マスカレードファイトの崩壊
成瀬:VIPルーム
何てこと……ブレアを倒したのはいいけれど、廊下にあのゴベの野郎がいる。クッ、本調子だったらあの野郎を半殺しにしてやるのに!
「おーおー、そんな怖い顔で見ないでくれよ。ちびっちまうぜ」
「この……野郎……」
私が踏ん張ってあいつに近付こうとしたのだが、剣地が慌てて叫んだ。
「止めろ、成瀬! こんな調子じゃあいくらお前でも勝てないぞ」
「分かっているけど……あの憎いあいつをぶっ飛ばさないと、どうしても気が済まないのよね……」
「ナルセ……落ち着いて……」
ヴァリエーレさんが苦しそうにこう言った。その時、廊下の方で騒ぎ声が聞こえた。すると、ナディさんと同じ服を着た人たちがゴベの周りを取り囲んだ。
「セブンワーオンの関係者だな」
「我々の言う通りにするんだ」
「抵抗するなよ」
ゴベは周りの警官を見て、苦笑しながら両手を上げた。
「あらら……こんなことってありかね」
「黙りなさい、犯罪者の仲間」
ナディさんが銃を構えて姿を現した。
「ナディさん! 丁度良かった、あの男の腹に風穴を開けて」
「ナルセさん……物騒なことを言わないでくださいよ」
と、ナディさんは冷や汗をかいて私にこう言った。
「あなたもセブンワーオンの関係者とみなし、連行します」
「あんなブラック企業の関係者? この俺が?」
「そうですよ」
「違うね。俺は俺の目的であそこに忍び込んだ」
ゴベはそう言うと、服を脱ぎ捨てた。その時、私たちの足元に煙玉が落ち、破裂した。
「うわっ!」
「あの野郎、この隙に逃げるつもりだな!」
「何も見えない!」
「おえ、煙吸いこんじゃった」
「誰? 私の胸を触ったの?」
あちらこちらで声が聞こえる。その中で、ジェットのような音がうっすらと聞こえていた。その瞬間、私たちの目を隠していた煙が晴れた。そこには、ジェットパックを担いだ黒いコートを羽織ったゴベの姿があった。その姿を見て、ナディさんは驚いた。
「あなたは……闇武器商人ジョン!」
どうやら、ゴベというのは偽名だったようだ。ジョンは私たちの方を見回し、ウィンクをしてこう言った。
「リバースカプセルのサンプルとデータはゲットした。では、私はこれで帰ります」
「帰らせるか!」
ナディさんたちは、ジョンに銃を向けて一斉に発砲した。よし! やったと思ったけど、あいつは瞬時のうちに盾を出し、銃弾を防いでいた。
「クッ、盾を使ったか!」
「それでは皆さんごきげんよう。もう二度と皆さんと会わないことをお祈りします。それじゃあね!」
あいつはジェットパックのスイッチを押し、この場から逃げて行った。
「あの野郎! 皆、追うわよ!」
「うん!」
「あの男だけは逃がしてはならぬ!」
私たちはジョンの後を追おうとしたのだが、皆は小さく声を上げてその場に倒れてしまった。戦いの傷が残っているのだろう。じゃあ……もしかして私も……。
剣地:警察署近くの病院
「ハッ! どこだ、ここ?」
気が付いたら、俺はベッドの上で寝ていた。周りを見ると、成瀬たちも俺と同じようにベッドで横になっていた。
「あ、ケンジが起きた」
横のベッドにいたルハラが声を出した。その声を聞き、皆が俺の方を向いた。
「よかったー、ケンジだけ起きなかったから心配したよー」
「なぁティーア、俺は一体どのくらい気を失っていたか分かるか?」
「三日」
三日か……結構寝ていたようだな、俺。改めて辺りを見回すと、皆より治療の設備が少し多い気がする。ブレアと戦っている時に無茶しすぎたのかなー?
「我らは骨折や打撲だけで済んだのだが……ケンジだけはそれ以上に怪我が酷いから、このような設備になったのだ」
「だよなー」
ヴィルソルの言葉を聞き、俺はため息を吐いた。
「でも、みんな生きているからよかったじゃない」
と、ヴァリエーレさんが笑顔でこう言った。ま、死ぬよりましか。
「そうだ剣地、起きてすぐ悪いけど、あの後のことを教えるわね」
成瀬が俺にこう言うと、俺たちが気絶してからのことを話してくれた。
まず奴隷たちのこと。助かった者もいるらしいが、ゾンビに殺された奴隷もいるという。俺たちがブレアと戦う前に、逃げた連中は無事だそうだ。皆、俺に感謝の気持ちを伝えたいらしい。今は警察で保護されている。
観客の人たちは、大半がリバースカプセルによって生まれたゾンビの餌食となってしまった。中には超有名企業の社長や会長、幹部クラスの人たちがいたようだが、死んでしまったら肩書なんて意味がないだろう。生き残った人もいるのだが、その人は警察に御用となるだろう。
セブンワーオンの一部の連中は逮捕されたらしい。俺たちがブレアと戦ったその次の日に、警察の一斉捜査が入ったようだ。それと、ブレアから賄賂を受け取った警察関係者は皆捕まった。あいつらのおかげで、ティーアとヴィルソルが酷い目にあったらしい。そういうことを考えると、ザマーミロって思う。ただ、捕まった中には警察の偉い人たちも含まれているため、ナディさんたちは今忙しいようだ。
ブレアのことだけど、あいつは俺たちが倒した後、ナディさんたちが捕まえた。事情徴収を受けた後、ブレアは即逮捕された。罪状はいろいろあるようだ。その中にはとんでもなく酷い罪状がたくさんあったせいで、あいつはすぐに処刑されるだろうと話になっている。
そして、ジョンの行方は分からない。空を飛んで逃走した後、誰も姿を見ていないという。
「話は以上よ」
「俺が寝ている間にいろいろあったみたいだ。まぁ、生きている奴隷たちが皆保護されたのはうれしいけど」
俺がこう言った直後、テレビを見ていたルハラが声を上げた。
「どうかしたの?」
「これって……リバースカプセルのせいじゃない?」
ルハラの声を聞き、成瀬たちは一斉にルハラの元へ集まった。俺も行こうとしたのだが、体が痛くて行けなかった。
「ミュシューズ国とニィーモ国の戦争のニュースです。昨日、戦場となったバナコンダ平地にて、多数の死者が出た模様です。生き残った戦士によると、死んだ兵士がいきなり蘇った。そして、ゾンビのように動き回り、敵味方関係なく襲い始めたと言うことです」
キャスターの声が俺の耳に聞こえた。この話を聞き、俺は舌打ちをした。ジョンの野郎、もうリバースカプセルを戦場へ送りやがったのか!
「ねぇ……死体を灰にすれば殺人ってばれないよね……」
まずい。あのニュースを聞いた成瀬が怒り出した。そうだな、あいつはジョンにいろいろされた。恨むのも当然だ。
「さすがに殺しはまずいよ」
「あのバカを裁くのは、法に任せましょう」
ルハラとヴァリエーレさんが何とか成瀬を沈めていた。ティーアはテレビの電源を消し、俺の元へきた。
「ケンジ、一緒に寝よ」
「バカか勇者? ケンジは我らより重傷だ、貴様の変な寝相のせいで傷が開いたらどうする?」
「私ってそんなに寝相酷い?」
ティーアの言葉を聞き、成瀬たちは一斉にうんと答えた。
「えぇ? 嘘でしょ?」
「今度動画を撮ってやる」
「止めてよ、恥ずかしい」
ティーアとヴィルソルは笑いながらこう話していた。
でかい仕事が終わったが、もう一人の悪者は逃がしてしまった。ジョンの野郎、今度会ったら絶対に捕まえてやる! だけどその前に……この傷を治さなきゃなぁ……。
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