と、ヴァリエーレさんは手に持ったチラシを俺たちに見せた。そこにはワイハーンと言う無人島で、一週間ほどゆっくりするリゾートプランのことが書かれていた。
「無人島か……」
このチラシを見て、ティーアは都合がいいと思わんばかりに笑い始めた。
「ねぇ、何があったの?」
「修行しようって話をしていた。ニートゥムのことと、今後戦うだろう強敵に備えてさ」
「修行ねぇ……そうね。私も賛成」
「私もー」
「ええ。肉体強化も大事ね」
「決まりだな」
ということで、俺たちはワイハーンで修行をすることに決めた。
数日後、俺たちはチラシに掲載されている就業場所へ向かい、ワイハーンへ案内してくれる船を待った。数分後、ワイハーンへ向かう船が到着した。
「ルハラ様一行ですね、お待たせしました!」
船の中から乗組員が姿を見せ、俺たちを船へ案内した。その後、船内でこれからの説明を聞いた。まぁ、簡単に言えば一週間自由に過ごせってこと。無人島というが、リゾート地なので一部人の手が入っている所がある。雨風をしのげる家もあるし、水も電気もある。だが、他のリゾート地とは違い、スタッフはいない。
そうこうしているうちに、俺たちを乗せた船はワイハーンへ着いた。
「では一週間後に会いましょう! ごゆっくりしていってください!」
船は俺たちが降りたのを確認した後、去って行った。
「さて、じゃあ……」
「修行を始めますか!」
島に上陸したと同時に、俺たちの修行が始まった。
ヴァリエーレ:ワイハーンの浜辺
修行の内容は基礎体力を高めるための筋トレとランニング、魔力を高めるための座禅。これをひたすら繰り返すだけ。簡単な内容だけど、これらをみっちりこなせば必ず強くなれるだろう。
「二百九十八……二百九十九……三百……」
ケンジが三百回腕立てをして、その場に倒れた。
「腕が……痺れる……」
「少し休みましょう。休むことも必要よ」
私は無茶をしているケンジに近付き、こう言った。後ろでは、ティーアとヴィルソルの声が聞こえている。
「三百八十九! 勇者よ、まだ立ち上がるのか?」
「三百九十! まだ音を上げないよ、魔王こそ疲れている顔をしてない?」
「三百九十一! 何を言うか、貴様の方こそ大丈夫か? 腕が震えているぞ!」
「三百九十二! そっちは大丈夫なの? 脂汗がすごいよ!」
二人は言い争いをしながら、高い所で懸垂をしている。ある意味すごいな。私は剣技をさらに極めるため、重くて大きな丸太で素振りをしていた。これが結構きつい。
「ふぅ……少し休憩しましょう」
私が丸太を下ろすと、落ちた衝撃で周囲に砂が舞った。
「ヴァリエーレ、いつの間にこんなに怪力になったの?」
体中におもりを付けて走っているルハラがこう聞いた。
「毎日鍛えていたら、いつの間にかこんなに力が付いちゃったのよ」
「この腕で? へー」
ルハラは私の腕を触りながら、感心して見ていた。そんな中、遠くからかなり強い魔力を感じた。この魔力はナルセの魔力だ。今、ナルセは森の中で魔力を使った特訓をしている。この魔力の量だと、相当使っているようだ。
「さて、じゃあ俺は次の特訓に入るわ」
ケンジは崖へ向かい、何もつけずに崖を登り始めた。
数時間後、私たちは海辺で集合をしていた。
「予想以上に疲れるな」
「ええ……もうへとへと」
何度も崖に落ちたせいか、傷だらけのケンジと、相当無茶をしたのか擦り傷だらけのナルセがこう言った。
「ふぅ……手足を動かすと痛い……」
「そりゃああれだけの重りを付けて走り回ったから、そりゃそうなるわ」
全身筋肉痛になったルハラに対し、私がこう言った。
「今回は……私の……勝ちだね……」
「何を言うか……五百六十八回の時点で……お前の手は……棒を離していた……」
まだ勝負のことについての話をしているのか、ティーアとヴィルソルは言い争いをしていた。
「あぁ……もう夕方か……」
ケンジが夕日を見て、こう言った。そろそろロッジへ戻ろうとしたいのだが、体中痛くて重くて動ける気がしない。それは、皆も同じだった。そんな中、時間は過ぎていき、夜になってしまった。それから動けるまでは、三時間ほどかかった。
何とか部屋へ戻り、夕食を食べた後、時計を見たらもう真夜中だった。私たち、一体どのくらい倒れていたのだろう。
「さーて、風呂に入るか」
ケンジがこう言うと、ルハラが猛スピードで先に風呂場へ向かった。今まではあんなスピードを出せなかったはずなのに、修行の成果かしら。
「せっかくバカンス地へきたことだし、一緒に風呂に入ろうぜ」
「いいわね。ここのお風呂って意外と広いのよね」
「エクラードの温泉よりもでかいかなー」
「見てみないとわからん」
「どんなお風呂か楽しみねー」
その後、皆はお風呂場へ向かった。
「やっほー、ケンジ」
先に全裸になっていたルハラは、ジャンプをしてケンジに抱き着いた。
「おいおい、風呂場で暴れるなって!」
「興奮してつい」
ケンジはルハラをどかし、お湯を体にかけた。その瞬間、ケンジの目に涙が浮かんだ。
「い……い……イッデェェェェェ!」
「その傷じゃあ……痛いか」
傷だらけの体にお湯をかけたせいか、かなり刺激が走ったらしい。この調子で一週間の修行か……大丈夫かな?
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