雲を掴め
ティーア:血染めの太陽アジト
私とヴァリエーレが戦っている男、ピスクはレインクラウディという体を雲のようにするスキルを使う剣士だ。
「さーて、そろそろ次の攻撃に参りますかねっと」
奴はそう言うと、再び体を消して移動を始めた。
「ティーア、私の後ろに!」
私は急いでヴァリエーレと背中合わせになり、周囲を見回した。いつ、どのタイミングで奴が襲ってくるか分からない。下手に動くよりも、その場に止まって奴が姿を現すのを待つしかない。
「ここだよー」
私の前から奴の声が聞こえた。私は盾で奴の攻撃を防ぎ、カウンターのつもりで剣を突き付けた。だが、もう奴の姿は見えなかった。
「少し落ち着きましょう。慌てると、奴の思うつぼよ」
「だって!」
こんな時でもヴァリエーレは落ち着いている。早く倒さないといけないのに、落ち着いてられないよ!
「よく見て、この周囲に私の服の切れ端が落ちているよね」
「え? うん」
私は地面に落ちているヴァリエーレの服の切れ端を見つめた。奴と会った時、ヴァリエーレの服が斬られたんだった。
「それがどうかした?」
私がこう聞いた直後、その服の切れ端が風に乗ったかのように動き始めた。
「こっちにくるわ」
ヴァリエーレは電撃を私たちの周りに発した。すると、電気の鳴る音共に、奴の声が聞こえた。
「グッ!」
「いた!」
私は急いで光を発し、矢の形にして奴に攻撃した。
「おわっと!」
光の矢は奴には当たらなかったけど、ヴァリエーレの電撃のダメージは大きいようだ。まだ感電しているのか、奴は手足をぶらぶら動かしていた。
「もう、酷いことをするなぁ」
奴はそう言うと、再び体を消した。
「これで分かった? 奴の対処法」
この言葉を聞き、私はヴァリエーレが伝えたいことが何なのか理解できた。
そうか。いくら姿を消していても、動いた時に発生する小さな風は消すことができない。あいつの姿を探すときは、地面に落ちているヴァリエーレの服の切れ端を目印にすればいい。服の切れ端が動いたら、そこの近くに奴がいるってことだ。
「これなら楽勝だね」
私がこう言うと、目の前に落ちている服の切れ端が動いた。私は奴の動きを読み、光の矢を投げた。すると、奴の悲鳴が轟いた。
「何で……俺の場所が……」
私が放った矢は、奴の急所に当たったようだ。奴は矢を抜き、手で流れる血を抑えながら立ち上がろうとした。
「はぁ……はぁ……はぁ……こりゃ……まいったね」
「降参する?」
私は剣を突き付け、奴にこう聞いた。後ろにいるヴァリエーレは、すでに次の攻撃の準備を終えている。
「分かった。俺の負けだ」
奴は潔くこう言った。次に、私にこう聞いてきた。
「何か聞きたいことがあるだろ? 何でも聞きな」
「じゃあ一つだけ」
「一つと言わないでじゃんじゃん聞いてよ」
「リリオさんを殺せと依頼したのはどこのどいつ?」
私がこう聞くと、ピスクは大きなため息を吐いた。
「それ、話さなきゃダメ?」
「ダメ」
私の声を聞き、奴は諦めた表情をし、私にこう言った。
「この依頼主はクナブだよ」
「やっぱり」
やっとはっきりした。ナルセとヴィルソルから話を聞き、私はクナブが黒幕じゃないかと思っていたのだ。
「やっぱりって……何だ、察していたの」
「ええ。可能性の話だったけど、あんたの話を聞いて確定したわ」
クナブがこの事件の黒幕だと考えたのは、理由がある。
一つ。シュージィーの言葉。ナルセが奴と戦っている時に、リリオを殺すと言っていたようだ。もし、ヒレラピが狙われているのであれば、二人の名前かヒレラピと言うだろう。だが、奴はリリオさんの名前だけを言っていた。
二つ。あの休日の事件。ヒレラピの二人は休日でオフを過ごしていたが、リリオさんが通うジムで奴らの襲撃があった。まぁ魔王が返り討ちにしたようだけど。逆に、クナブさんの方に襲撃はなかった。
この二つの点で、私はクナブさんが怪しいと思っていた。
「さーて、俺はこのままここでぶっ倒れていますよ。誰かがくるまで、昼寝でもしよう」
話を終えた後、ピスクは大きないびきをかいて眠り始めた。まぁ、この傷じゃあ奴も動けないだろうし、このままほっておいても大丈夫だろう。
「ティーア、ナルセの元へ急ぎましょう」
そう。早く下に落下したナルセと合流しないといけない。ナルセのことだし、大丈夫だとは思うけど、敵は強いと思う。
「ヴァリエーレ、私に背負って」
「え? いいの?」
「大丈夫。まだ体力に余裕があるから」
私はヴァリエーレを背負った後、ナルセと敵が落ちた穴に落ちた。スカイウイングで落下速度を調整しながら、何とか傷一つなく下に降りることができた。
「それじゃあ急いでナルセを探しましょう」
「うん」
私たちがこう言った直後、遠くで爆発音が聞こえた。ナルセ……無事だといいけど。
成瀬:血染めの太陽アジト下部
私の魔力と、ヴォーデの魔力の相殺は激しく続いていた。
「そろそろぶっ飛べ!」
ヴォーデの両手から赤い球のような物が発射された。それが付着した床や壁は、大きな爆発を起こしている。恐らく、あれが爆弾だろう。
奴が魔力による技を使うのは一度目にしている。シュージィーを始末する時に使っていた。下手に近付いたら、私が爆弾になってしまう。そうなったら、私もシュージィーと同じ運命を歩むだろう。それだけは絶対に避けないと。
「チッ、さっさと倒れろよ」
奴はそう言うと、高く飛び上がった。
「この一辺消し炭にしてやる。貴様と一緒に!」
その時、奴の両手から巨大な赤い球が現れた。
「死ね!」
奴の叫び声と共に、赤い球を私に向けて投げようとした。しかし、そんな隙が多い攻撃が私に当たると思っているのだろうか。
「遅いわよ」
私は火の矢を作り、赤い球を打ち抜いた。すると、赤い球は空中で大爆発を起こした。
惜しい。奴が赤い球の爆発に巻き込まれて丸焦げになるだろうと思ったけど、奴は爆発の際に発した爆風を使い、爆心地から逃げていた。ただ、悲鳴を上げているし、傷は受けたようだ。
「次は私の番ね、落ちなさい!」
続いて、私は水を出し、温度を下げて凍らせた。この光景を見た奴は、目を丸くして驚いていた。
「何を……するつもりだ?」
「こうするのよ!」
私は氷を操り、奴に向かって落とした。かなり大きな氷なので、これにぶつかれば奴を潰すことができる!
「なっ!」
「とりあえず潰れなさい」
私がこう言うと、氷が地面と激しく激突する音が響いた。弱い奴はこれでノックアウトだと思うけど、あいつは一体どうなるのやら。
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