反撃の時間
剣地:廊下
「あー、あのコゴローがやられたな」
「いい所まで行くと思ったけど」
「相手が悪かった。あれだけの魔法を使うから、誰だって勝てるわけねーよ」
「奴隷共は騒いでいるようだな。俺たちの希望が潰えたって」
「愚かな連中だな。まだ助かると思っているのかよ。ここにきた以上、死ぬまでこき使われるのに」
黒服たちの話声が俺の耳に聞こえた。やはり、俺はあの戦いで死んだことになっているようだ。都合がいい。さっさと成瀬の所へ行って何とかしないと。
俺は時折壁にある地図を確認しつつ、成瀬がいる部屋へ移動を始めた。ナチュラルエアを使っているおかげで、この場にいる連中は俺が移動していることを察知していない。これなら楽に成瀬の元へ行けると思っていた。
しかし、俺の予想は外れてしまった。俺は今、成瀬がいる部屋の前にきている。扉の前には護衛らしき黒服の男性が二人立っていた。そういえば、俺もVIPファイトの控室で待機していた時、扉の方から人の気配がしていた。はぁ、あの護衛をどうやってどかそうか。あまり魔力を使うと、俺がいることに気付いてしまう。騒ぎになるのはまずい。後からくるヴァリエーレさんたちが行動しにくくなるだろう。
考えていると、俺が身を隠している柱の近くに、いくつかライトがあった。そうだ。あのライトを破壊して音を出し、あいつらの気をひこう。
俺は小さな雷を発し、ライトに向けて投げた。雷に当たったライトは、激しく音を立てながら割れた。黒服の二人はその音に驚き、急いで割れたライトの所へ向かった。その隙を伺い、俺は成瀬の部屋へ侵入した。
部屋に入り、俺は周りを見渡した。内装は俺がいた部屋と同じだった。成瀬の姿を探すために、俺は足音を出さないように忍び足で周囲を探した。すると、ロビーで座っている成瀬を見つけた。
「成瀬」
小声で成瀬の名を呼ぶと、成瀬は反応した。そして、周囲を見回した。
「剣地……いるの?」
「ああ。ここにな」
俺は壁から身を出し、成瀬の所へ向かった。成瀬の体は動かなかったが、表情は泣きそうになっていた。
「剣地……よかった……生きていたのね」
「まーな。あの傷で死なないよ」
ナイフが刺さった場所を軽く叩いてアピールしながら、俺は成瀬に近付いた。
「で、何があった? どうしてここに?」
「本社で証拠を探していたら、部下らしい奴に捕まったの」
「そうか……もしかして、その部下が成瀬を操っているのか?」
俺の言葉を聞き、成瀬はそうと答えた。やはりそうか。一体どんな奴か知らねーが、成瀬に酷いことをしやがって!
「とにかく今の俺たちの状況を教えておく。ルハラはその辺にいる。ヴァリエーレさんたちは後からくるみたいだ」
「後からくるって……」
「殴り込みにくるって言っていたけど」
その時だった。突如上から爆音が聞こえた。サイレンが鳴り響き、辺りから悲鳴や足音が聞こえてきた。
「緊急事態! 緊急事態! 侵入者が現れました! 数は三人。三人とも女性で、とても強いです! 観客の皆さんは今すぐBフロアの非常口から脱出してください! あ、警察に見つからないようにお願いします!」
へへっ。どうやらヴァリエーレさんたちが殴り込みにきたようだな、さぁ。ここから反撃開始と行きますか! だけどその前に、さっきの黒服が部屋に入ってきた。
「白い仮面、今すぐ逃げ……」
「おっと失礼!」
俺は成瀬をお姫様抱っこし、黒服を蹴り飛ばして部屋から出て行った。
「ちょっと剣地、これからどうするの?」
「逃げるぞ! とにかくお前を操っている奴をぶっ飛ばしに行く! 顔は覚えているか?」
「ええ。そうだ剣地、私が解放された後……あいつをぶっ飛ばすのは私に任せてくれないかしら?」
「え? ああいいけど」
この時、俺は成瀬の表情を見てしまった。この顔、シリヨク王国の独裁王をぶっ倒す前の顔をしていた。つまり、成瀬はブチ切れる寸前だ。いや、もうもしかしたらブチ切れている。
ヴァリエーレ:マスカレードファイト会場
私たちは武器を持って暴れながら、先へ進んでいた。最初、黒服たちは武器を持って私たちに襲い掛かったけど、あまりにも強さの差があるせいか、私たちの顔を見たら逃げだすようになっている。
「ひェェェェェェェェェェ!」
「こいつら強すぎるよ!」
「いやァァァァァァァァァァ!」
「逃げるんだよぉ!」
黒服たちは情けない悲鳴を上げ、私たちから逃げている。呆れた私たちは手を出さないようにした。
「またここにくるとはなぁ」
「だねー。もうこんな所へきてたまるかって思っていたけど」
「仕事だから仕方ないわよ」
こんな会話をしていると、目の前に銃を持った鎧姿の男たちが現れた。どうやら、警備員のようだ。
「武器をしまえ、手を上に上げろ」
銃を突き付け、こう言った。私はため息を吐き、言葉を返した。
「銃を突きつけられて降参しますって言うと思う?」
「思う」
「残念だったな……降参しますって言うのはお前らの方だ!」
ヴィルソルとティーアが、光と闇を使って攻撃を始めた。警備員は防御を固めたのだが、簡単な防御は光と闇を防ぐことはできなかった。
「あぎゃァァァァァァァァァァ!」
「うェェェェェェェェェェ!」
「いぎァァァァァァァァァァ!」
強固な防御を簡単に破れられ、驚いた警備員は悲鳴を上げて逃げ始めた。
「しょうもない連中だの」
「奴隷たちに戦わせて、自分たちは適当に仕事していたみたいだね。それで、鍛えてなかった分弱くなった」
ティーアとヴィルソルが笑いながらこう言った。私は周りを見回すと、観客や黒服たちは皆いなかった。
「皆逃げたようね」
「だね。だけど、ルハラはどこ行ったの?」
「そうじゃの。あいつの姿が見えないの」
二人の言うとおり、ルハラの姿が見えない。どこにいるのかしら? そう思っていると、通信が入った。私は通信のスイッチを押し、応答した。
「はいヴァリエーレです」
「あ、ヴァリエーレ? 私だよ、ルハラだよー」
「ルハラ。無事だったのね」
通話の相手はルハラだ。本当に無事でよかった。ルハラの身に何かあったと思い、正直不安だった。
「今どこにいるの?」
「Bフロアだよ。観客と一緒」
「分かったわ。で、その後はどうするの?」
「違法賭博に関わった連中を一網打尽にするよ。今回の依頼の仕事とは別の仕事だけど、悪い連中を見逃せなくてね」
「そうね。私も同じ気持ちだわ。ルハラ、やるとしたら気を付けてね」
「オッケー。じゃあ皆も気を付けてねー」
その後、ルハラは通信を切った。話を終えた後、ティーアが私にこう聞いた。
「ねぇヴァリエーレ、私たちはどうする?」
「そうね……今はケンジとナルセのことが気になるわ。すぐに二人と合流しましょう」
「イエッサー!」
話を終え、私たちはケンジとナルセを探しに行った。
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