エクラードでの時間
ルハラ:エクラードの宿屋
いやー、ケンジが目を覚ましてホッとしたよー。もう死んじゃうかと思ったけど、何とか助かったみたいで本当に良かった。
「ごめんな、皆。本当に迷惑かけて……」
「剣地が悪いわけじゃないわ」
「ケンジに呪いをかけたクナブがいけないのよ」
ナルセとヴァリエーレがケンジにこう言っている。そんな中、ティーアは笑うケンジにこう聞いた。
「ねぇ、久しぶりに起き上がって何ともないの?」
「ん? まぁ、少し体がだるいけどな」
「そりゃそうじゃ。ヒレラピの騒動からずーっと寝たきりだったからな」
ヴィルソルはケンジに立つように言うと、ストレッチをするように促した。ケンジは体を動かそうとしたが、まだ動きがちょっとぎこちない。
「あれ? いつも通りに動かしているつもりだけどな」
「やっぱり、起き上がったばっかりで体が言うことを聞かないのよ」
「しばらくはストレッチをして体をほぐし、徐々に体を慣らすしかないのう」
「うーん。それもそうだけど、神様のおっさんに頼まれごとされたし」
「え? 神様って……あの?」
ナルセは神様って人のことを知っているようだ。
「ああ、俺たちが日本で死んで、ここに転生する前にあったおっさんだよ」
「覚えているわ。だけど、何で剣地の所に?」
「死にかけたから」
この言葉を聞き、ナルセたちは納得した。
「で、何を頼まれたの?」
「実はさ、徳川家康を倒してくれって言われたんだよ」
トクガワイエヤス? 誰だ、それ? 変な名前がケンジの口から出てきた。この名前を聞いたナルセは驚いていたから、多分ニホンってところの有名人だろう。二人も名前を知っているようだし。
「あの徳川家康がここにいるの?」
「ああ。唯一知っていることは、エルフに転生しているってことだけ」
「エルフに?」
おっと、ここで私に関する言葉が出てきた。どうやら、神様って人が倒してほしい人はエルフらしいな。
「そうだ。ねぇルハラ、知り合いのエルフに五百年生きている人っていない?」
「うーん……私がいた群れにはいなかったなー。生きていて百年」
「知らないのね……」
ナルセが何かを考えながらこう言った。すると、何かを思い出したかのようにケンジが口を開いた。
「そうだ。近いうちに何かするって言っていたな」
「何かするって何?」
「悪いことだろ。大きな悪意って言っていた」
「悪意……じゃあ、本当は悪い人なのね」
「かもしれないな。俺たちが学んだことより少し違うかもしれないし」
「二人とも、そのイエヤスと言う男のことを詳しく教えてくれないか? 我たちが話についていけん」
ヴィルソルの言葉を聞き、ケンジとナルセは頷いて答えた後、私たちにイエヤスと言う男のことを説明した。
イエヤスと言う男は、ケンジとナルセがニホンと言う国で生まれる約五百年前に生きていた男で、いろんな戦いを勝ち抜いてニホンと言う国を統一した男である。まぁ、その後の話を聞いていたのだけれど、統一というより、支配したような感じがする。
「統一か……我としては、あまり聞きたくない言葉じゃのう」
「どうして?」
ティーアが渋い顔をするヴィルソルにこう聞いた。その時、私は察した。独裁王国だったシリヨク王国のことを思い出したからだ。多分、あの男が統一したニホンって国と、シリヨク王国を重ねているのだろう。
「まぁ、確かに独裁国家みたいな感じだったな」
「だけど、それなりに平和だったらしいわ。まぁ、大きな事件とかはあったけど」
「有能な男だといいが」
「家康の後を継いだ人には優秀な人がいたけど、例外もいたわね」
「動物をいじめたら即死刑というのがあったな。それに、その時の将軍……リーダー的人物が動物好きで、人より犬とか猫を優先していたからな。牛、鳥、豚の肉も食えなかったって聞いた」
「うわ……それはそれで……悲惨じゃのう」
なんかまぁ、いろいろとあったようだ。
「しかし、そんな男が何で悪意を持って動こうと?」
「それは分からない。俺が聞く前に、変な光が発してここに戻ってきたから全部話を聞けなかったんだよ」
「そうだったの」
どうやら肝心な部分は聞けなかったようだ。その変な光というのも空気を読んで欲しいな。もしかしたら、私たちがそいつらと戦うかもしれないのに。
私がそう思っていると、突如どこからか大きな腹の音が聞こえた。ケンジの顔を見ると、少し笑っていた。
「そう言えば、ずーっと何も食ってないっけ……」
ケンジはそう言って、その場に倒れた。
ヴァリエーレ:宿の食堂
いきなりケンジが倒れてびっくりした。だけど、冷静になってみると倒れた理由は簡単に分かった。
「すみません、おかわりお願いします!」
ケンジは目の前に出された三百グラムほどのステーキをぺろりと食べ、更におかわりをお願いした。これで五皿目だ。
「剣地、少しはゆっくり食べなさいよ」
「いやー、たくさん食っても腹が満たされなくて」
ケンジは笑ってナルセにこう言った。長期間何も食べないでいると、人ってああなるのかな? まぁ、ケンジだけだと思うけど。
「すみません。今度はこっちにもおかわりください」
今度はルハラがおかわりを要求した。ルハラが食べているのは、巨大なステーキだった。
「なんでお前まで食っている?」
「いやー、安心したらお腹空いちゃってねぇ」
「まぁ……確かにケンジが倒れている間、お主はあまり食欲がなさそうに見えたな」
「滅茶苦茶心配して食事がのどに通らなかったからね」
ルハラは運ばれた巨大なステーキを頬張りつつ、ヴィルソルの質問に答えていた。そんな中、ナルセが何かに気付き、私たちにこう言った。
「変な魔力が近付いてくる」
「こんな状況で我らにケンカを売ってくるバカがいるのか?」
と、ヴィルソルは呆れてこう言っていた。しばらくすると、食堂に一人の男が入った。その男を見て、ティーアはため息とともにこう言った。
「はぁ、あんただけには会いたくなかったけど」
「俺は貴様に用がある」
その男は腰の剣を取り、ティーアに向けてこう言った。ティーアは渋々立ち上がり、その男にこう言った。
「何回教えても分からないの、ニートゥム? 勇者の称号をかけて何回ケンカしたか分かる?」
「知らん。俺は貴様に勝つことしか考えていない」
「これまでずっと負けてきたよね? もう諦めなよ。師匠にも言われたでしょ、あんたは勇者に向いてないって」
ティーアのこの言葉を聞き、ニートゥムと言う男はティーアを睨んで叫び始めた。
「それは間違いだ! 貴様のような女が、勇者になんかなれるはずがない!」
「だけど選ばれた」
「それが間違いだ! 俺と決闘しろ! 今度こそ、勇者の称号は俺に相応しいことを示してやる!」
そう言って、ニートゥムは外に出て行った。
「で、どうする勇者? あの程度の男なら、ほっておいても害はなかろう」
ヴィルソルがお茶を飲んでこう聞いたが、ティーアは大きなため息を吐いて答えた。
「ほっといても害はないと思うけど……仕方ないから、あいつの言う通りちょっと戦ってくる」
「そうか。怪我するなよ」
と、ケンジはステーキにかぶりつきながら、こう言った。
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