壁を乗り越えろ
今から数年前。幼いティーアは目の前にある崖を見て、口を大きく開いて驚いていた。
「ねぇ、師匠ってこんな高い崖を登ったの?」
「おー。鍛えれば楽に登れたわ」
幼いティーアの横にいるフィレが、笑いながらこう言った。だが、幼いティーアはフィレの体をまじまじと見つめた。
「どうかしたか?」
「筋肉ないのにどうやって登ったの?」
「はっはっは。この崖を登るには、力以外にも必要な要素がたくさんある」
「力以外?」
「そう。力も必要だが、それ以外にも魔力と体力、そして落ちてたまるかという気持ちが必要じゃ」
「へー。何だかいろいろと必要だね」
「今のお前じゃあ無理だが、体を鍛え、いろいろと学んだ後なら楽に登れるだろ」
フィレはそう言うと、幼いティーアに戻るぞと言って里へ向かった。その後ろを追うように、幼いティーアは歩き始めた。
ティーア:森の中にある崖
まずい、落下中に昔のことを思い出していた。あと少し落ちたら地面にぶつかりそうだ。
「ふんぬっ!」
私は魔力を込め、スカイウイングを発動し、落下スピードを落とした。
「ふぅ……」
何とか助かった。だけど、このままスカイウイングを使っていれば魔力を消費してしまう。ここまで登ってきたせいで、体力も魔力も使ってしまい、限界に近い。
さて……どうやってここを乗り越えよう。何かできることを考えろ。
しばらく考えていると、上空にいた怪鳥が私に向かって襲ってきた。
「もう、しつこいなぁ!」
私は闇の魔力を発し、怪鳥に向けて闇の球体を投げた。その時、あるアイデアが私の中に浮かんだ。今まで忘れていた。私は便利なスキルを持っていたではないか!
「一か八か……やってみよう!」
私は光と闇の魔力を同時に発し、光と闇で作られた翼を背中に広げた。スカイウイングだと魔力を消費してしまうが、光と闇の魔力消費をゼロにするマジックマスターなら、リスクなしで空を飛べる!
「イヤッホォォォォォォォォォォ!」
光と闇の翼を動かし、私は空を飛び始めた。翼を生やして空を飛ぶ私を見て、怪鳥共は驚きの悲鳴を上げていた。攻撃されるとでも思った怪鳥共は羽で防御をしていたが、こんな奴らと戦っている暇はない。
「あんたらの相手はまたいつかやってやるよ!」
私はそう言って、崖の頂上へ向かって行った。
最初からこうしていればよかった。これなら、苦労して崖登りすることもなかっただろうに。そう思っていたが、下にいた怪鳥共が私を狙って迫っていたのだ。怪鳥共は大きな声を上げ、私に向かって突進してきた。
「うわぁっ!」
私は奴らの攻撃をかわしているのだが、次々と襲ってきているので、対処ができない。クッ! こいつら……何が何でも私と戦うつもりだ!
こんな所で戦っていたら、ケンジの命が危ない! だけど、こいつらを無視していたら、何度でも襲ってくるだろう。仕方ない。さっさとこいつらを始末しよう!
私は両手に光の魔力を溜め、怪鳥に向けて光の光線を放った。だが、私の攻撃を勘付いていたのか、奴らは私の光線を回避してしまった。
「なっ!」
あいつらは意外とやるようだ。もしかしたら、過去に私と似た人物と戦ったことがあり、そいつから光の攻撃を学んだのか?
「こうなったら……」
私は左指に闇の魔力を溜め、怪鳥に向けて放った。怪鳥は声を上げながら闇の球体をかわしたが……そうなることを予想していた。
「後ろに気を付けなよ」
私は大きな声で怪鳥にこう言った。ま、鳥が人の言葉を理解するわけがないか。私が放った闇の球体は、追尾機能が付いており、ターゲットに命中するまで何が何でも攻撃するというちょっと優れた機能が付いている。まぁ、他の人も似たような技を使うけど。
闇の球体は怪鳥に命中し、傷を与えた。だが、群れのボスらしき傷が付いた怪鳥だけが、まだ空を飛んでいた。その怪鳥は私を見て、他の奴とは比べ物にならないくらいの声で叫び、私に向かった。
「こい!」
私は剣を構え、奴の攻撃を受け流そうとした。何とか剣を使って奴のクチバシ攻撃をかわすことができたのだが、奴のクチバシは異常に硬く、振動が剣から腕に伝わった。
「つっ……」
振動で震える腕を振り回しながら、麻痺をごまかしているが、奴はまた攻撃を仕掛けようとしていた。
「今度は……」
私は剣をしまい、右手に光で作った剣を発した。これなら奴のクチバシを攻撃することができるだろう。
「グェェェェェッ!」
うるさい! さっきよりも奴の鳴き声がうるさい! 片手で耳を抑えても、奴の鳴き声は私の耳に入った。私が怯んでいる隙に、奴は私に向かって突進してきた。
「返り討ちにしてやるわよ!」
私は急いで剣を構え、奴のクチバシに攻撃をした。攻撃の結果、私に傷はなく、奴のクチバシの一部を切り落とすことに成功した。
「これで分かったでしょ? あんたらじゃあ私の相手にならないよ」
私がこう言うと、怪鳥のボスは情けない悲鳴を上げながら、戦意を失った部下と共にどこかへ行った。
さて。これでやっと頂上へ向かえる。私は崖の頂上に立ち、周囲を見回した。確かこの崖の高さは三百メートル。ここから見る景色は物凄い絶景だ。ただ、足場が狭いため、下手したら落ちちゃうけど。おっと、絶景に見惚れている暇はない。ナーデモナオ草を探さないと。私は師匠から貰った写真を手掛かりに、周囲を探した。しばらくし、写真通りの草を見つけることができた。
「やった! 見つけた!」
私はその草をむしり取り、バックの中へ入れた。いざという時のために、たくさん用意しておこうと思った私は無我夢中でナーデモナオ草をバックの中に入れ始めた。
「よし、戻ろう!」
ナーデモナオ草をバックに詰め込んだ後、私は再び光と闇の翼を広げ、下へ降りて行った。
ヴァリエーレ:フィレの家
私はフィレさんの家に戻り、聖域の水を渡した。
「ふむ。この量なら呪いを解けるかもしれんのう」
「本当ですか!」
「じゃが、他に必要な素材がまだない。ティーアたちの帰りを待つしかない」
フィレさんはそう言うと、再び魔法陣の前に向かい、解呪のために行動を始めた。何かできることがないかと思い、私はフィレさんに近付いてこう聞いた。
「私に何かできることはありませんか?」
「では、これを着てくれ」
その後、フィレさんはタンスからある衣装を取り出した。それは、かなり際どいエッチな踊り子の服だった。
「何ですかこれ?」
「わしのやる気を出すために、これを着てちょーだい!」
「断ります」
私は電撃を使い、際どいエッチな踊り子の服を焼き捨てた。
「のォォォォォォォォォォ! これ、通信販売でやっと手に入れた衣装だけど! 結構高かったんだけど!」
「さぁ、とっととケンジの呪いを解除しなさい」
「傷心のじーさんに言うセリフか?」
「人妻にエッチな服を着させようとする人の言うことは聞きません」
「もう。少しはサービスしてほしいのう」
「しませんよ」
「分かった。じゃあ、あの坊主の横にいてくれ。お主、マザーズボディを持っておるじゃろう? そのスキルであの坊主を癒してやれ。少しでも効果があると思うから」
「分かりました」
私はケンジに近付き、手を握った。ケンジの手は氷を触っているかのように冷たい。もう時間がないと言うことだろう。ケンジ……死なないで。そして……皆、無事に戻ってきて!
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