勇者の称号をかけて
ティーア:エクラードの崖
私とニートゥムの間に、少し強い風が発した。強い風を気にもせず、互いに剣を構え、ずっと睨み合っている。私はこいつとの戦いをすぐに終わらせ、皆の元へ戻ろうとしているが、奴も時間をかけずに私を倒そうとしている。
「はっ。お前も俺を一撃で仕留めようとしているのか」
「何だ、察していたの」
私は奴が喋っている間に接近し、一閃与えようと思っていた。だが、奴も私の動きを察していて、同時に動き出していた。
「シャァッ!」
「ハァッ!」
剣を振り下ろしたのも同時。互いの刃がぶつかり合い、周囲に強風が舞った。奴も剣に魔力を込めていたようだ。
「チッ!」
「グゥッ!」
私と奴は後ろに吹き飛び、態勢を整えた。
「フッ……これが勇者の力か? 本気を出せよ、ティーア!」
奴はそう叫ぶと、魔力を解放した。奴の持つ魔力は光だけだが、光の魔力の中に禍々しい力を感じていた。多分……奴が持つ呪われた剣の影響なのだろう。持ち主の魔力に影響するなんて、とんでもなく強い力だ。
「死ね!」
奴が猛スピードでこっちに向かってきた。私は避ける態勢をし、奴が迫ってくるのを待った。しばらくし、奴は私に近付いて剣を振り下ろそうとした。
「その首、貰った!」
動きが分かる。私は奴の剣筋を判断し、横に回避した。奴は剣を振り下ろした後、周りを見て私を探した。
「どこへ行った?」
「こっちだよ!」
私は奴の背中に目がけて剣を振り下ろした。奴は痛そうに悲鳴を上げた後、片膝をついた。
「クソッ!」
「動きが甘い」
はぁ、やっぱり呪われた剣を持っても、ニートゥムはニートゥムだ。戦い方が変わっていない。これじゃあ私に敵いっこないよ。もう一撃剣で攻撃して、気絶させよう。そう思い、私は奴に近付いた。だけど、奴の様子が少しおかしい。
「グッ……クソ! 俺の戦いの邪魔をするな……」
奴は突如苦し始めた。両手で顔を覆いながら、転げまわっていた。その時、悲痛な悲鳴が響いていた。しばらくし、奴の動きが止まった。
「な……何?」
私がこう言った直後、奴はゆっくりと立ち上がった。
「フィー、こいつがこんなに未熟だったとはねぇ。俺が体を乗っ取ろうとしたのを防いだのはお見事と思ったが……」
気配が変わった。今、奴はあの剣に体を乗っ取られている!
「さーて、次はこのジェロディアの相手になってくれよ、勇者の娘さんよォ!」
禍々しい魔力が周囲を包み込んだ。私が持つ魔力よりも力が上だ! こりゃきつい戦いになりそうだ。
「ヒャッハァァァァァ!」
奴は高く飛び上がり、私に斬りかかろうとした。私は奴から離れて攻撃をかわそうとしたが、奴は魔力を操り、私の体を縛り上げた。
「なっ!」
「まるでかかしだな!」
その直後、奴の強烈な一撃が私の体に命中した。胸と腹にかけ、大きな傷ができただろう。うぅ……血も……かなり出ている……。この攻撃で、私を縛っていた奴の魔力は解除されたが……この攻撃で大きなダメージを負ってしまった。
「おーおー、無様な姿なこと」
「うるさいなぁ……」
私は闇の魔力を発し、奴に向けて攻撃した。だが、私の攻撃は簡単に防がれてしまった。
「直接俺を狙ったのか? そんなの、すでにお見通しだぜ」
「じゃあこれは」
そう言って、私は奴の周囲に闇の塊を発した。奴はそれを見て、軽く口笛を吹いた。
「死にかけているのに、よくもまぁこんなことができますねぇ」
その後、私はその闇の塊を操り、奴に攻撃を仕掛けた。だが、闇の塊は奴によって破壊されている。
「こんなことしても無駄ってこと、分からないの?」
奴は下劣な笑みで私の方を見た。その時、奴は察しただろう。何で意味のない攻撃をしたのかが。
「お前……あの攻撃は囮だったのか……」
奴は私があの傷を回復しているのを見ただろう。私は回復のための時間稼ぎのために、あの闇を放ったのだ。
「まぁいい。次の攻撃で強烈な奴を当ててやるぜ」
「させると思う?」
私は一つの闇を操り、棘を作った。そしてそれを鋭く伸ばし、奴の体を突き刺した。
「グッ……」
「死なない程度に威力は調整したから、安心してね」
その後、私は周りの闇も操り、棘を作って奴に突き刺した。
「へぇ……結構やる。流石勇者様」
この攻撃を受けても、奴はまだぴんぴんしている。だが、動きは取れないはずだ。
「ん……この力は……」
さて、この戦いをこれで終わりにしよう! 私は剣を持ち、光と闇の魔力を剣の刃に込めた。いつもやっている戦法だが、いつも以上に魔力を込めないと、こいつは倒せない! そう思いながら力を込めると、私が持つ剣の刃に光と闇のオーラが纏い、空に届くくらいに伸びた。
「これ喰らったら……まずい!」
奴もこの剣を見て驚いたか、逃げようとしていた。そんなこと、させるか!
「喰らえ!」
私は勢いよく剣を振り下ろした。光と闇のオーラが混じった剣は、奴を一閃した。
「ギャァァァァァァァァァァ!」
奴の体は光と闇のオーラに包まれた。これで……終わったかな。オーラが消え、ボロボロになった奴の姿が見えた。気を失っているらしいが、まだ奴は剣を握っている。あの剣を壊さないと、後々とんでもないことになる。私は奴に近付いたが、突如足に変なものを感じた。奴が私の足を掴んでいたのだ。
「なっ!」
「残念でした、生きていますよ」
奴はまだ動ける状態だった! しまった、あの一撃で倒したと思ったのに!
「今度は……こっちの番だ!」
奴は魔力を使って私の体を縛った後、空高く舞い上がった。
「この俺をここまで傷つけたのはお前が初めてだ。こいつは……そのお礼の品だ!たっぷりと味わいなぁ!」
奴の剣先から、紫色の球体が現れた。あれから、かなり強い魔力を感じる。これを喰らったら……これは確実にやられる。
「くたばれ!」
紫色の球体は、猛スピードで私に向かった。私は受け止めようとしたが、その前に球体は爆発した。爆風は私と崖を包み込んでいた。その位、爆発の規模が大きかった。
「あばよ……これが……俺の限界だ……次会った時は……必ず貴様を殺す!」
奴はそう言って、どこかへ行ってしまった。私はこの爆風を耐えきった後で奴を追おうとしたが、受けた傷が予想以上に大きい。グッ……動いてよ、私の体! でないと……奴を追え……な……。
ヴィルソル:エクラードの崖跡
強い魔力と共に、爆発音が響いた。何かあったと考え、我はさっき戦った奴を魔力で縛り上げて宙に浮かし、現場へ向かった。爆発はもう収まっていたが、爆発のせいで地面がかなりえぐられていた。
「こりゃ酷い」
我が周囲を調べると、深い傷を負って倒れている勇者を発見した。
「勇者……勇者!」
奴はここで戦っていたに違いない。しかし……負けたのか?
「勇者よ、我の声が聞こえるか? ヴィルソルだ!」
「ま……魔王?」
よかった、生きている。じゃが……かなり危ない状態だろう。
「奴は……ニートゥムは……」
「奴はいない。これ以上喋るな、動くな。傷が広がるぞ」
我は勇者を治療し、勇者を背負ってエクラードへ戻って行った。
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