流れる雲のように
成瀬:血染めの太陽アジト
私たちは逃げたヴォーデを追って、アジトの中を走り回っている。途中で連中の部下らしき人と戦ったけど、私たちの敵ではなかった。部下も私たちの力を目の当たりにしたせいか、私たちの姿を見ただけで悲鳴を上げながら逃げていく。
「あーあ、これじゃあどこに奴らがいるか聞き出せないなー」
ティーアは槍を振り回しながらこう言った。近くにいるヴァリエーレさんは、ため息を吐いてこう言った。
「ティーア、危ないからしまいなさい」
「ごめーん」
そう言うと、ティーアは槍をしまった。私は周囲を見回していると、近くで足音が聞こえた。
「敵ね」
「すごい魔力を感じるわ……さっきの奴が仲間を呼びに逃げたのね」
「皆、注意してね」
しばらくし、煙草を口にくわえたおっさんと、ヴォーデの奴が戻ってきた。煙草をくわえたおっさんは、私たちを見て目を丸くした。
「あーらら、ずいぶん可愛い侵入者じゃないの」
「見た目に騙されるな、こいつらはかなり強い。アジトがこんなになったのも、こいつらのせいだ」
「意外と過激派なのね」
煙草をくわえたおっさんは、口の煙草を手に取り、肩を回し始めた。
「本来なら君たちの名前を聞いて即ホテルへ行きたいけど……敵同士だし、そうはいかないようだねぇ」
おっさんは腰にある刀の鞘を触り、刀を握った。ヴォーデは何かを察したのか、私に向かって飛びこんだ。
「お前の相手はこの俺だ!」
「じゃあ、残りの二人は俺がやるから」
その直後、おっさんは勢いよく刀を振り回した。すると、私とヴォーデの足場が崩れた。さっきまで何でもない足場だったのに、何で斬れたの? まさか……さっき刀を振り回したのは、私の足元を斬るために!
「ナルセ!」
「捕まって!」
ティーアが手を伸ばして私の手を掴もうとしたけれど、後ろにいたヴォーデが私の髪を引っ張った。
「さぁ、一緒に落ちようぜ!」
私はヴォーデのせいでティーアの手を掴めず、そのまま奴と一緒に落ちてしまった。
ヴァリエーレ:血染めの太陽アジト
ナルセがヴォーデという奴と一緒に落ちてしまった。今すぐにでも助けに行きたいが、行くにはあの剣士を倒さないといけないだろう。
「さーて、戦う前に俺の名を教えてあげるよ」
「興味ないね」
「そんなこと言わずに聞いて。俺の名はピスク。よろしく」
そう言うと、ピスクはさっきと同じ構えをとった。私とティーアは奴の攻撃がくることを察し、後ろに飛んだ。だが、奴は刀を構えたまま、猛スピードで私とティーアに接近した。
「なっ!」
「はやっ!」
その直後、奴は猛スピードで剣を振り回した。だが、私たちに傷はなかった。
「何……今の」
「悪いが俺は女子供を傷つける趣味はない……が」
奴がそう言ったその時、私の服が紙切れのように周囲に散らばった。
「え……ええ……いやァァァァァァァァァァ!」
私は顔を赤く染め、手で体を隠しながらその場に座り込んだ。
「それなりにスケベだから注意しなよ」
「このスケベ!」
「うしし」
奴は鼻の下を伸ばしながら、私の体をまじまじと見つめていた。だが、ティーアの飛び蹴りが奴の脇腹に命中した。
「グアッハ! ひ……酷いことをするね……骨に響いた……」
「変態野郎、私が斬り刻んでやる!」
「さーて、お嬢ちゃんにできるかな?」
奴はにやりと笑い、ティーアにこう言った。ティーアは剣を持って奴に斬りかかったが、奴はティーアの攻撃を察しているのか、簡単に攻撃をかわしていった。
「そんな剣技じゃ当たらないよ」
「ちょこざいな!」
ティーアは剣をしまい、光で奴を攻撃したが、それでも奴はティーアの攻撃をかわした。
「な……何で当たらないの」
ティーアは私の体を見ながら鼻の下を伸ばすピスクを見つめ、考え始めた。
確かに私もどうして奴が攻撃をかわしているのか分からない。最初は剣の軌道を読んで回避しているものだと思っていた。だが、光の攻撃も奴はかわしていた。
奴の回避術、何かトリックがあるに違いない。
「ティーア、奴は何かスキルを使っているかもしれないわ」
私は近くで倒れている団員の服を奪って着替えながら、ティーアにこう言った。ティーアは私の言葉を理解したらしく、何かを考えながら行動していた。
戦いが始まってしばらく経つけど、ピスクは回避以外攻撃を仕掛けてこない。時間稼ぎのつもりか? 着替えを終えた私が援護をするためにティーアの元へ向かう中、ティーアが口を開いた。
「やっと分かったよ。あんた、レインクラウディ使っているでしょ」
「ご名答」
レインクラウディ。このスキルは、魔力を使って使用者の体を雲のようにするスキルだ。だから、さっきから攻撃が通じなかった。
「さてと……トリックのタネもばれちゃったし、少し本気を出さないとね」
その瞬間、奴の雰囲気が変わった。今まで奴がふざけているつもりで戦っていたせいで、本当に戦っているのかと思っていたのだが、今は周りに殺気であふれた空気に包まれている。
「死なないようには加減するけど、死んだら恨まないでね」
奴はそう言った直後、姿を消した。さっきと同じように姿を消して攻撃するつもりだ。
「ここだっ!」
ティーアは剣を振り、後ろに攻撃した。だが、その直後にティーアの右胸から血が流れた。
「グッ!」
「残念、外れだよ」
刃に付いたティーアの血を払うためか、奴は剣を振り回しながら姿を現した。
「悪いけどさ、さっき落ちた子を助けるのは諦めて帰ってよ」
「嫌だね。あんたらをぶっ倒して帰るって決めた」
ティーアは痛みをこらえているのか、少し声が途切れていた。だが、奴はため息を吐いて私たちにこう言った。
「もしかしてリーダーをお探しかい? 残念だったね。ここに俺たちのリーダーはいないよ」
「なっ!」
「えっ!」
「君たちがここに殴り込みにくるって話を聞いてね、前倒ししてヒレラピのライブに向かったよ」
最悪な展開になったかもしれない。ヒレラピの護衛にケンジたちがいるとはいえ、奴らのリーダー格がライブの襲撃へ向かったと言うことは、奴らも最大戦力で戦うってことだ。まずい、さっさとピスクを倒してケンジたちの元へ戻らないと!
「動揺しているね。さぁ、そんな状態で俺を倒せるかな?」
そう言いながら、ピスクは不敵な笑みを浮かべていた。
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