不安が残る中
成瀬:宿の食堂
昨日は戦いが終わった後、怪我がなかった私たちは宿で泊まり、剣地とティーアは治療のため、フィレさんの家で休むことになった。今、私たちは宿の食堂でご飯を食べている。
「ケンジたち無事かなー」
ルハラがサラダを食べながらこう言った。
「そうじゃのう、魔力を使えばあの傷は何とか治るが……」
「完全に治るのは難しそうね」
ルハラの言葉を聞き、ヴィルソルとヴァリエーレさんがこう答えた。テレビでは、ティーアが戦ったとみられる崖の跡の映像が流れていた。
「あそこでティーアは戦ったよね」
「うむ。よっぽど敵は強かったのだろう」
元の映像が流れているおかげで大体察知できるが、あれほど高い崖があったのに、今は地面がえぐれるほど荒れている。かなり強い魔力を使ったのだろう。
テレビを見ていると、外から大声が聞こえた。
「なんじゃ、こんな朝っぱらから」
「何かあったのかしら」
ヴィルソルとヴァリエーレさんがこう言った直後、兵士らしき人が宿に入った。
「大変だ! 牢屋で殺人があった! しかも……大量に!」
この言葉を聞き、私たちは急いで現場へ向かった。現場となった牢屋にはすでに人の群れができており、皆ざわつきながら中を見ようとしていた。
「これじゃあ前に進めないねー」
ルハラがジャンプをしながら前の様子を見ていた。どうやら、かなり人がいてまえが見えないようだ。そんな時、兵士の人が私たちに近付いてきた。
「ナルセ様たちですね。まだ犯人がいると思われますので……ちょっと一緒にきてもらっていいでしょうか?」
「はい」
まだ犯人がいるかもしれない。そう言われて、私たちは兵士と一緒に牢屋の中へ向かった。もし、犯人がいたらぶっ飛ばしてやろう!
しばらく進むと、血の臭いが漂ってきた。
「酷い臭いじゃ……死んだのはかなりの人数か?」
「はい。牢屋を見張っていた見張り番のほとんどと……一部の囚人です」
犠牲になったのは見張りの兵士と、一部の囚人か。一体何でこんなことになったのだろう。
「こちらが現場です」
現場となった牢屋には、辺り一面が酷いことになっていた。うえ、気持ち悪い。それを見た私とヴァリエーレさんは、思わず手を塞いで咳き込んでしまった。
「こりゃえぐいね」
「ええ、犠牲者のほとんどが……残酷な方法で斬られていました」
「なんて下劣な殺し方じゃろうか……処刑人の真似でもしたのか?」
ヴィルソルが犠牲者に覆いかぶさっている白い布を外し、遺体の様子を調べ始めた。すると、何かに気付いたのか驚いた顔になった。
「こいつは……昨日、我が倒した盗人の一人!」
この言葉を聞き、ルハラは他の犠牲者の顔を調べ始めた。
「そうだね、昨日私たちが捕まえた連中がやられているよ。だけど、私が連れてきた女の人がいないよー」
ルハラの言葉を聞いたのか、兵士は少し考えてこう言った。
「自分もナンミがいないことに不思議に思いました。しかし……彼女は剣を使えないはず。それに、囚人には魔力制御の首輪を付けさせています。魔力は使えないはずですが……」
「誰かが斬ったのじゃ」
ヴィルソルが手にしているのは、首輪だった。それを手にし、兵士がこう言った。
「ええ……この切り口を見ると、鋭利な刃物で斬ったようですね」
「ねぇ、この辺りに監視カメラはないの?」
ヴァリエーレさんが兵士にこう聞いた。確かにそうだ。カメラに何かが映っているかもしれない。
「今、確認中です」
「そうですか」
「とにかく一旦戻りましょう」
その後、私たちは一旦現場から戻った。すると、別の兵士が私たちと一緒にいる兵士にこう言った。
「犯人が分かったぞ!」
何だ、もう分ったのか。じゃあ早く探さないと! その後、私たちは監視室へ向かい、監視カメラの映像を見た。そこには、剣を持ったニートゥムが牢屋へ入る姿があった。そして、その数秒後に血がカメラに付着したのか、画面が見えなくなった。
「ニートゥムの仕業か!」
「だけど、ナンミはどこに?」
「奴が連れて行ったのだろう! それしかない!」
兵士たちはそう言うと、急いでその場から去って行った。
「どうしましょう?」
「一度、フィレさんの家に行きましょう。このことを剣地とティーアにも伝えておかないと」
私たちはフィレさんの家に行き、事件のことを剣地たちに伝えることにした。
ティーア:フィレの家
ナルセたちが師匠の家にやってきた。見舞いかと思ったけど、かなり深刻な顔をしていた。それもそのはず、ニートゥムの奴が牢屋でとんでもないことをしたらしい。兵士と自分の仲間を惨殺するなんて、なんて愚かな奴だ!
「あいつがそこまで堕ちるとはのう」
師匠はため息を吐くと、ナルセたちの方を見てこう言った。
「お主らに頼みがある。もし、今後のギルドの仕事でニートゥムの奴と遭遇したら、必ず倒してほしい。今の奴をそのままにしたら、いずれこの世界を脅かす存在になるだろう」
「分かりました」
ナルセの返事を聞き、師匠は休むために椅子に座った。
「本当はバカな弟子の根性を叩きなおすのはわしの役目じゃが……年寄りにできる役目ではないのでな……」
「下半身は立派なくせに」
と、ルハラは近くに隠してあったエロ本を読みながらこう言った。
「あ、ちょっと待ってよ、それまだ読んでいる途中!」
「うわーお、こんな過激な所も載っているよ、この雑誌」
「え? 何がどうなっているの? 先のこと言わないでよ!」
「師匠!」
呆れた私は大声で叫んだ。私の声を聞いたのか、師匠は恥ずかしそうにうずくまった。弟子の私の方が恥ずかしいのに!
「とにかく、ニートゥムのことはお主らに任せる。しかし、わしもただ黙って奴の愚行を見ているわけにはいかないのでな……」
そう言うと、師匠はスマホを取り出した。何をするつもりだろう……。
「わしの連絡先を伝えておく。もし、こっちの方で奴の気配を察したら連絡をする。巨乳の嬢ちゃん、君は聖域へ行ける呪文を覚えたようだな」
「はい」
「何かあったら聖域から通じてここへきてくれ。何事もないことを祈るが……」
話が終わった後、ケンジはヴァリエーレさんに質問をし始めた。
「ヴァリエーレさん、聖域って何?」
「神秘的な所よ。サキュバスの苦手な物の一つも、この場所の水だったのよ」
「へー、一回行ってみたいなー」
「私もー」
皆、聖域の話を聞いて興味がわいたようだ。私も聞いたことはあるけど、実際見たことはない。
「ティーア、ケンジ君。今は休むことじゃ。傷が癒えるまでここにいるとよい」
「分かりました」
「お世話になります」
私とケンジは師匠に向かって、例の言葉を伝えた。
それから三日後、私とケンジの傷は完治し、エクラードから旅立つことにした。その時、里の皆が見送りにきてくれた。私たちは皆に手を振りながら、帰りの車に乗った。帰路に付く中、私は奴のことを考えていた。確実に奴は私のことを狙ってくるだろう。今回は大怪我を負ったけど、次こそは奴を止めてみせる。これ以上、奴の手で人を死なせはしない! 絶対に! 私は心の中で、強くこう決心した。
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