黒幕について
ティーア:イベント会場外
「落ち着いて行動してください! 慌てると転倒してしまいます!」
周辺の雑魚を片付けた私は、会場に残っているお客さんの避難誘導を行っていた。怪我人は多数出たものの、死人は出ていないようだ。
「ティーア!」
「そっちは大丈夫?」
「援護にきたぞ!」
戦いを終えたヴァリエーレとルハラ、そして魔王が私の元へやってきた。
「怪我人はいるか?」
「うん。あそこのテントで治療中」
「そうか。我はそっちの援護を行ってくる」
「任せたよ」
魔王が治療用のテントへ行った時、二階の方で急に魔力が発生した。この魔力はナルセやケンジの魔力じゃない。別の奴だ!
「ヴァリエーレ、ルハラ、誘導の引継ぎできる?」
「大丈夫よ!」
「二人のことは任せたよー!」
「うん、じゃあ行ってくる!」
私は急いで会場の二階へ向かった。魔力を察知しながら移動していると、バリアを張っているケンジとナルセ、それにヒレラピの二人を見つけた。その近くには、かなり太った奴が悲鳴を上げていた。
「ティーア逃げろ! 爆発に巻き込まれるぞ!」
ケンジが叫んだ直後、太った奴の体から光が少し見えた。私はすぐにバリアを張り、奴の様子を観察した。
「うわっ! 嫌だ、死にたくない! 死にたくな……」
奴の叫びの途中で、奴の体は破裂した。中から強い魔力を入れられたせいか、爆発の威力はとんでもなく大きかった。周囲の道具が塵となって消え、壁や床が爆風で吹き飛ばされている。そんな中で、ケンジたちの悲鳴が聞こえる。援護に行きたいけど、これじゃあ難しい! 耐えるしかないのか。
数分後、爆風は止んだ。私たちはバリアを張り、周囲を見回した。
「嘘だろ……すごい威力だ……」
ケンジは周囲を見回して驚いていた。さっきまであった壁は爆風で飛ばされ、一部は爆発に巻き込まれて消滅した。それほど、あの爆発の威力が大きかったってことか。
「ねぇ、一体何があったの?」
「ええ……実は……」
私はナルセから、これまでのことを聞いた。
「まさか、負けた仲間を爆弾にして、この周囲一帯を吹き飛ばすなんて……」
「だけど、ヴォーデっていう奴は負けた奴には用がないようなことを言って帰りやがったし」
「ああいう奴は本当に許さないわ」
ナルセが拳を握り締めて殺意を燃やしている。まずい。下手したらブチ切れる。
「とりあえず、皆の元へ戻ろうよ」
私は何とかナルセを落ち着かせつつ、こう告げた。数分後、私たちはバスに乗り込み、デュークスーパースタービルへ戻って行った。
成瀬:デュークスーパースター食堂
翌朝。私は朝食を食べながら考えごとをしていた。
「どうした成瀬? 腹が痛いのか?」
「さっきから唸ってばかりよ。具合が悪いの?」
「いえ、何かおかしいなーって」
「何がおかしいの?」
心配するヴァリエーレさんを見て、私は今思っていることを話した。
「昨日、高速道路で戦ったシュージィーって奴がリベンジしてきたけど、その時にこう言っていたのよ。リリオを殺すって」
「そりゃー、ヒレラピの二人を狙っているから、言うに決まっているよ」
剣地がバナナを食べながらこう言った。
「だったら、リリオを殺すっていう?」
「確かにおかしいのう。何でリリオさんだけを名指しで言うのじゃろうな?」
私の話を聞いていたヴィルソルが言葉を出した。
「それに、奴らの狙いがリリオさんだけなら、あの時のことも納得がいく」
「あの時って?」
「忘れたか勇者? 我がリリオさんの警備を行っている時に、奴らに襲われたことを」
「あー、あったね」
「あの時はリリオさんだけが襲われ、クナブさんが無事だった」
「じゃあ……もしかして」
ルハラが何かを理解したのだが、私は首を振ってこう言った。
「証拠がないわ。ただ……もう少し奴らから話を聞きださないと駄目なようね」
「奴らって?」
「血染めの太陽の連中よ」
この言葉を聞いた剣地が、腕組をしながらこう言った。
「あー……殴り込みをしつつ話を聞いてくるって感じか。クァレバの連中に殴り込みに行った時のように」
「ええ」
その時、私は周囲を見回した。そろそろ会社の人が食堂にくるだろう。こんな話をここでしていたらまずい。
「後は部屋で話をしましょう」
「そうだね。先に飯を食べないと」
ルハラはそう言って、目の前にある卵料理を食べ始めた。
食事を終え、私たちは宿泊部屋へ戻ってきた。ここなら誰も入ってこないだろう。
「さーて、ここからは誰が血染めの太陽の所へ殴り込みに行くか、そして誰がここに残るか話し合いをしよう」
剣地が皆を見回し、言葉を発した。その直後、私は手を上げてこう言った。
「どうかしたか?」
「今回は私が殴り込みに行くわ」
「成瀬が?」
「ええ。文句ある?」
剣地は何か考えていたけれど、その時にティーアとヴァリエーレさんがこう言った。
「私も行くよ!」
「ナルセが暴走しそうな時は私が止めるわ」
「ティーア、ヴァリエーレさん」
「意外と話が早くまとまりそうだな」
剣地は笑いながらこう言った。ヴィルソルとルハラもその言葉を聞き、頷いた。話し合いの結果、血染めの太陽に殴り込みに行くのは私とヴァリエーレさん、ティーアの三人。剣地たちはここに残って護衛を続ける。
「で、どこに奴らのアジトがあるか分かるのか?」
「分からないわ。だから、聞き出してくる」
私はそう言って、部屋から出て行った。
「ねぇ、さっきからため息ばかりよ」
「そうか……申し訳ない」
レーフェンはテレビを見て、何度もため息を吐いていた。ニュースで流れるのは、昨日のイベント会場での騒動のことだ。血染めの太陽の一員が捕まり、目的も果たすことはできなかった。
「チッ……役立たず共が……そこら辺のチンピラじゃあ殺しはできないか」
「レーフェンさん」
この時、レーフェンの部屋にヴォーデが入ってきた。
「何だ、ヴォーデか。昨日のことで話があるのか?」
「なっ……もうニュースになっているのか。こっちは帰ってきたばかりなのに」
「マスコミの情報収集の速度を甘く見ない方がいい。奴らは騒ぎを見つけるのが得意だからな」
「そうか……」
「昨日の報告はしなくていい。ニュースで知ったからな」
「分かった。じゃあ……」
ヴォーデは目をつぶり、死を覚悟した。彼はレーフェンをよく知っている。失敗を嫌い、部下が失敗や失態を犯すとすぐに始末してしまう。変な所で真面目な男だ。だが、レーフェンはヴォーデを始末しようとはせず、こう言った。
「ヴォーデ、今回の失敗の原因はお前ではない。あのハーレムパーティが強すぎるからだ」
レーフェンはヴォーデにテレビの画面を見せた。そこには、剣地たちが映っていた。
「あの坊主が……」
「あいつ、クァレバのレッジを倒したらしい。それに、マスカレードファイトを崩壊させた張本人だ」
「意外と強いのか」
そんな中、レーフェンは立ち上がってヴォーデにこう言った。
「とにかく休め。今後のことは後で伝える」
「ああ……分かった」
そう言って、ヴォーデは去って行った。話を終え、レーフェンはビキニの紐をほどいている女性に近付いた。
「そろそろだと思っていた」
「察しがいいな」
「朝だけど、やっちゃう?」
「朝だろうが昼だろうが、夜だろうが関係ない。やりたくなったらやるだけさ」
「フフッ。エッチな人ね」
「お前も人のことが言えるか?」
その後、レーフェンはビキニ美女を抱きしめながら、ソファーの上に寝転がった。
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