狙われたアイドル
剣地:ロイボの町のギルド、入口
いやー、やーっと退院できたよ。まさか一ヶ月入院するなんて思ってもいなかった。ギブスを外してから、何度かリハビリをやったおかげでそんなに体はだるくない。むしろ、早く依頼を受けたくてうずうずしている。
「あ! 皆さん! やっと退院したのですね!」
受付の姉ちゃんが俺たちを見て、慌てて駆け寄ってきた。
「マスカレードファイトの依頼、お疲れ様です。本当はもうしばらく休んでいてもらいたいのですが……」
「大丈夫です。病院でゆっくり休めましたので」
成瀬は笑顔でこう言った。その言葉と笑顔を見て、受付の嬢ちゃんは安堵の息を吐いた。
「そうですか……いやー、実はケンジさんたちに依頼がありましてね……」
「誰からー?」
ルハラがこう聞くと、受付の姉ちゃんは俺たちにメモ用紙を渡した。
「退院した時に渡してくれと頼まれました」
「誰からですか?」
「ヒレラピのマネージャーさんです」
依頼人を聞き、ティーアとヴィルソルは目を丸くして驚いた。
「えええええ! あのヒレラピのマネージャーから?」
「何で我らに依頼を?」
「あなたたちの腕の強さを知ったのでしょう。詳しい話はメモに書いてある電話で聞いてみてください」
その後、俺たちは部屋に戻り、メモに書かれた電話番号をプッシュして電話をした。しばらくコール音が鳴り響いた後、相手に電話が通じた。
「もしもし、アイドル事務所、デュークスーパースターです」
「依頼を受けた剣地という者です。詳しい話が聞きたいので、ヒレラピのマネージャー様に話を聞きたいのですが」
「ケンジ様ですね! 少々お待ちください」
しばらくすると、電話の相手が変わった。
「ケンジ様ですね。私、ヒレラピのマネージャーのトリュスという者です」
今話しているのがヒレラピのマネージャー、トリュスという人か。低い声が特徴の男性のようだ。
「依頼の話をしたいのですが、今お時間はよろしいでしょうか?」
「長くなるので、この話は明日にしましょう。明日の朝、我々が車を手配しますので、そちらで話をしましょう。それでは」
「はい。では明日」
俺は電話を切り、話を聞いていた皆を見てこう言った。
「明日話すってさ」
「じゃあ、明日ヒレラピの二人に会えるのね」
ティーアははしゃぎながらこう言った。ヴィルソルは早くも化粧をしている。
「有名人に会うから、身だしなみを整えておかないと……」
「明日すればいいわよ。手伝ってあげるから」
成瀬はヴィルソルにこう言った。ヴァリエーレさんは、少し考えながら俺にこう言った。
「変な話ね、アイドルが私たちに何の依頼をするのかしら?」
ヴァリエーレさんの言葉を聞き、俺はこう答えた。
「変なファンから身を守ってほしいとか、そんな感じだと思います」
「うーん……そうかもね。変な依頼じゃあなければいいけど」
どこかヴァリエーレさんは不安な所があるようだ。俺ももう少し考えたけど、一部の変なファンを守るのだったら俺以外のギルドの戦士でもできる。どうして俺たちのような大事件を解決してきたパーティーにこの依頼を依頼するのか? ま、明日話を聞けばいいか。
その日の夜、俺は久しぶりに部屋のシャワーを浴びていた。いやー、やっぱ使い慣れたシャワーの方が気持ちよく感じるわー。そんなことを思っていると、急に扉が開いて全裸のルハラが入ってきた。
「やっほー」
「おいおい、イチャイチャしたいのか?」
「もちろん! ずっとやってなかったから、もうやりたくて、やりたくて」
「お前の場合、毎日やらないと気が済まないよな」
「ああ! じゃあ早速……」
「ルハラ! こんな所で何やっているのよ!」
俺たちの声を聞いた成瀬が、顔を赤くしながらシャワールームに入ってきた。
「ナルセー、一緒にする?」
「えっと……それは……その……」
照れている。あいつもイチャイチャしたいと思っているのか? 俺は成瀬の反応を見て、少し笑っていると、後ろからティーアとヴィルソルが入ってきた。
「ルハラだけずるい!」
「我らも混ぜろ!」
「二人とも、狭いシャワールームに入ったら身動きできないわよ」
騒動を聞きつけたヴァリエーレさんが、ティーアとヴィルソルにこう言った。だが、ルハラはにやりと笑って成瀬たちにこう言った。
「狭い中でイチャイチャするのもまた一興。狭い分体が密着し、いろんな感触が楽しめるよ」
「いや……でも……」
「狭いと……ねぇ」
嫌がる成瀬とヴァリエーレさんを見たルハラは、一旦シャワールームから出て、無理矢理成瀬とヴァリエーレさんの服を脱がし、シャワールームへ入れた。
「では夢の時間、開始!」
こんな窮屈な状況で、全員シャワールームに入れるのかと俺は少し不安に思った。くだらないと思うけど、俺は不安だった。
成瀬:ギルド入口
久しぶりに皆とお風呂に入って見も心もすっきりしていた。まぁ、ルハラのセクハラがあったけど。ただ、剣地は疲れ果てている。
「もう少し飯食っておけばよかった……」
「あはは。大変だね、ケンジ」
ティーアが周りを見ながらこう言った。すると、見慣れない一台の黒い高級車がギルドの前に到着した。運転手側から扉が開き、そこから茶色いスーツを着た長身の男性が降りてきた。
「お待たせしました。私がトリュスです」
どうやら、この人が剣地の言っていたトリュスという人らしい。意外とかっこいいかも。
その後、私たちは車の中に入り、運転をしているトリュスさんの話を聞いた。
「三ヶ月前から、ヒレラピのイベント中に事件が起こるようになりました。最初は爆弾テロ。それは近くにいたファンが爆弾を見つけ、すぐに連絡をしてくれたため、すぐに事件は解決しました。次は狙撃。何者かがヒレラピの二人を狙って銃を発砲したのです。弾丸が丁度弾道の所にあった木の枝に命中し、二人には被害がありませんでした。その次は異臭騒ぎ。ライブ会場に有害物質がある液体を誰かがばら撒いたせいで、ライブが中止になりました」
おかしな話。あの二人の周りに事件が多発している。それに、確実に殺そうとしている。
「犯人は見つかりましたか?」
「いえ。まだ捜査中です」
「じゃあ、私たちに犯人を捜してほしいのね。でも、それなら警察の仕事だと思いますが」
「いいえ。あなたたちはヒレラピの二人に被害が及ばないよう、守ってもらいたいのです。犯人については、余裕がある時に捜査をお願いします」
話は分かった。私たちは姿を見せない犯人から、ヒレラピの二人を守ること。そのついでにできたら犯人を捕まえる。
「あの二人を守ることができるのだったら、喜んで依頼を受けます!」
と、ルハラが目を輝かせてこう言った。
「私たちが二人をお守りします」
「勇者に任せておけば安心だよ!」
「魔王がいる! 安心しろ!」
ヴァリエーレさんたちも次々にこう言った。私は剣地の方を見て、こう言った。
「剣地もこの依頼受けるでしょ?」
「ああ。何が何でも二人を守ってやるよ」
私たちの返事を聞き、トリュスさんは目頭を押さえながらこう言った。
「ありがとうございます。これで、安心できます」
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