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Hopefully

お読み頂きありがとうございます。

三日月視点。


 それは、俺にとっての初恋だった。

 そして、一目惚れでもあったとさえいえるだろう。


 水しぶきの中、栗色の長いポニーテールを揺らしながら太陽に照らされた彼女の笑顔が眩しくて。高校生にもなって、子供のように楽しそうにはしゃぐ姿も新鮮だった。

 何でも、入学早々、花壇の花がうなだれていたという理由で勝手に水やりをしていたらしく、それがいつの間にか遊びに変わってしまったらしい。その後、こってり先生に叱られて何度も頭を下げていた姿も何だか可愛いとさえ思えてしまった。

 あの子と話せたら良いのにな――初めはそれがきっかけだった。

 彼女は普通科で、俺は特進科だから中々会うのは難しいだろう、そう思っていたらなんと彼女の幼馴染みであるという男も特進科で同じクラスだったのだ。これは千載一遇のチャンスかも、その思いで彼女の幼馴染みの双葉ひなたに声をかけた。

 俺とは違って、純日本人の和製人形のように艶のある黒い髪。成長期の真っ只中ともいえる低めの身長は、彼女と同じ目線の高さで。笑顔がとびきり可愛いと言われる彼女の傍にいても、何の遜色もない中性的な顔立ちの双葉は、俺が彼女に気がある事を直ぐに察知したようだった。

 きっと、声を掛けたタイミングが悪かったんだろう。意気込んで話しかけたのが、まだクラスメイト達がたくさん教室に残っていた放課後の事だったから。俺の家名に惹かれて群がる連中にとって、俺の一挙手一投足は何をするにも気になるらしい。


 双葉が俺を拒絶した事で、そこからしばらくして双葉に対する嫌がらせが始まってしまったのだ。


 何度も止めようと思うたび、何故かことごとくそれがゴーサインとみなされて、いつしか双葉をいじめる元締めのような存在になってしまったのが酷く悲しい。おかげで、彼女には嫌われる羽目になった。

 ただ、それでも前向きに良い点を述べるならば、双葉を助ける為にやってくる彼女と少しばかり話が出来るようになった事だろうか。

 彼女は、やはり周りに集まる生徒たちとは違ってた。

 俺を三日月財閥の跡取りだと知っていても、常に対等な立場にいてくれたのだ。

 それが、どれだけ救いになったか。

 もっと彼女と話したい。口下手な俺だけど、どうすれば彼女と話せるだろう?

 その思いで、やっと彼女を呼び出せたと思ったのに。


 あんな事になるなんて――


 彼女と会うのだからと一度自宅に帰って、私服に着替え直したのが悪かったのか?私服選びに何を着れば良いのか一時間ほど悩んでしまったのも悪かったのかもしれない。

 待ち合わせ場所にいた彼女は、全身が血まみれで息も絶え絶えになった状態だった。


 誰が見ても、助からない。


 一目見て、直ぐに分かった。誰がこんな酷い事?というよりも、彼女が死ぬという事実の方が悲しくて気が付けば血まみれの彼女を抱き締めていた。

 どんどん冷たくなっていく彼女をどうにかしたくて。

 この世に神という存在がいるのならば、俺の命を彼女に与えろと強く願った。俺はどうなったって構わない。彼女が、彼女が生きられるなら何だってしてやる!だから、どうか。


 その時、遠くで誰かの声が聞こえた気がした。


 ふと彼女を見れば、何故か息を吹き返していて、急いで救急車を呼んだのは言うまでも無かった。翌日の放課後、さっそく彼女のお見舞いに行くのに何を持って行けば良いのかに気を取られていて、まさか階段から突き落とされるとは思いもしていなかったが。

 あの時の双葉の言葉が、まだ耳の奥に残ってる。

『芽依を傷付けた罪は、償ってもらうからね』――と。

 それは、いつも教室で聞く絶対零度のような冷たさだった。

 性質の悪い事に、双葉は彼女の前と俺の前とでは明らかに態度が違うのだ。確かに、俺は意図してないとはいえ、双葉にとってはいじめる側の人間なのだから嫌われているのは仕方ない。けれど、それ以上にあいつは俺が彼女に近付くのを警戒してた。

 まるで、さながら騎士のように。俺がいつか彼女を奪うのではないかと、あいつはずっと敵意をむきだしにしていたのだ。

 それが、

「ねぇ、聞いてる?芽依は、もっと危機感を持って行動してよ」

「……う、うん。ごめん」

 ここまで、態度が変わるなんて。

 双葉は、俺が桜庭芽依の中にいる事に気付いてない。なので、たぶん彼らにとっては普段通りなのだろう、学校の廊下だというのに堂々と手を繋いで歩いていた。

 幼馴染みといっても俺は喬人と同性だし高校生にもなって手を繋ごうとは思わないが、桜庭と双葉は異性だしどこまで距離が近いのか俺には見当が全く付かない。だから、大人しく双葉のそれに甘んじている状態なのだが。

「あいつの前に顔を出すなって、今朝言ったばかりでしょう?」

「それは、その……たまたまで」

 喬人が言うには、俺は常に間が悪いらしい。昔はそれでも、あまり気にする事などなかったけれど、高校に入って彼女と何度もそういった場面に遭遇する度に己のタイミングの悪さを痛感してしまった。

 きっと、彼女が死にそうになったのも俺の間の悪さが原因なんだろう。

「それに、あいつ……いきなり僕にあんな事するなんて」

 ああ、それは理解出来た。何せ、それは俺が双葉の傍にいたからだ。

 きっと、彼女は本能で双葉と俺を離そうと思ったのだろう。どれだけ彼女が双葉を大事にしてきたか、敵意を向けられてきた俺にはよく分かる。

 ただ、問題は彼女が俺の体を使っているが為におかしな事になってしまった。

「あの時の仕返しだとしたら……、いや、分からないな」

「ふた、じゃなくて。ひなた」

「あ、ごめん。もしかして、しんどい?」

 以前は、声を掛けただけで常に睨み付けたまま見上げられてきたのに、心配そうな顔で問いかける彼と目線の高さが同じであることにまだ慣れない。

 ううん、と首を振ればそれだけで労るような笑みを浮かべる。双葉にとっても、彼女がどれだけ大事な人であるのか分かってしまう。

「さっき、走ってきたでしょう?心臓は、痛くない?見た目には怪我してないように見えるけど、芽依の心臓は」

「分かってる、大丈夫だって」

 病院で目覚めてから、彼女のご家族と同じぐらい双葉があれこれと世話を焼いてくれた事を思い出した。いつもは常に嫌味を言うか悪態をつかれてばかりいたから、双葉がかなりの世話焼きだったという事は初めて知って驚いた。こんな顔も出来るんだな、という新たな一面もたくさん見たし。

 けれど、彼が優しかったのは他にも理由があったのだ。


 それは、この桜庭芽依の心臓がいつ止まってもおかしくないということ。


 双葉に階段から突き落とされて、俺は死の淵で悪魔と出会った。

 彼が本物かどうかであったかは分からない。だけど、彼は俺の願いを受け入れたと言ってきた。どうして、と問いかけたが答えてはくれなかった。

 そして、彼女は本当ならば既に死んでいるとも言った。あの時、やはりもう手遅れであったらしい。

 そこを俺の願いで、彼は魂の入れ替わりを行う事にしたという。

 俺の体とはいえ、彼女が生きながらえるのであればただ素直に嬉しかった。例え、それが俺のエゴであるとしても。

 悪魔は、言った。

 彼女を数時間でも数日でも数年でも生かしたいなら、彼女の心を奪いなさい、と。彼女が俺を好きになれば、その分だけ俺の寿命を彼女に与える事が出来るのだと。

 まあ、そこで俺は彼女が好きなんだという事にようやく気付いた訳だけど、そんな事はどうでもいい。

 俺は、彼女に生きていて欲しい。



 だから、願わくば――


初めの「願わくば」は、三日月君の言葉でした。


これにて、このお話は閉じさせて頂きます!

望んで頂けるのなら、また続きも書きたいですがひとまずおしまい。


最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!!

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