ライブ当日
剣地:バス内
翌日、ヒレラピの二人と俺たちを乗せたバスは、ライブ会場へ向かっていた。昨日から発生していためまいは何とか治った。二人と一緒に寝たせいか、すっきりしている。愛の力って偉大だなって思った。
「ケンジ、この依頼終わったらまた一緒に寝よー」
「我もそうしてもらいたい」
「はは。そうだな。今度は成瀬たちも一緒だ」
俺たちがこんな会話をしていると、クナブさんが俺の横に近付いてこう言った。
「うふ。今日はあなたのためだけに頑張るから」
おいおい、ファンより俺かよ。俺は心の中でそう思ったが、その時クナブさんはまた俺の首筋にキスをした。
「このライブが終わったら、二人でどこか出かけましょうよ」
クナブさんはそう言って、俺にウインクを飛ばした。それを見ていたルハラとヴィルソルは、変な目でこう呟いていた。
「あの子、堂々とケンジにアプローチかけているよ」
「嫁である我らがいる目の前で。度胸があるのう」
「気にしないでください」
リリオさんが二人にこう言った。俺が二人の顔を見ていると、さっきキスをされた首筋に変な違和感があったのを感じた。触ってみても、異常はなかった。
「どうかしたか?」
ヴィルソルが後ろから近づいて、俺に聞いた。
「ああ、なんか首筋が変だなーって。まぁ、特に異常はなかったけど」
「そうか。もし、変なことがあったら我かルハラに言え」
「分かった」
俺とヴィルソルが話をしていると、トリュスさんが俺たちにこう言った。
「会場が見えてきました。バスから降りる準備をお願いします」
その後、俺たちやヒレラピの二人、それとスタッフの皆さんはバスから降り、イベント会場内にある控室へ向かった。
ライブ中の護衛任務はこんな感じだ。俺がステージ後ろでヒレラピの二人を見守り、ルハラとヴィルソルが警備スタッフと共に見回りという形だ。
「それじゃあ行ってくる」
「ケンジ、気を付けて」
「ああ。二人も気を付けろよ」
ルハラとヴィルソルは警備スタッフと共に、会場の見回りへ向かった。俺はすぐに武器類を出せるように支度をし、ステージ裏へと回って待機した。さて、ライブ開始まで時間がある。俺はその場に座ってリラックスをし、戦いに備えた。
「準備はできたか?」
会場内のスタッフに変装したレーフェンが、同じくスタッフに変装した部下にこう聞いた。部下たちははいと返事をし、レーフェンの指示を待った。
「俺たちはスタッフに変装し、リリオを始末する。ルク、コンデ、お前たちは俺たちの邪魔をする奴らを始末しろ」
「分かりました!」
「ええ……」
コンデは大きな両腕を大きく上げて返事をし、ビキニ美女、ルクは短い返事を返した。
「さて、そろそろ仕事の始まる時間……だが」
レーフェンはルクに近付き、彼女の首元を触りながらこう言った。
「ルク、これが終わったらデートへ行こう」
「あら、仕事が始まる前からそんなこと言っちゃって」
「何か目標がないとやる気が出ないだろ。俺は何としてもリリオを殺す。そして、お前とデートだ」
「うふふ、分かったわ。仕事を終えてきてね」
「ああ、約束だ」
二人の雰囲気を見て、部下たちはにたりと笑っていた。
「おいおい、人のイチャイチャシーンをそんな顔で見るなよ」
「いやーだって……ねぇ」
「どんな時でも二人はラブラブですね」
「そんなことを言うな。さっさと行くぞ」
その後、レーフェンたちは殺したスタッフの死体を処分し、スタッフルームから出た。すると、遠くから別のスタッフの群れが見えた。
「スタッフの群れですね」
「あれに紛れて行動だ」
レーフェンたちはそのスタッフの群れに交じり、ライブ会場へと向かって行った。
ライブ会場内。すでに会場にはヒレラピのファンがおり、周りには警備スタッフが大勢いた。ヒレラピの近辺で騒動が発生したため、イベント関係者は警備を強くしたのだ。その点に関して、レーフェンはこうなるだろうと考えていた。だから、怪しまれないスタッフの格好をし、ライブに侵入する選択をしたのだ。
数分後、突如明るかった会場が暗くなり、ステージ上にスポットライトが照らされた。だが、そこには何もなかった。しばらくし、オルゴールの音楽と共に、ナレーションが流れ始めた。
「皆様、本日はお忙しい中、ヒレラピのライブコンサートへ足を運んでいただき、ありがとうございます。最近ヒレラピの周辺で大きな騒動が発生したため、本日は警備を厳重にしてライブを行います。ところどころに警備スタッフが通るかもしれませんので、ご了承の方をお願います。そして、不審な行動をとったお客様はすぐにご退場の方をさせていただきますので、不審な行動は避けてください。それでは……そろそろ二人の準備ができたようです。皆さま! 大きな拍手と声援をお願いします!」
ナレーションの直後、ファンの声援と拍手の音が会場中に響いた。カーテンが上がると、そこにはメルヘンチックな衣装を着たリリオとクナブが立っていた。
「それでは一曲目、聞いてください」
「メルメル☆ラブリー!」
二人のセリフの後、ヒレラピの大ヒット曲であるメルメル☆ラブリーが流れ始めた。この曲を聞いたファンが立ち上がり、大声援を送った。
「チッ、うるさいなぁ」
「そうですね。隙じゃない音楽だ、吐き気がする」
レーフェンの部下が小声でこう呟いた。レーフェンも部下の気持ちと同じなのか、舌打ちをして耳を塞いでいた。しばらくし、レーフェンは部下に小声でこう言った。
「そろそろ頃合いだ。武器を持って騒ぎを起こせ。まず、近くにいるファンかスタッフを殺せ」
「はい」
部下はその言葉を聞き、隣にいる警備スタッフに銃を向けた。だが、そのスタッフは銃口を掴み、その部下に魔力を発した。
「なっ!」
「貴様らが怪しいと思っていたのじゃ! ルハラ!」
「あいあいさー!」
スタッフの叫びの後、遠くにいたスタッフが回し蹴りをしてレーフェンの部下を蹴り飛ばしながら、そのスタッフの元へ向かって行った。
「な……何だと……」
「おいスタッフ! すぐにヒレラピの二人とファンを避難させろ!」
「はい!」
その後、スタッフの素早い動きでファンとヒレラピの二人は避難していった。レーフェンは歯ぎしりをしながら、部下にこう言った。
「すぐにルクとコンデを呼べ! 俺はヒレラピを追う! 二人を呼んだら到着するまで、お前らであいつらを抑えておけ!」
「分かりました!」
話を聞いた部下の一部がルクとコンデの元へ向かい、残った部下たちはあのスタッフを取り囲んだ。
「雑魚に用はない!」
スタッフがレーフェンの後を追いかけようとしたが、部下が邪魔をした。結果、レーフェンはヒレラピの二人を追うことに成功した。
「はぁ……仕方ない。あいつの相手はケンジに任せよう」
「じゃあ、私たちは雑魚のお掃除でもしましょうか!」
こう言うと、ルハラとヴィルソルはスタッフ衣装を脱ぎ捨て、いつもの服装で部下たちに襲い掛かった。
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