卑劣なる矛先
ヴィルソル:エクラードの森
奴の卑劣な策略により、我はブラークロコダイルの住処へ入ってしまった。
「さぁ、ワニちゃんの餌になりな」
奴はこう言うと、笑いながら我を見た。
「悪いが、我はこんな奴らの餌になるつもりはない」
この言葉を聞いた奴は笑うのを止め、不自然に思ったのか我を見た。どうやら、我が発している魔力に気付いたようだ。
「何だ、この魔力……闇の波動を感じる」
「当たり前だ。我は魔王だ」
我が魔王だと知り、奴の顔から笑みが消えた。
「まさか……このストゥナータの相手が魔王だなんて」
「怖気付いたか? 愚か者」
挑発の言葉を聞き、ストゥナータはにやりと笑った。
「だが、お前が餌になる運命は変わらないようだ」
「いや、変わっておる」
奴は気付いていない。ブラークロコダイルは我の魔力を察したのか、群れは我から離れている。
「チッ……最近のモンスターは魔力を察知できるのかよ」
「この辺のモンスターは少し変わっているらしい」
我は奇襲をかけ、奴を一閃した。
「ガハァッ!」
「どうした? もう次の手はないのか?」
我の言葉を聞いた奴は、にやりと笑っていた。
「あるからご心配なく」
この攻撃はかなり強くやったはずだ。なのに、何でこんなに余裕の態度をとっている? 不自然に思った我は、奴の周囲を簡単に調べた。こいつ……武器を持っていない! いつの間に消えた?
「槍をお探しで?」
この直後、我は背中に何かが当たった感覚がした。どうやら、奴が後ろにあった槍を操り、我の背中を突き刺したようだ。
「この程度か?」
「やはり魔王様、生命力は化け物並みですな」
「こんなの、ブレアの攻撃の方が痛かったわ」
背中の槍を引き抜き、奴に向けて攻撃した。
「チッ、魔族だから俺たち武具の呪いが効かないのか」
「当たり前だ。これは古の魔族が作ったものだからな。それからわけあって、エクラードで封印されたがな」
我は闇を発し、奴に攻撃をした。しかし、奴は槍を振り回して我が放った闇を叩き落としていた。
「この程度ですかー?」
「何か文句でもあるか?」
「別にないよ」
その時、奴は自分の指を鳴らした。すると、我がいる地面から針が現れた。突如現れた針を避けられず、針は我の左腕を突き刺した。左腕だけじゃない。右足のももと、脇腹も数か所突き刺さっている。
「グアッ!」
「ブヒャヒャヒャ! いい気味だねぇ、ザマーミロ!」
針が消え、我はその場に倒れかかった。罠を仕掛けていたとは、我でも見抜けなかった。
「魔王も、間抜けだね」
「貴様、死にたいのか?」
「やってもいいけど、死ぬのはこの人間。俺のような高貴な呪いの武具は死にましぇん」
「はっ。愚かな槍だ」
我は呼吸を整えて立ち上がり、鎌をしまった。
「おっ、諦めるのか?」
「諦めるつもりはない。少し本気を出そう」
あまり使いたくなかったが、少しピンチだ。仕方ない。我は両手に光を発し、地面にぶつけた。
「なっ! 光だと!」
「いろいろあった。説明は面倒だからしない」
放たれた光のおかげで、うす暗かった周囲に明かりがともった。我の周囲には無数の罠が仕掛けてあった。いつの間にこんなものを用意したのか。
「これで罠の位置は把握した」
「く……くははははは! だが、お前は死にかけているじゃないか! もう一回針で突き刺して、穴だらけにしてやろうか?」
「それも無駄だ。よく見てわからんのか?」
奴は我の体を見て、やっと何かに気付いた。
「あれ……傷が……」
「さっきの光に回復の力を含んだのじゃ。それで、傷を治したのじゃ」
「クソッたれ」
さて、戦闘を再開しよう。光が消えてまたうす暗くなったが、罠の位置は把握しているし、傷も治せる。
「まだお前が勝ったと決まったわけじゃない! 先に手を出したもの勝ちだ!」
愚かだなぁ。先走って行動すると、高い確率でミスを起こす。分からないのか。
「俺の槍で体中穴だらけにしてやる!」
と、叫びながら奴は槍の矛先を我に向けていた。それに対し、我は何も装備をしなかった。
「やっぱり諦めて死ぬことにしたか!」
「バカたれが。自分で仕掛けた罠が、どこにあるのか分からないのか?」
「は?」
この直後、奴の足元からスイッチが押されたような音が聞こえた。
「あ……しまっ」
奴の言葉が言い終わらぬうちに、足元から糸が現れた。その糸は、奴の体を強く細かく縛っていた。
「しまった……糸の罠を仕掛けていたの……忘れていた」
奴は糸をほどこうとして苦戦しているが、なかなか糸はほどけなかった。我は奴に近付き、糸を触った。
「これだけ頑丈だと、ほどくのに時間がかかるな」
「離れろ! 魔王!」
「ほう。最初の威勢はどこへ行った?」
我は槍を持ち、魔力を込め始めた。我の槍の周りに闇のオーラが強く発していくのを見たのか、奴は震え始めた。
「お願いします、殺さないでください!」
「この人間の命は助ける。しかし……呪われた槍、ストゥナータ! 貴様はこの世にいてはいけない存在だ!」
「嫌だ、止めて! 消えたくない!」
我は奴の言葉を無視した。そしてストゥナータを抜き取り、地面に叩きつけた。
「さぁ、消えてなくなれ」
渾身の力で、ストゥナータに攻撃をした。激しい闇の渦がストゥナータを飲み込み、粉々に砕けさせた。その後、灰になったストゥナータは風に吹かれ、そのまま消えて行った。
「ふぅ、終わった」
我は糸に絡まれている男を担ぎ、エクラードへ戻ろうとした。ケンジたちが戦い終わって、集まっていればいいのだが。
ティーア:エクラードの崖
この崖の上に、誰かの気配を感じる。皆が戦い終わったのか、邪悪な気配は少しずつ消えて行っている。私も急がないと!
急いで崖を登ると、そこには剣を持っているニートゥムが立っていた。
「貴様が俺の相手か」
どうやら、前に聞いた話の通り、奴はあの剣に体を乗っ取られているようだ。
「そうだよ」
「クックック……ファーッハッハッハ!」
突如、ニートゥムの奴は口を大きく広げて笑い始めた。
「待っていたぞ、ティーア! 俺は運がいい、貴様がこなかったらどうしようかと思っていたが……俺の思っていた通り、お前がきてくれた!」
え……ニートゥムの奴は体を乗っ取られていないの? 今の言葉は、確実に奴が言った言葉だ!
「あんた、正気なの?」
「当たり前だ。俺はこの剣、ジェロディアに体を乗っ取られそうになったが……力でそれをねじ伏せた! 今、この剣は俺が支配した!」
どうやら、奴は正気のようだ。私はため息を吐き、剣を装備してこう言った。
「このアホンダラ……今まで本気で相手にしなかったけど……今回は本気でやらないと目を覚まさないようだね」
「ティーア……この崖を貴様の墓にしてやる!」
奴の言葉の直後、私と奴は剣を構えて睨み始めた。
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