プロローグ
二回目の投稿ですが、初作品はただのテストでございます。いつか書き直します。
夢を見ていた。夢には二つ、種類があると。誰かは言った。はっきり夢だと分かる夢。そして、分からない夢だ。これはどう考えたって前者だ。だって、俺は10年前の災厄以降の彼女を見たことがないのだから。
彼女は笑っていた。俺はその笑顔が大好きだった。10年前とは姿は変わってはいたが。彼女の長くて綺麗だった髪は肩の辺りで切りそろえられ、背は昔よりずっと伸びていた。ただ、俺には夢だからか、大まかな姿形と、そのにこやかに笑う口元だけが見ることを許されていた。彼女の安否すら確認できてないのだから、当然ではあるが。絶対守ると約束した彼女は、今はどうしているのだろうか。一りで行かせる訳にはいかなかったか……ここで毎回、時は10年前へと遡る。俺は立ち位置は変わらず、あの惨劇を何度も何度も何度も、見せ続けられてきた。
焼けた町、崩れたビル、積み重なったブロック塀の上に奴は居た。無機質な板状の存在。透き通るような淡い青色。精霊存在
《形状:板》その前、6才の俺が背中に彼女を守り、沈黙する板を睨みつける。そして彼女に何度も何度も何度も……逃げろと、叫び続けている。彼女は竦んで動けない。俺は彼女に言った、お前が先に行って、俺がここにいることを大人達に伝えるんだ。と。彼女はふらふらと立ち上がり後ろへ、駆け出した。自分の家へ。彼女の家は俺の家と隣だった。それも彼女を励ます要因の一つだったのかも知れない。そして夢は終わる。お察しの通り、俺はおめおめと生き延びた。親とも彼女とも合えていないのだ。
「起きろ拓也」
俺の体が揺すられる。目を開くと見慣れた顔があった。
「ん? もう時間か」
「ああ、しかし四人部屋だから目覚ましが使えないとはいえ、女子との約束に人を使ってはダメだろう」
「すまん、すまん。約束通り朝飯のおかず一品やるからさ。許してくれや」
俺は布団からもぞもぞと這い出てタオルをひっつかみ、洗面所へ向かう。蛇口から零れ落ちる冷水に手をつけ、顔にぶちまける。
「うおっ、寒っ……」
「まだ四月だからな」
顔を拭いた後、テキパキとジャージに着替える。新一年生として入ってきた義妹の剣崎栞の朝練に付き合ってやらねばならない。お気に入りのスニーカーを履いて、朝六時の寒さに震えつつも男子寮を後にした。待ち合わせは校門前だ。
国立精霊科高等学校の文字がでかでかと刻まれた門だ。精霊科高校が出来たのは四年前。俺は三期生ということになる。精霊科の精霊とは災厄以降に発見された未知のエネルギーだ。どこぞの著名な科学者達が次々と利用法を編み出した。また量も多く、人口の減少もあって、精霊はあっという間に他のエネルギーを駆逐した。精霊は大気中に含まれていて、幼少期の人間が多く体内に取り込むことで精霊により適合した、俺達新人類が生まれる。この学園はそんな新人類を隔離するために作られた学校だ。俺達は旧人類とは違う。大気中の精霊を取り込み体内に蓄え、自分の心を形にする。精霊錬成と呼ばれているこの力で、強力な武器を作り出したり、魔法みたいに火を放ったりでいるようになる。人々は新人類を恐れ、隔離した。そしてこの学園は生徒達が精霊存在と戦えるよう訓練を行っている。あわよくば化け物共による同士討ちを期待しているのか……そうではないのか。いい気はしない。
「先輩! すみません、待たせてしまいましたか?」
「いや、今来たとこさ。さ、始めよう」
栞は俺がお世話になっている老人の孫にあたる。10年前に通っていた空手の先生なのだが、なぜか家に住まわせてもらっているのだ。
まずは学校の周りを一周する。これでも20kmはあるが、新人類は旧人類に比べ身体能力が高い。ウォーミングアップのようなものだ。隣を走る栞の銀髪が風になびく。精霊を取り込んだせいか、新人類は以前と髪の色や目の色などが変わっていることが多い。ちなみに栞の目は青紫になっているが、俺は特に何も変わらず、黒目に黒髪。ごく普通な日本人スタイルだ。
「そういえば、栞って何組に入ったんだっけ?」
「えっ? 春休みに言いませんでしたっけ? B組です」
「ああ、優秀だね」
「え、そうですかねぇ……えへへ」
栞はすぐ照れる。褒められなれていないのだ。俺はその照れている栞の笑顔が好きだった。精霊科高校は持ち合わせた精霊錬成の能力によってクラスをABCの三つに分ける。俺はC組だ。C組ってのは最下位のクラスだから、特別な場合を除き、他の生徒から見下されがちだ。まあ、数はC組が一番多いからあまり気にはならない。それでも、栞がそのC組でないことには安心する。気づけば校門の前に戻ってきていた。
「ん、じゃ。達者でな、新入生」
そういって俺が帰ろうとすると
「あの、お昼、ご一緒させていただけませんか……?」
「ああ、かまわないよ。じゃ、食堂の入り口で待ってるから」
「はい、ありがとうございます!」
また笑う。ちょろい奴だ。そこがまた可愛いところだが。そうして俺は再び寮へと帰ることにした。
お読みいただきありがとうございました。