ゴブリンデストロイヤー
ニアスゴブリンのAは恐怖を覚えていた。他のモンスターよりも知能があり、他のゴブリンとは違って力も統率力もある。群れでかかればそれなりの力を持った旅人も倒すことは可能だった。しかし、あの悪魔のような少女……成瀬だけは違った。今、成瀬は両手の剣と強い魔力を使って仲間を攻撃している。
「ギャァ!」
Aの目の前に、斬られた仲間が吹き飛んだ。様子を見たのだが、仲間は致命傷を受けており、あと少しで死ぬだろうと思った。
「た……頼む……俺の腕を……渡してくれ」
「無理だ……俺の魔力じゃこの傷を治せない!」
「分からねーだろうが! 頼む! 腕が痛い……血が出て、斬られたところが火傷をしたように熱い!」
その時、腕を斬られた仲間の下から火の柱が放たれた。成瀬が火の魔力を使って追い打ちを仕掛けたのだ。
「ヒィ!」
恐怖のあまり、Aは成瀬から遠ざかった。しばらく逃げていると、氷で塞がれた出入り口の前にきた。氷を見てみると、さっきより小さくなっている。もしかしてと思い、氷を触ってみると、Aの手には水が付いていた。
運がこっちに回ってきた。
Aはそう思いつつ、成瀬が気付かないように氷に攻撃し始めた。氷が溶けだした今なら、何とか脱出できるかもしれない。攻撃を続け、何とかAの体が通れるくらいの隙間を作った後、Aはその隙間から部屋の外へ脱出した。
やった! 脱出できたぞ!
この時、Aは泣いて脱出を喜んだ。その後、Aは急いで外へ向かった。
「よっしゃ! 脱出成功したぜ!」
恐怖の成瀬から逃げだしたことを嬉しく思い、思わずAは大声で喜んだ。その時、Aの耳に風の音が響いた。その直後、Aは何故か倒れてしまった。
「いつつ……」
立ち上がろうとしたのだが、足が言うことを聞かなかった。何で足が動かないと疑問に思い、Aは自分の足を見た。そして、言葉を失った。Aの足から大量に血が流れているからだ。
「え……」
「逃がすと思った?」
成瀬が右の人差し指から無数の風の刃を発しながらこう言った。その時、Aは察した。成瀬は気付かれないように無数の風の刃を発し、足を攻撃したのだと。
「そんな……逃げられたと思ったのに……」
「仲間を置いて逃げようと考えていたよね?」
「そうだ……俺は死にたくない!」
「あんたたちに殺された旅人の人も、最初はこう言っていたはずよ。あなたたちは、その言葉を聞いて言うことを聞いたことがある?」
「はい!」
Aはすぐにこう返事をしたのだが、これは嘘である。Aたちニアスゴブリンは獲物を見つけたら、男はすぐに殺し、女はオモチャとして地下に捕らえてある。今もあの洞窟の中でオモチャとして地下で吊るしてある。
「はぁ……まぁ本当だとしても」
成瀬はこう言った後、剣でAの体を斬ってしまった。
「あんたのような卑怯者は必ず倒すけどね」
その後、成瀬はAの体から血液を採取し、必要分を取った後、Aの死体を火の魔力で焼却した。
成瀬はAを倒した後、地下へ向かった。そこには全裸の女性たちが涙を流しながら横たわっていた。
「あなたは?」
一人の女性が、成瀬に気付いた。成瀬は彼女らに落ち着くように言った後、彼女らの手足を拘束している鎖を斬り、こう言った。
「助けにきたわ。ここから逃げましょう」
その後、成瀬は捕らえられた女性を救出し、共にエクラードへ向かった。
ルハラ:フィレの家
「戻ったよー」
私は家に戻った直後、フィレさんの元へ向かった。すると、先に戻っていたヴァリエーレが急いで私の元へ駆けつけた。
「おかえり! サキュバスの涙は?」
「たくさん手に入れたよー」
私は瓶一杯に詰められたサキュバスの涙を、ヴァリエーレに渡した。
「うっ! 重い!」
「結構詰めてきたからね。で、ケンジの方はどう?」
「時間がないの。ティーアとナルセが早く戻ってくればいいんだけど」
「今戻ったよ!」
この時、ティーアの声が聞こえた。
「ティーア! 急いで、もう時間がないの!」
「分かった! すぐにこっちに行くよ!」
ナーデモナオ草を持ったティーアは、急いでフィレさんの元へ向かった。
「戻ったかティーア。魔王の嬢ちゃん、少しあの坊主への回復を任せていいか?」
「ああ」
「私も手伝うよ」
ヴィルソルとティーアが、ケンジに魔力による治療を始め、フィレさんは調合道具を引っ張り出し、私たちが集めたアイテムの調合を始めた。
「ねぇ、ゴブリンの血液だっけ? ないけどいいの?」
「最後に加えれば大丈夫じゃ。とにかく準備をしなければ……」
その後、フィレさんは私たちが持って来たアイテムの調合を始めた。後はナルセがゴブリンの血液を持ってくればいいんだけど……私がそう思っていると、外から悲鳴が聞こえた。
「私が見てくる」
私は外に出て、何があったのか調べてみた。そこには、マントを羽織った女性を連れて、里に戻ったナルセの姿があった。だが、ナルセの体はゴブリンの返り血を浴びたせいか、血に染まっていた。
「あ、ルハラ! 戻っていたのね!」
「ナルセ以外は戻ってるよ」
「私が最後なのね」
「うん。それと、後ろの女性たちは何? 見ていたらムラムラしてくるけど」
「発情しないの。後ろの女性たちは、皆ゴブリンに捕まっていた人たちよ。助けたの」
「そうなのね。とにかく家の中に入ろうよ。そのついでにお風呂に入って」
「ええ」
その後、ナルセはゴブリンの血液をフィレさんに渡した後、大急ぎでお風呂に入りに行った。私も一緒にナルセとお風呂に入りたかったけど、ケンジのことが気になる。私は自分の性欲を抑え、ケンジの元へ向かった。
「よし! あと少しで完成じゃ!」
フィレさんはナルセから渡されたゴブリンの血液を手にし、他のアイテムを混ぜたものに血液を垂らした。うえ、ゴブリンの血の臭いが漂ってきた。気持ち悪。
「ちょっと臭いけど我慢しろよ……」
フィレさんはゴブリンの血液を混ぜたものに加えた後、棒でかき混ぜた。
「これで完成じゃ」
どうやら呪いを解呪するアイテムができたようだ。フィレさんはスプーンでそれを救い、ケンジの首元に垂らした。
「あの、変な煙が上がっていますが、大丈夫ですか?」
「ああ。ちょっと熱いだけじゃ」
アイテムがケンジの首元に垂れると、首元の呪印が色を変えながら激しく動き始めた。
「呪印が動き出した!」
「苦手な物の集合体をかけられ、苦しんでいるようじゃ。どうやら、効いているぞ」
その後、フィレさんは続けてそのアイテムを首元に垂らし始めた。しばらくすると、お風呂上がりのナルセが部屋に入ってきた。
「何か臭いけどこれ何?」
「解呪用のアイテム。今、それを使って解呪をしている」
「じゃあ、剣地が助かるのね!」
笑顔でナルセはこう言ったが、フィレさんは深刻な顔をしてこう言った。
「助かるのかはまだ分からん。後は、お前さんたちの働き次第じゃ」
「え? それってどういうこと?」
「今、死の淵にある坊主を助けるのはお主たちじゃ。坊主の体……手でも足でも頭でもいいから触って、戻ってと心の中で叫ぶのじゃ」
「それで戻るのか?」
ヴィルソルの質問に対し、フィレさんはうむと短く返事をした。
「時間がない。早く」
その後、私たちはケンジの周りに集まり、ケンジの手を握って祈り始めた。
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