盗人たちの行方
剣地:宿
「イデッ!」
強烈な胸の痛みを感じ、俺は目が覚めた。何かあったのかと思って周りを見ると、俺の胸の上にルハラのかかとがあった。そうか、俺はルハラのかかと落としを受けたのか。寝相が悪いなと思いながら、俺はルハラのかかとをどかそうとした。しかし、俺の腕は動かなかった。
「え? 何で?」
周りを見ると、皆が俺の近くで眠っていた。どういうことだ? 昨日、酒の香りで酔った成瀬を宿の部屋に連れ戻し、そのまま無理矢理倒され時から記憶が一切ない。あの時、気を失ったのか。
「おーい、皆起きてくれー」
俺はこう言ったのだが、皆は相変わらず眠っていた。どうするかなと思っていると、急に扉が開いた。
「大変です皆さん!」
やってきたのは宿の主人。何か大変なことがあったのか、かなり慌てている。
「起きてください皆さん! 事件が起きてしまいました! 服を着てから下にきてください!」
と言って、去って行った。扉が開いた時の音で、皆はやっと目を覚ました。
「何かあったの?」
寝癖を付けたティーアが、あくびをしながらこう言った。
「なんかあったみたいだ。とにかく支度をして下に行こうぜ」
その後、俺たちは身だしなみを整え、下の部屋へ向かった。下の部屋には、ティーアの師匠であるフィレさんがすでにいた。
「大変なことが起きたぞ、ティーア」
「何があったの? 教えてくれないと分からないよ」
「呪われた武具が盗まれた」
この言葉を聞いたティーアは、目を丸くして驚いていた。
「あの武具が! でも、あそこの塔には見張りがいるのに」
「襲われたのじゃ。とにかく一緒にきてくれ」
会話の後、俺たちは呪われた武具がある封印の塔へ向かった。そこにはすでに人だかりができており、皆塔の中を珍しそうに見ていた。
「珍しく塔の扉が開いているから、皆きてしまってのう……」
「何かあるといけないから、私たち以外の人は皆避難させて」
「そうじゃのう、警備員、頼む」
フィレさんから話を聞いた警備員は、村人に遠くへ行くように説明した。俺たちは護衛室へ向かい、中にいる警備員に話を聞いていた。どうやら、深夜の仕事中に何者かに背後を襲われて気を失っていたらしい。その時に服を盗まれたせいで、今は下着姿なのだそうだ。
「一体、誰がこんなことを」
外にいた警備員がこう呟いた。この人は外で警備をしていたが、変装した犯人に襲われて気を失っていたらしい。
「カメラは全て破壊されたようじゃが、この部屋に仕掛けてある極秘の監視カメラまでは、奴らは手が回らなかったようじゃ」
フィレさんが脚立を使い、天井を調べた。すると、天井の一部が外れ、その中にある監視カメラが姿を出した。
「こいつの存在は警備員とわししか知らない。いざという時に付けておったのじゃ」
「ほう。意外と考えておるのう」
「やっぱりただのエロジジイじゃないね」
ヴィルソルとルハラの言葉を聞き、フィレさんはどや顔になった。だが、どや顔をしている中で、しんみりしている部分もあった。
「褒めているのか褒めてないのか分からんの」
「それよりも、早くそのカメラの映像を見ましょう」
成瀬が急かした後、俺たちはモニターでそのカメラに移された映像を見た。その映像には、男女らしき団体が部屋の中に侵入し、隙だらけの警備員を襲っていた映像が流れた。連中は気絶した警備員の服を奪い、部屋から出て行った。
「これは……ニートゥム!」
「それと、奴と仲のいい連中だよ。奴らの仕業だったのか」
ニートゥム……思い出した。昨日、宿の前でティーアにケンカを挑んだ男だ。もしかして、昨日の恨みでこんなことをしたのか? バカな男だ。
「ティーア、わしらはあいつらの行方を捜す。じゃが……あいつの目的はお前かもしれん」
「分かっています。あいつのことです、私に勝つために呪われた武具を手に入れようとしたのでしょう」
「うむ。気を付けるのじゃ」
会話が終わり、俺たちは一度宿に戻ることにした。
成瀬:宿
なんだかとんでもないことになってしまった。私たちは剣地の呪いを解くためにここにきたのに、まさかティーアのライバルがティーアを倒すために呪われた武具を盗むなんて。
「はぁーあ、しょうもない男だなー」
ティーアは武器を整備しながら呟いた。その時、ヴァリエーレさんがティーアにこう聞いた。
「ねぇ、呪われた武具って一体どんなのなの?」
「そうだ。俺も聞きたい」
「私もー」
お菓子を食べていた剣地とルハラも興味があったのか、ティーアの前に近付いた。その時、ヴィルソルが私にこう言った。
「もしかしたら我たちがそいつらの相手になるかもしれん。聞いておこう」
「だね」
その後、私とヴィルソルもティーアの話を聞くために近付いた。ティーアは内容を思い出しているのか、目をつぶっている。だけどすぐに目を開けて語り始めた。
「呪われた武具は六つある。種類は剣、槍、斧、銃、爪、杖。どれもとんでもない破壊力らしいけど、手にしたら呪われるって伝説があるの」
「だから、あの塔の中に封じたのか」
「うん」
剣地の言葉を聞き、ティーアは頷いた。昨日、あの塔の前を通った時、物凄い気配を感じていた。もしかして、あれが呪われた武具の力なのだろうか。だとしたら、どうやって戦おうか……魔力が効けばいいけど。
「うーん……俺戦えるかな?」
剣地は不安そうにこう言った。そういえば、剣地はヒレラピ護衛任務でレーフェンと戦った時から、戦いに参加していない。それに、目が覚めて体を動かし始めたと言っても、まだ二日しか過ぎていない。この間に剣地は剣の練習とかしていないけど……まぁ、ソードマスターがあるから何とかなるとは思うけど。
そんなことを思っていると、突如吐き気を催すような邪悪な気配を感じた。私たちは急いで宿の外に出て、空を見上げた。そこには宙に浮いている六人の男女がいた。あの顔は見覚えがある! あいつは……ニートゥム!
「ニートゥム! お前、私に勝つためにこんなふざけたことをしたの?」
ティーアが大声で叫んだ。その言葉を聞き、ニートゥムはにやりと笑った。
「そうだ。ククククク……いい気分だ、ティーア。この力さえあれば……俺はお前を殺すことができるからなぁ!」
ニートゥムはそう言うと、手にしていた剣を振り下ろした。そこから黒い衝撃波がティーアに向かって飛んできた。
「こんなもの!」
ティーアは光のバリアで衝撃波を防御したが、防御した部分以外の衝撃波が地面に当たり、大きな穴を作った。
「素晴らしい力だ……この力さえあれば、俺は勇者になれる!」
「この愚か者が!」
騒動を聞きつけたフィレさんが、大声で怒鳴った。
「邪悪な力に魅せられた者は勇者ではない! 貴様は愚か者じゃ!」
「黙れ! 誰が勇者なのかは貴様が決めることではない!」
ニートゥムはフィレさんに目がけて、黒い衝撃波を放った。だが、フィレさんは一喝し、その衝撃で黒い衝撃波は消滅した。
「そんなものでこのわしを倒せると思うなよ? 若造」
「チッ。まだ力が足りないか……仕方ない。しばらくはこの森にいる下等生物を狩って強くなるとしよう!」
その後、ニートゥムたちは散り散りになって飛んで行った。
「あ、待て!」
ティーアは急いでニートゥムの後を追って飛んで行った。
「じゃあ、私たちも急ぎましょう!」
「別々で行く?」
「その方が早いな。いいか、全力で戦うのじゃ!」
「ええ!」
私たちが会話をしていると、上から斧を持った男が降りてきた。
「あいつらバカだな。強い奴と戦えばもっと強くなるのに」
クッ! 残った一人がここで暴れるつもりだ!抑えたいけど、他の連中も倒さなくちゃいけないのに!
「成瀬、こいつは俺がやる。後の連中を任せていいか?」
剣地があの斧を持った奴の前に立ち、こう言った。
「ええ。剣地、こいつの相手は任せたわよ」
「ああ。死ぬなよ、皆」
私たちは剣地の言葉を聞いた後、散り散りになって奴らの元へ向かって行った。
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