呪われた武具
「クソッたれが!」
ティーアとの戦いで受けた傷を治療した後、ニートゥムは自室に戻っていた。彼は悔しさのあまり、壁を強く叩いた。
「あいつがあそこまで強くなっているとは……」
あの戦いで彼は察していた。自分とティーアの差が確実に広がっていると。最初に戦った時は僅差で負けてばかりだったが、今回は違った。ティーアは成長している。だが、ニートゥムもかなりトレーニングを積んでおり、エクラードの里では彼との戦いで勝てる者はいないだろうと言われている。
「クソ! クソ! クソォォォォォ!」
彼の絶叫が部屋にこだまする中、扉が開いた。
「また荒れているのね、ニートゥム」
「何だ……ナンミか」
ナンミと呼ばれた女性は、ニートゥムに近付いた。
「さっき聞いたわ。ティーアが帰ったってね。で、またケンカでもしたの?」
「ああ……だが、あいつは俺より強くなってやがる……」
その時、扉から男性の声が聞こえた。ニートゥムは立ち上がり、扉を見ると、そこには四人組の男がいた。
「よー! またティーアに負けたらしいな!」
「ドンマイドンマイ!」
「ククク……あいつの無様な姿を一目でも見たかったけどねぇ」
「格闘戦に持ち込めば、勝っていたかもしれないのに」
「お前ら……」
彼らは皆、ニートゥムの知り合いである。たまにナンミを含めた六人で、周辺のモンスターを狩っているのだ。
「策くらい練っておけよ。何かして隙を突けば、勝てるかもしれないぜ」
「俺は卑怯な手は使わない。カニート、お前は少し正々堂々と戦うことを考えろ」
「ハッ。戦いは勝たなくちゃ意味ないの」
と、カニートと呼ばれた男は、酒瓶を机の上に出した。
「何だ、これ? ジュースか? まぁ、どちらにしても俺は頂くけどな!」
「おい、誰かこのバカのホニットを止めてくれ」
呆れたニートゥムがこう言った。ホニットと呼ばれた男は、目の前に出された酒瓶の包み紙を破り、中の酒を飲もうとしていた。その時、一人の男がナイフを出し、ホニットの首元に近付けた。
「酒は皆で飲むために持ってきたんだ。独り占めはダメだぞ」
「あーい、分かったよ。ルムツ」
ルムツと呼ばれた男は、ホニットの返事を聞いてナイフをしまった。その背後では、もう一人の男が腕立て伏せをしていた。
「おいアクト。人の部屋で筋トレするなよ」
「すまない。やることがないからつい」
「まぁ、お前がどれだけ格闘好きか分かるけどな」
ニートゥムがこう言うと、アクトは再び筋トレを始めた。
「で、ティーアと戦ってどうだったか?」
カニートがこう聞くと、ニートゥムはため息を吐いて答えた。
「確実に強くなっている。多分……俺たちよりも強いだろう」
「えー? それはないだろ! 俺たちの方が力は上だぜ!」
「力だけじゃない。奴は何かしらの方法を使い、闇の力を得ている。あいつの魔力で察した」
この話を聞いたルムツは、小さな声で笑い始めた。
「じゃあ、ティーアと交わった魔王も、勇者の力を得たってわけか。魔王が勇者の力を……素晴らしいジョークだ」
「素晴らしいか?」
腕立てをしながら、アクトはルムツにこう言った。その時、カニートは皆に静かにするように伝えた。
「なぁ、俺たちがもっと強くなるためにあることを考えた」
「あることってなんだ?」
「聞いて驚くなよ、この里にある呪われた武具を盗む計画を立てている」
この言葉を聞き、ニートゥムは動きが止まった。しばらく考えた後、にやりと笑った。
「そうか……そいつを使えばティーアを倒せるかも……」
「面白そうな話ね」
ナンミはこの話に興味を持ち、カニートにこう聞いた。
「で、計画はいつ行うの?」
「明日の夜には行う予定だ。それを奪った後、俺らはこの里からさらばする」
「ここで勇者としての修行をしても、無駄だってことが分かった」
「だから、各地で行われるだろう戦争に出向いて、殺しまくり、名誉を得る」
「うォォォォォォォォォォ! 俺の中の血がみなぎってくる!」
「静かにしろ、アクト。俺たちの計画が気付かれたらまずい」
カニートは騒ぐアクトにこう言った後、ニートゥムとナンミにこう聞いた。
「お前らはどうする? 俺たちの計画に協力するか?」
「ああ。ティーアの奴を倒せるのなら、何だってやるつもりだ」
「そうこなくちゃ」
その後、二人は熱い握手を交わした。
「計画はさっき言ったとおり、明日の夜だ。小耳にしたが、里の連中は帰ってきたティーアのために宴をするらしい。その隙を狙う」
「了解」
「じゃ、また明日ね」
「おう」
会話を終えた後、カニートたちは戻って行った。この方法ならティーアを倒すことができる。そう思ったニートゥムは、にやりと笑っていた。
剣地:エクラード
今日の朝からエクラードは大騒ぎだ。ここに住み人たちが皆、俺たちに握手を頼んだりサインを頼んだり写真を頼んだりしている。
「私たちって、意外と有名なのね」
「まぁ、こんな記事を書かれてはなぁ」
ヴィルソルは一枚の新聞を出してこう言った。そこには、俺たちがクナブの事件を解決したことがでっかく書かれていた。俺が呪いで苦しんでいる間に、こんな風に記事にされていたのか。
「あの時は大変だったわよ。毎日毎日マスコミがロイボの町にやってきたのよ」
「皆ケンジのことを記事にしようとしていたけどね、ナルセが魔力をぶっ放した後から皆こなくなっちゃったの」
あ、マスコミの連中は成瀬に脅されたようだ。成瀬はそんなこと言わなくていいわよと言っている。
その後、エクラードの人たちは俺たちをいろんな所に案内した。いろんな所を歩いていると、とてつもなく邪悪な気配を感じた。
「誰だ!」
俺は剣と銃を構え、後ろを振り返った。だが、そこにあったのは塔ぐらいしかなかった。
「あれ? 何もない」
「ケンジ、あの塔の中から気配を感じたのか?」
ヴィルソルが俺にこう言った。気配を調べると、あの塔の中から感じた気配がした。
「あの塔の中には何がある? あれほどの気配を放つ物があるのか?」
「あれは封印の塔と言います。あそこには何千年前の我々の祖先がそこに邪悪で呪われた武具を封印したという伝説があります。実際、あの中を見たことがある人はいませんが」
と、俺たちを案内していた女性はこう言った。伝説と言われているけど……あの中に何かがあるのは間違いない。少し離れているだけで感じるこの気配。それだけ、その武具は強力な物のようだ。
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