宿命の戦いとバスタイム
ティーア:宿の外
やれやれ、ニートゥムの奴は何回私と戦うつもりだ? ニートゥムはそれなりに勉強も運動、剣術の成績もよく、魔力も使えるけど、性格に難があって勇者には向いていない。師匠もそのことを察していて、何度もあいつに勇者の器じゃないと言っている。だけど、何で勇者になれないのかあいつは自分自身で分かっていない。
「さぁ、剣を取れ」
ニートゥムは鉄の剣を私に投げて渡してきた。
「はぁ、何度やっても結果は同じだよ」
「同じじゃない」
ニートゥムはそう言うと、剣を構えて私に向かって走り出した。のろい。のろすぎる。奴の動きを簡単に理解できる。それなりに鍛えたと思うけど、やっぱり根本的に奴の動きは変わっていない。
「おりゃァァァァァ!」
「遅いよ」
私は襲ってくるニートゥムの剣をかわし、ニートゥムの首元に剣の刃を軽く当てた。
「これが本当の殺し合いなら、もうニートゥムの首は体とバイバイしているよ」
「ぐっ!」
ニートゥムは腕を強く振り回し、背後にいる私を遠ざけた。
「ふざけるな! 戦いは始まったばかりだ!」
「いーや、もう終わっているよ」
しょうがない、少し本気を出そう。私は魔力を少し開放し、素早く奴の所へ移動した。
「魔力を解放したか……なら……俺も解放しよう!」
そう言うと、ニートゥムは大声と共に魔力を解放した。
「どうだ、これが俺の本気だ!」
と言っているが、強い魔力ではない。解放した時に衝撃波も発してはいるが、あまり強くはない。
「それが本気なの?」
「ああ、どうだ? ぶっ飛ばされる前に降参するか?」
「その言葉、そのまま返すよ」
私はそう言うと、少し魔力を解放した。その時衝撃波が発したけど、衝撃による風圧はニートゥムより倍以上に強い。
「な……あ……」
「これでも本気じゃないよ。もし、本気で戦っていたらあんたは確実に負けているからね」
勝負あり。私はそう思い、宿に戻ろうとした。だが、奴の方はまだ諦めてはいなかった。
「まだだ! 魔力で戦いは決まるものではない!」
私は後ろを振り向き、襲ってくる奴に対して剣を振り下ろした。その直後、見えない衝撃波が奴を襲い、宙へ吹き飛ばした。
「ギャァァァァァァァァァァ!」
「手加減はしておいたから。じゃーねー」
遠くへ吹き飛ぶ奴を見て、私はこう言った。
「ん、終わったみたいだな」
その時、ケンジが宿の中から姿を見せた。
「うん」
「あんまり強くなさそうな奴だったな。毎回ティーアにケンカを仕掛けてくるのか?」
「そう。勇者の称号をかけて俺と戦えといつも言っているの」
「しつこい男はモテないのに」
「そろそろ私も宿の中に戻るよ」
「おう。成瀬たちは先に部屋に戻っているから」
「うん」
その後、私とケンジは宿の部屋へ向かった。
剣地:宿の風呂
やっぱり風呂はすんごい気持ちいい。久しぶりに入るせいか、なんだかいつもより気持ちよく感じる。しばらくすると、扉の外に成瀬の影が見えた。何だ、一緒に入りたいのか。俺は扉を開き、中にいる成瀬を見た。
「剣地!」
「一緒に入ろうぜ」
俺はそう言うと、成瀬の手を握り風呂の中へ入れた。
「もう、せっかちだから」
「ははは。そうだな」
「そうだな。じゃないわよ。こっちは久しぶりに裸同士での付き合いをするから、少し緊張しているのに」
「確かに。ずっとお前の体を見てないか、なんだかこっちも緊張してきた」
「こっちの方もね」
背後にいたルハラが、俺に抱き着いてこう言った。
「ちょ、いつの間に!」
「扉を開けた瞬間にさっと移動して、さっと背後に回ったの」
その後、ルハラは動き始めたが、足元が濡れているから滑りそうだ。
「ちょっとルハラ、風呂場で暴れたら滑るわよ」
「と言うか、ケンジが滑るよね」
「ケンジ、我が支えるから安心しろ」
ヴァリエーレさんたちも風呂場に入ってきた。その後、俺たちは温泉に入り、体を癒し始めた。しっかし、皆と風呂に入るのは久しぶりって感じがするなぁ。
「なーにー? なんだかそわそわしているけどー」
ルハラが胸を俺の頭にくっつけながら、にやにやしてこう聞いた。
「なんだかそわそわして癒されない」
「じゃあキスして気を和らげる?」
「なんでそうなる?」
ルハラは俺の言葉の後で俺の前に移動し、激しくキスをし始めた。そんな中、成瀬がこう言った。
「風呂場で暴れたら滑るって言ったでしょ」
「魔力で何とかしてあるから大丈夫」
「あ、魔力使っておるのか」
ヴィルソルがルハラの足元を見てこう言った。まぁ、魔力のせいで少し湯が動いていた。
「でも、暴れるのは止めましょうね」
ヴァリエーレさんが俺に近付き、ルハラをどかそうとした。
「やーだー! もっとキスするー!」
ルハラが暴れたせいで、俺はヴァリエーレさんの方に倒れてしまった。
「おわっ!」
「きゃあっ!」
ヴァリエーレさんを巻き込んでしまったかと思ったが、ヴァリエーレさんの巨乳が俺の頭を包み込んだ。まぁ、巨乳がクッションになったというわけだ。
「ケンジ……」
「すみません……でも、しばらくこうしていていいですか?」
「そうね、いいわよ」
ヴァリエーレさんは胸のあたりにいる俺を優しく抱きしめた。この様子を見たティーアとヴィルソル、そして成瀬が羨ましく思ったのか、俺に近付いて俺を抱きしめた。
「私もケンジ抱きたい」
「我もじゃ! ヴァリエーレばっかりずるいぞ!」
「私も……」
「もちろん私もー」
成瀬たちはそう言って、俺を抱きしめた……って、ルハラは一体どこを抱きしめている? で、皆一斉に俺を抱きしめたせいか、徐々に息苦しくなってきた。
「ちょ……待って……息が……できな……」
俺の言葉を聞いたのか、ルハラ以外は一斉に離れた。
「独り占めじゃー!」
「ルハラも離れなさい」
ヴァリエーレさんが俺に抱き着いてうねうね動いているルハラを外した。ふぅ、何とか呼吸ができる。また神様の所へ行かなくて済むようだ。
神様……神様と聞いて俺は思い出した。結局、徳川家康はどこにいるのか聞けずじまいだった。うーん……何だか気になりだしたら止まらなくなってきた。何とか別の方法で神様に話を聞けれたらいいけどな。
「剣地、そろそろ上がる?」
横にいた成瀬が、俺にこう聞いた。
「ん? ああ、そうだな。ちゃんとゆっくり寝たいしなぁ」
俺はあくびをしながらこう言った。確かに家康のことも気になるけど、体と心を休める時は休めないと。俺はそう思い、皆と風呂場から出て行った。
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