病院の怪談
剣地:病室
ブレアとの戦いで大怪我を負った俺たちは、ナディさんの知り合いがいる病院に入院している。俺たちが入院したことを知ったロイボの町の皆が、お見舞いにきたりしていた。そんな中、アラマーっていうアロハシャツの金髪のおっさんがきたけど、その人がヴァリエーレさんたちを手助けしてくれたようだ。俺がお礼を言うと、アラマーさんは笑いながら俺の肩を叩いて帰って行った。
戦いが終わって一ヶ月が経過した。俺たちはまだ入院していた。成瀬たちはあと少しで退院できるそうだが、ブレアの攻撃を喰らいまくった俺は退院できるまでもう少しかかるようだ。
「あー……暇だ……」
全身にギブスを巻かれているせいで、俺は身動きができない。少しでも体を動かすと、痛みが全身に走る。入院当初は動かすと激痛が走っていた。だが今は、静電気程度の痛みが走るだけだ。それでも痛いけど。
「退院したらどうしよう」
「そうねぇ。まだケンジが身動きできないし」
成瀬とヴァリエーレさんは俺を見てこんな会話をしていた。その話を聞いていたヴィルソルが、あくびをしてこう言った。
「ギルドの仕事をすればよかろう。ケンジは誰かが日替わりで見舞いにくれば大丈夫じゃ」
「そうだな。俺もヴィルソルの案に賛成だ」
俺がこう言うと、成瀬とヴァリエーレさんはそうねと返事をした。そんな中、ルハラとティーアはテレビを見ていた。
「それでは今日のゲストです。ヒレラピのお二人です。どうぞ」
どうやら二人は、昼の情報番組を見ているようだ。テレビにはヒレラピというアイドルコンビが拍手を浴びながらスタジオにやってくる映像が流れていた。
「いやー、やっぱリリオは可愛いよね。歌唱力もあるし、ダンスも上手い。グヘヘヘヘ……この子はヤっているといい声を上げるタイプだよ」
「お前はそんな目でアイドルを見ているのか?」
「ケンジだってそうじゃないの? さっきからクナブの胸ばっかり見てない?」
ルハラの言葉を聞いた成瀬が、怖い目で俺を見つめた。俺はとっさにテレビから視線を外した。ティーアはクナブって子を見ているのだろうか、引き気味にこう言った。
「この子、服の露出度高すぎない? 胸は大きいけど……これ明らかに手術しているよね、胸を無理やりでかくする手術しているよね」
「確かにね。乳の揺れ方が少しおかしい」
「ルハラ、外にはお見舞いをしている人もいるから、そんな発言は抑えてね」
ヴァリエーレさんの言葉を聞き、ルハラはヴァリエーレさんに近付いて胸を揉み始めた。
「いやー、やっぱ天然物の巨乳を揉む方がいいですなー」
「ちょっと……人の話を聞いている? ていうか、聞きなさい!」
その後、ヴァリエーレさんの拳骨がルハラを襲った。それを見たヴィルソルは、呆れてため息を吐いていた。
「別の意味で元気じゃのう」
成瀬:真夜中の病室
その日の夜、私たちは就寝の時間となったため、ベッドの上で横になっていた。しばらく目をつぶっていたけれど、少し部屋が暑いのかなかなか寝付けなかった。
「……トイレ……」
私はリラックスしようと思い、トイレに向かった。用事を終え、手を洗って部屋に戻る時、ふと窓を覗いた。その瞬間、私は自分の目を疑った。目の前に映っているのは、あちらこちらを動き回る赤い光だったのだ。
「う……嘘……」
私は恐る恐る部屋に戻り、布団の中に潜った。
寝よう。早く寝ろ、いつも通りに眠ってと思っていたけれど、恐怖心のせいで目をつぶることができなかった。結局、時間が流れて朝になってしまった。
「ナルセ、どうかしたのか? 目が赤いぞ」
朝一番にヴィルソルが心配そうにこう言った。私はヴィルソルにこのことを伝えると、ヴィルソルはため息を吐いた。
「謎の赤い光? ナルセ、そんなのビビっているのか? お前にはマジックマスターとゼロマジックがあるじゃないか。それを使って消せばよい」
「魔力で幽霊を倒せる?」
「幽霊? 未練があって残っているのがいると思うが……確かにこの病院は夜になると不気味な雰囲気があるが、とくに不穏な空気は流れていない。もし、何かあれば我が感知している」
「まさか、ヴィルソルは幽霊を倒せるの?」
「倒せるわけがないじゃろう。じゃが、闇の魔力を使えばどうにかなると思うぞ。強い闇に飲まれれば跡形もなく消滅するからの。多分、幽霊も消滅するじゃろう」
「そ……そう……」
その時、私とヴィルソルの話を聞いていたルハラが、目を輝かせてこう言った。
「その話、マジですか?」
「ええ。赤い光があったわ」
私の返事を聞き、ルハラは少しにやけた顔をした。それを見たティーアも、何かを感じたのかルハラにこう言った。
「もしかして……夜に……」
「そうですよ。今日は夜の散歩を行いましょう!」
私はこの言葉を聞き、声を上げた。
「えええええ!」
「なんか面白そう! 病院に出る幽霊なんてさ!」
「魔王が何にも感じないって言ったけど、もしかしたら過去にこの病院で手術ミスがあって、その時に死んだ患者の幽霊がまだ残っているかもしれない」
「勇者、失礼なことを言うな!」
物騒なことを言ったティーアに対し、ヴィルソルはこう叫んだ。話を聞いていた剣地とヴァリエーレさんが、少し戸惑いながらこう言った。
「ごめんなさい……私は眠気に弱いの……」
「今の姿を見て、動けると思うか?」
「ケンジはしゃーないけど、ヴァリエーレは……眠気に勝てないなら仕方ないね」
「じゃあ今日の夜、散歩しに行きましょー!」
ティーアとルハラの楽しそうな言葉を聞き、私は大きなため息を吐いた。私……あまり好きじゃないのよねぇ。私のため息を聞いたヴィルソルが、肩を叩いてこう言った。
「何かあったら我が何とかする。安心しろ、ナルセ」
「ヴィルソル……」
やだ。何かこの時のヴィルソルがやけにイケメンに見えた。女の子だけど。
剣地:病院の廊下
「なんだか成瀬たちは楽しそうね」
「ここだけの話、成瀬は怖いのが苦手です」
俺は車いすに乗り、ヴァリエーレさんと廊下を移動していた。ギブスで全身を巻かれているため、移動するのに車いすを使うことになっているのだ。今日はそのギブスとさらばする日、ギブスを外す日になっているのだ。
「いやー、早く動き回りたいなー」
「この調子だと、すぐにリハビリが終わりそうね」
俺とヴァリエーレさんが会話をしていると、休憩室の所で三人組の男が集まって何か話していた。その手には、スマホらしきものが握られていた。
「で……今日はどうする……」
「やるに決まっているだろ……昨日大成功したじゃないか」
「うまくいけば……俺たち大金持ちだ……」
少し離れていたため、何の話をしているのか聞き取れなかった。だが、こいつらが裏で何か悪いことをやっているかもしれないということが分かった。
「何なのかしら、あの人たち?」
「怪しい予感がしますよねー」
俺とヴァリエーレさんは、こんな会話をしながら歩いて行った。
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