初日というのは気だるいもので。
カーテンから漏れた明かりがちらちらと布団にくるまる少年を起こそうと画策する。二度寝の気分なのでまた布団に籠もる。下からドタドタと音が聞こえてきた。ドアが勢いよく開かれ悲鳴を上げる。可愛い妹の小林麗珠だ。布団をひっぺがすと麗珠は耳元で叫ぶ。
「お兄ちゃん!起きろーー!!!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ」
鼓膜が裂けるかと思った。
「落ち着け、まだ時間に余裕があるぞ」
そういって再び二度寝を試みるが―――
頭に時計を叩き付けられ、またもや耳元で叫ばれる。
「もう7時だよ!」
「安心せよ、まだ30分は寝れるぜ」
「…朝ご飯たべられないよ?」
「あっ、それは盲点。さすが麗珠」
手をポンと叩き布団からでる。ご飯を食べてから学校へと向かうのだった。今日からいつもと違うルートで学校へ向かうことになる。転校ってやつだ。
国は適合者は国立精霊科学園(まぁ中学から大学まであるのだが)いわゆる精霊科に通うことを推奨している。今の日本…いや、世界中は7日間大戦で敗北後、精霊吸収装置で精霊濃度の少ない区画、《エリア》を作って生活している。それでもいつ精霊存在が襲ってくるか分からず、使徒級に効果があるかわからない。
だから、戦力となる適合者を育成して備えなければならない。
だから、精霊科に入学すれば様々な特典が得られる。
例えば、精霊士ライセンス。これがないと街中で精霊武具は使えないし、持っていれば特定の職業で優遇される。それに精霊士は国を守ることができる、子供の憧れだ。目指さない者は一部の例外をのぞきいなかった。
だが、俺は高校一年まで普通科に通っていた。自分でいうのも何だが、俺は天才っていう奴だった。身体能力、学力、精霊制御力、容姿も中の上。ただ…精霊士となるには致命的な欠陥が一つだけあった。だけど、先日女の子を助けたところを見ていたスーツのお姉さんがどうも精霊科の理事長だったらしく、俺のことをべた褒めしたうえに精霊科の推薦状まで書いてくれた。というわけで今日から俺は精霊科の生徒となったのだ。
「失礼します」
ノックしてから部屋に入る。
「うむ、入りたまえ」
このイスに座ってノリノリで手を組んでいるスーツの麗人がここの理事長、『黒咲 鉄華』
「さて、これが無期限外出許可証や生徒手帳含めその他もろもろの書類だ。これで良いかな?」
「ありがとうございます…はい、大丈夫です」
渡されたチェックリストと書類を見比べ確認する。
「すみません、寮には入らなくていいって言いませんでしたっけ?なんで寮のカードキーが入ってるんです?」
じっ…と疑いの目を向ける。
「いやー…入らなくてもいいって約束したけどね…なんといいますか…勝手がすぎるって起こられちゃってさ。いやーごめんなさいね」
こんな風に軽いが一応理事長である。
「で、一応形式として。10年前から出現した未知のエネルギー《精霊》、かの7日間対戦において圧倒的被害をもたらした《精霊存在》。その中でも《使徒級》を倒し、この地球を再び人の手に戻すのが我々の指名である。貴君の活躍を期待する」
「了解しました」
「あぁ、そうだ。相部屋の奴と挨拶しておくといい。めんどくさいから何も話してない、きちんと説明しとくべきだろう」
「はぁ…」
決めるところはきっちり決めてもらいたい。