森の中の宝探し
ヴィルソル:エクラードの南西の森
フィレさんの家を出た後、我たちは分かれてサキュバスの苦手な物を集めることにした。どれもこれも探すのに時間がかかるというので、一緒に一つ一つ探すと時間がかかるため、別行動をすることにした。迷った時のために、ヴィジョンマップにエクラードの情報を追加しておいた。その選択は間違えではないと我は思った。エクラードの周りの森はかなり暗く、街灯の類は一切存在していない。我自身が放つ魔力の明かりだけが頼りだ。
しっかし、暗い森じゃのう。どこに何があるか分からん。こんな状況だったら、探し物は見つけにくいだろう。我が探しているのは、解毒の効果があるというチイロと言う花。この花の色は血に近い色で、見た感じはグロテスクな花かと思われる。だが、解毒効果が高く、高値で売買されている。実際、この花を使った解毒薬は市販で回るととんでもない値段で出される。この花の生息場所は、暗い場所。昼間でも暗いこの森なら、生息しているに違いない。
しばらく歩いていると、少し離れた所で草の動く音が聞こえた。魔力の気配もある。どうやら、野蛮なモンスターが我に近付いてきたようだ。本来なら雑魚の相手はしていられない。ケンジの命もかかっているし、こっちには時間がない。しかし、このモンスターの魔力は高い。普通のモンスターではないな。
「かかってこい。貴様がいるのは分かっているぞ」
「ほう。私の気配を感じるとは、さぞかし名のある戦士なのでしょう」
声が聞こえた? 我は驚き、一瞬身構えた。しばらくして我の前に現れたのは、一匹の白い狼だった。額の三つ爪の傷……どうやら、バーナンウルフだろう。バーナンウルフは群れよりも個々で行動している珍しい狼型のモンスターだ。一部のバーナンウルフは魔力を持ち、知性もあるというが、まさか、人の言葉を話す奴もいるとは。
「驚いたか? ただのバーナンウルフだと思っていたのでしょう」
「まーな。だが、我には時間がない。貴様に構っている暇はない」
「あなたの都合は知りません。私の目的は宝を守ること。これ以上進めば、あなたの命を奪います」
宝? 何のことだ? フィレさんはこの森に宝が存在するなんて言ってなかったぞ。
「宝? そんなものがあるのか」
「あの花畑は私が先に見つけました。なので、すべて私の物です」
花畑か……チイロの花だったらいいけどな。
「我が探しているのは、チイロの花だ」
「その花畑を守っているのです……あなたも、噂を聞いてここへきたのですね」
殺気が強くなった。探し物はすぐに見つかったが、どうやら簡単には手に入らないようだ。
「頼むが、少しばかりその花を分けてくれぬか? 我の旦那にかけられた呪いを解くのに必要なのだ」
「さっきも言ったでしょう。あなたの都合など知りませんと」
「仕方ない、無駄な戦いは避けたかったのだが」
我は槍を持ち、バーナンウルフに戦いを挑んだ。バーナンウルフは後ろに飛び、我から遠ざかった。飛んだと当時に、奴の周りに白い霧が発生した。
「氷漬けになりなさい」
その白い霧は、我に向かって飛んできた。その霧が通った後、地面の草は凍り付いていた。ほう。あの霧に触れれば凍ってしまうのか。
「ふん!」
我は闇の魔力を発し、白い霧を発散させた。
「闇の魔力ですか……あなたを多少甘く見ていました。全力で戦わせてもらいます」
すると奴は、また白い霧を発生させた。だが今回は最初のものとは違い、数も霧の範囲も多かった。
「さぁ、愚かな人間と同じように凍ってしまいなさい」
どうやら、我以外にもあの花を求めてあのバーナンウルフに戦いを挑んだ愚か者がいるらしい。だが、我以外の連中は皆倒された。
「おい……狼もどきが我を愚か者と一緒にするな!」
向こうが全力を出すなら、我も全力を出さねばいかないな。
「ほう。噂には聞いていました。光の魔力を持つ魔族の少女。あなたが魔王、ヴィルソルですね」
「だからどうした? 我の力を見て驚いたのか?」
「いえ。ただ……あなたのような猛者を見て、闘志が出てきましたよ!」
その瞬間、バーナンウルフの周りの植物が一瞬で氷漬けになった。向こうも魔力を解放したようだ。
「では参ります!」
「こい!」
バーナンウルフの白い霧が我に向かって襲い掛かった。我は槍を振り回し、霧を振り払ったのだが、散った霧は細かくなり、我を襲った。
「グッ!」
細かい霧に当たったせいで、体の一部が霜焼けとなってしまった。
「この程度で音を上げるのですか?」
「ハッ! たったこれっぽっちのダメージで図に乗るな!」
我は槍を振り下ろし、闇の衝撃波を発した。バーナンウルフは衝撃波を飛び越え、頭上から我に接近した。
「この攻撃で、私を倒せると思っているのですか?」
「囮じゃ。貴様がここにくるだろうと考えての行動じゃ」
「なっ!」
どうやら、奴は我の行動を察したらしい。今、我の左手には光の魔力が発してある。
「最初に言っただろ。我を愚か者と一緒にするなと」
我はそう言った後、光の魔力を発した。
フィレは時折休憩をはさみながら、剣地の解呪を行っていた。
「ふぅ……こいつは少々骨が折れるのう……」
汗を流しながら、フィレは独り言を呟いた。その時、非常口から扉の開く音が聞こえた。そして、足音がフィレの元に近付いてきた。
「はぁ……なんの用じゃニートゥム?」
呆れた表情をしたフィレは、後ろに近付いてきた男性、ニートゥムに口を開いた。
「ティーアが帰ってきたと報告がありましたので」
「帰ってきた理由はお前に会うためではない、旦那を救うためじゃ」
「こいつがティーアの旦那か」
ニートゥムは横になっている剣地を睨んだ。その表情を見たフィレはため息を吐き、こう言った。
「色欲におぼれた奴が、勇者と名乗る資格はないと言いたそうな目だな」
「はい。勇者は悪を倒し、皆に尊敬される存在です。愛や恋など、バカらしいもののために動く女が、勇者の称号を得るには相応しくありません」
「人は、常に欲望で動いている。お主も勇者の称号を得るために、いろいろと工作したではないか。それに、貴様も恋人がいる。そんなこと言える立場か」
この言葉を聞き、ニートゥムは呆れてこう言った。
「俺はこれまで自分が勇者にふさわしいと思っていました。俺はティーアよりも勉学の成績が上、剣などの武術の成績が上でした。なのに、あいつが勇者に選ばれたのか理解できません。あいつが勇者の一族だとしても、それ相当にふさわしい成績ではなかった……なのにどうして!」
「お前、わしの元にくるたびこう聞いてくるのう。いい加減聞き飽きたわ」
フィレはニートゥムの方を振り返り、睨みながらこう言った。
「理由は簡単。貴様は勇者にふさわしくない。その答えは貴様自身で見つけることだ。それを理解し、正すことができたら勇者になれるかもしれぬ」
「師匠は、俺がこう聞けば必ずこの言葉を言いますね。聞き飽きました」
ニートゥムがこう言った直後、フィレは手にしたナイフをニートゥムに向けて突き出した。ニートゥムの手には、剣が握られようとしていた。
「ここで騒動を起こすな。憂さ晴らしでティーアの旦那の命を奪ってみろ。貴様は勇者ではなく愚か者になるぞ」
「そいつを殺せば、ティーアは確実に俺に戦いを挑む……」
「バカなことをしてティーアを挑発するつもりか? 貴様、正気か?」
フィレの言葉を聞き、ニートゥムは手にしている剣を鞘に納めた。そして、疲れた様子を見せながら非常口から外に出て行った。その時、ニートゥムはフィレにこう言った。
「少し……冷静になってきます」
この言葉の後、扉の開く音が聞こえた。
「バカ弟子が」
去って行くニートゥムを見ながら、フィレはため息とともに呟いた。
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