ブチ切れ成瀬の恐怖、再び
ヴィルソル:廊下
あの時の記憶が鮮明に蘇っている。シリヨク王国でナルセがブチ切れ、一人で無双をした時のことだ。あれと同じようなことが、また起きようとしている。
「さて……ウォーミングアップでもしましょうか」
と、ナルセが言った後、左腕を軽く振り上げた。すると、地面から地面を裂くように炎が発し、ゴベに襲った。
「うおあっちゃぁっ!」
「これでも弱い方よ。まだくたばらないでよ、あなたを完膚なきまでに叩きのめした後にあの世へ送るつもりだから」
まずい、ナルセはゴベを殺す気だ。我はそのことを察していたが、離れている所で勇者の治療を受けているケンジもそのことを察していた。
「ヴィルソル、成瀬を落ち着かせるってできないか?」
「無理だ。とんでもない量の魔力を解放しておる。我ではどうしようもできない」
「だよなぁ……ああなった以上もう俺たちの言葉は聞こえないし」
「だな」
「二人とも、話をしている場合?」
ヴァリエーレが我たちに近付き、こう言った。
「これ以上ナルセが暴れたら、皆ぶっ飛んじゃうわよ」
「でもさ……どうするの?」
「すみません、俺でもあの状態の成瀬を止められる自信はありません」
「うーん……」
我たちが考えていると、ゴベの悲鳴が轟いた。我たちは振り返ると、ナルセが火と氷、そして風を操ってゴベを追っている姿が目に入った。
「こんなん喰らったら死んじゃうよ!」
「当たり前よ、殺す気だから!」
まずいと思った我だったが、この状況を察した黒服の軍団がやってきた。
「ゴベさん! ここは我々に任せてください!」
「あんな小娘、ハチの巣にしてくれるわ!」
黒服たちはマシンガンを装備していた。おいおい、あんなもので今のナルセを止められるつもりか?
ナルセは逃げようとしたゴベに対して風を使って捕らえ、魔力でコンクリートを操り、ゴベを身動きできないようにした。
「さぁ、やって見なさいよ。センスのない黒服の皆さん」
「センスがないと言うな!」
「これでも高級品だぞ!」
「無礼な奴だな、撃ってしまえ!」
この直後、黒服たちはナルセに向かってマシンガンを乱射した。だが、ナルセは闇で作った盾を使い、マシンガンから放たれる弾丸を消し炭にしていった。
「止めろ! これ以上撃っても意味がない!」
「どうする……」
「直接叩け!」
あーあ、今一番やっちゃあいけない作戦をあいつらは実行しようとしている。あいつらは武器を持ってナルセに近付こうとしたのだが、その前にナルセが光の波動を連射し、攻撃を始めた。その攻撃は黒服たちに命中し、あっという間に四分の三ほど倒してしまった。
「なん……だと……」
「あら、態度の割に対して強くないのね。でも……これで誰が強いかハッキリしたでしょ? 死にたくなかったら……さっさと出ていきなさい」
「ヒィ……ヒィィィィィ!」
残った黒服はナルセの顔を見て、悲鳴を上げながら逃げて行った。相手にしなければいいものを。
ん? ナルセが黒服を片付けている間、ゴベの姿が消えている。あいつ、ナルセの隙を見て逃げたな! コンクリートには、あいつの靴がある。靴を脱いで逃げたのだろう。
「ナルセ! あの男が逃げたぞ!」
「あら本当ね……見つけて血祭りにあげてやるわ」
ナルセはそう言うと、ゴベを探しに出てしまった。
「私たちも後を追いましょう」
ヴァリエーレがそう言ったが、勇者がため息をついて声を出した。
「ちょっと待って……ケンジの傷が結構深くて治すのに時間がかかるの」
「大丈夫かティーア?」
「大丈夫」
そうだ。ケンジは投げナイフによって受けた傷がまだ癒えていないのだった。ナルセがいればすぐに治せるのに……うーん……仕方ない!
「我がナルセを探してくる。ケンジを治した後、もう一度あの男を探そう」
「分かった!」
「ヴィルソル、私も行くわ」
「ああ。頼んだぞ、ヴァリエーレ!」
その後、我とヴァリエーレはナルセの後を追い、走り始めた。
騒ぎが広がる中、ブレアはワインを飲んでいた。その時、黒服が近付いてきた。
「ブレア様。白い仮面が暴走して暴れているようです」
「そうか。で、何人か死んだか?」
「彼女の暴走で死者は出ていません。負傷者は出ましたが」
「ほうほう。それ以外で死んだ奴はいるか? 奴隷でも戦士でも何でもいい」
「え……えーっと……何人かが死んでいますが」
「よし。おい、リバースカプセルを死人に使え。丁度いい、実験の時間だ」
ブレアの言葉を聞いた黒服は、少し動揺した。だが、その表情を見たブレアは冷静な声でもう一度やれと言った。黒服は返事をした後、ブレアから大量のリバースカプセルを受け取り、廊下へ出て行った。
黒服にリバースカプセルを渡した後、ブレアはもう一度リバースカプセルが入っていたケースを見た。
「数が少ないようだが……まぁいいか」
そう言って、ブレアはケースを机の中に入れた。
ルハラ:Bフロア近く
「早く出してくれ!」
「このままだと警察にばれてしまう!」
「地位と名誉が失ってしまう!」
やれやれ、自分の名誉とか地位が大事なら、こんな所にこなければいいのに。それに、警察はいないけどギルドの人がいる。あ、私のこと。私が今の状況を鮮明に話したら、ここにいる連中は全員刑務所行きだ。
「皆さん、もう少しお待ちください」
「そう言ってもう何分経過したか分かっているのか!」
「客を見殺しにするつもりかー!」
あーあ、もうこいつらの騒ぎ声を聞くのが嫌になった。私は小さく呼吸をし、ウッフンボイズでも使おうかと思った。しかし、少し離れた所から足音が聞こえた。他の人たちには聞こえていない。騒ぎ声で足音が消されているのだろう。その足音は確実に私たちへ近づいてきている。しかも、数は複数。魔力は感じないけど、嫌な予感がする。それに、悪臭もしてきた。
「ん? 何か臭くないか?」
「誰か屁でもしたのかー?」
「屁じゃないだろ」
「じゃあ何だよ、これ?」
他の人も悪臭に気付いた。私は危機感を察し、廊下に出た。出た瞬間にさらに強い悪臭が私の鼻を襲った。私は鼻をつまみながら、周囲を見回した。
「嘘……何なのこれ……」
あまりに衝撃を受けた私は、思わず口に出してしまった。私の目の前には、死んだ奴隷たちが動いていたからだ。
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