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精霊の戦士たちへ  作者: 遠藤ゆきな
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第四話 新たな出発のシオナギ

オルタ・ミレット・ヴィネアは漁村“シオナギ”を目指す。

森の吸血鬼の洋館から三日後に森から抜け出した。

今、“シオナギ”へ続くなだらかな道を歩く。


その間にも、魔物はやはり襲ってきて、楽な道のりではなかった。

ミレットの弓矢の矢も無くなってしまい、ミレットはオルタ・ヴィネアのフォローにまわる。


ヴィネア「さすがにクサイわね」


ヴィネアが鼻をスンスンし、話をする。


オルタ「え? 何が」


ミレット「オルタ…体のだよ」


何日もの旅の中で、シャワーはおろか、水浴びも出来なかった。

服にも汗と血が染み込んでいる。

しかも、魔物との戦い続きで、破れも酷い。


オルタ「ヴィネアのマントも黒ずんで、きたね…」


ヴィネア「…うう……」


ミレット「はぁー……食べ物も、もう無いよ… 早く、村に着かないと…」


仲間のテンションが下がっている、とオルタは思った。

ふと先の道を見る。

道がないことに気付く。


オルタ「んー?」


オルタは駆けだす。


ミレット・ヴィネア「?」


オルタが道の先まで来ると、その先の道は、下り坂になっているのが分かった。

その下り坂の先に広い海と村が見えた。 強い潮風が吹いてくる。


オルタ「二人とも、もう少しだよ」


後からやって来た二人に声をかける。


ミレット「やっと着いたー!」


ヴィネア「随分、発展した村ね」


ヴィネアの言う通り、大きな船が何隻もとまり、様々なお店が並んでいた。


三人は村を見ていると、村の入り口の手前にあることを見つける。

それは荷馬車の旅の行商が数人の盗賊に襲われているところだ。

馬車のすぐ近くに行商の男が倒れており、一人の盗賊が女性にナイフを向けている。


オルタ(走っても間に合わない…!)


「ミレット! 矢は!」


ミレット「もう無い!」


オルタ「なら、水を投げて!」


ミレット「ええ!?」


ミレットは手のひらから好きな量の水を出すことが出来た。


オルタ「水を矢のように出して、気を引いて! 俺とヴィネアで倒しに行くから!」


オルタとヴィネアは走り出す。


ヴィネア(誰でも助けるんだね、オルタは…)


ミレットは悩んでいた、だが時間が無いことは分かった。


ミレット「水をいっぱい出して…」


ミレットは目の前に大きな水の玉をつくる。


ミレット「ホースから勢い良く、水を出すイメージ… いっけー!!」


水が勢い良く、発射される。 その水が一人の盗賊に当たる。


盗賊「何だ?」


その盗賊は水が当たった方向を見る。


盗賊「なっ、あれは!?」


盗賊全員がその方向を見る。


オルタとヴィネアが坂道を凄いスピードで駆け下りてくる。


オルタ(人だから、剣はやめた方がいいな…)


オルタはそのスピードのまま、盗賊の一人を殴る。

盗賊は何もできずに倒れる。


ヴィネアは勢い良く、盗賊に蹴りを繰り出し、一気に二人倒す。


盗賊「待て! こいつが見えないのか!?」


残った盗賊二人は、行商の女性を人質にとる。


オルタ「くっ…」


勝ち誇った二人の盗賊の顔に、水がかかる。 盗賊は一瞬怯む。

その隙にヴィネアは飛び出し、一気に蹴りかかる。

二人の盗賊は数メートル吹き飛ぶ。


ヴィネア「ふぅ… ミレット、ありがとう」


ミレットが遅れて降りてくる。


ミレット「うん! …大丈夫ですか!?」


女性「父さん!!」


ミレットと行商の女性は、腕を抑えてうずくまっている行商の男性に駆け寄る。

見ると、腕をナイフで少し切られていた。

ミレットは水を出し、傷を治す。


男性「うう…」


ミレット「もう大丈夫です」


男性「ああ…傷が治ったようだ… ありがとう。 君達は?」


ミレット「ええっと…」


ミレットは行商の男性と女性と話す。

もう大丈夫だと安心したオルタは、ヴィネアが最初に倒した盗賊達を見る。

蹴られた所が痣になり、完全に気を失っている。


オルタ「ちょっと、やりすぎじゃない? ヴィネア。 もうちょっと、手加減しても」


ヴィネア「…このご時世に、人間を襲う人間なんて、死んでもいいじゃない…」


オルタはヴィネアに向き直る。


オルタ「そんなこと、言っちゃ…」


その瞬間ヴィネアの目が見開く。

オルタの後ろで、オルタが倒した盗賊が立ち上がった。

オルタは気づかない。


ヴィネアはオルタを突き飛ばす。 オルタを狙った盗賊の刃がヴィネアの腹に突き刺さる。

オルタは瞬間、何が起きたのか分からなかった。


ヴィネア「ゴッフ……ッ」


ヴィネアは血を吐きながら、盗賊を殴り倒す。

盗賊が倒れたのを見ると、自分も倒れこみ膝をつく。


オルタ「ヴィ…ヴィネア!?」


オルタはヴィネアを支える。 手にヴィネアの血が付く。


ミレット「ヴィネア!!」


ミレットも事態に気付き、駆け寄る。行商の二人は動けない。


ミレット「まず刃を抜く。 オルタ、手伝って!」


オルタ「分かった…!」


オルタはその先の事をよく覚えていない。



今、オルタはヴィネアの寝ているベッドの椅子に座っていた。

ここはシオナギの宿だ。


ヴィネア「……オルタ…?」


ヴィネアが目覚める。


オルタ「ヴィネア…! 良かった…」


オルタは安堵する。


ヴィネア「あの後、どうなったの?」


オルタ「ミレットにヴィネアの傷を治してもらって、ここに運んだ」


ヴィネア「ここは…?」


オルタ「シオナギの宿。 それで、ここに先生に来てもらって、診てくれたから…

本当に大丈夫…?」


ヴィネア「ええ。 ミレットのお陰よ。 もう痛くない。 ミレットは?」


オルタ「この村の役人と一緒にあの盗賊を、捕まえてもらってる」


ヴィネア「じゃあ、オルタがずっと、いてくれたんだ…」


オルタ「俺のせいだから…ヴィネアがもし目覚めなかったら…」


ヴィネア「…オルタのせいじゃないよ…」


オルタ「俺は…あの盗賊に手加減した… ヴィネアのようにしていたら…」


ヴィネア「ううん…いいの、オルタはそのままで。 最初に言ったじゃない、俺はミレットを守るからって」


オルタ「ヴィネアも、もう大切な仲間だ…」


ヴィネア「…ありがとう…オルタ… あなたが優しいから、私も変われる気がする…」


オルタ「…? よく分からないけど、次は必ずヴィネアとミレットを守るから」


部屋の扉が静かに開く。


ミレット「オルタ、行ってきたよ」


ヴィネア「ミレット、傷を治してくれてありがとう」


ミレット「ヴィネア! 目覚めたんだね! うん。 良くなって良かった」


ミレットは盗賊全員を捕まえたことを報告し、行商人からお礼として貰ったお金で買った、サンドウィッチとスープを見せる。


オルタ「ヴィネア、食べられる?」


ヴィネア「うーんまだ… スープだけ飲むわ」


オルタはヴィネアが起きるのを手伝う。


ヴィネア「そういえば、私のマントは?」


ミレット「あ…あれ…」


部屋の隅にマントが干してあった。

だが、洗っても取れない血と汚れの染みが酷かった。


ヴィネア「……まあ、しょうがないよね…」


オルタ「俺がまた、新しいの買ってあげるよ」


ヴィネア「…そういう、オルタとミレットの服も酷いと思う…」


確かに、三人が村を歩けば浮くだろう。

そのぐらい、三人の服は汚れていた。


ミレット「…みんなで新しい服を買おうか?」


オルタ「そうだね」


ヴィネア「じゃあ、オルタが私の服選んでよ!」


オルタ「え? いいけど」


ヴィネア「やった! じゃあ、今すぐ行こ?」


ヴィネアがベッドから立ち上がる。


ミレット「えぇっ!? ヴィネア具合は大丈夫なの!?」


ヴィネア「平気だよ!」


オルタ「…ちょっと待って。 ヴィネア、その格好だめだね」


ヴィネア「え?」


ヴィネアのただでさえ切り裂かれていた黒いワンピースは、治療のために切った布のせいで、お腹の部分が空いていた。


ヴィネア「大丈夫だよ。 私気にしないから」


オルタ「いやだって…」


しばらく二人の口喧嘩が続き、マフラーをお腹に巻くということが決定した。



ミレット「……恥ずかしいな」


村の商店の大通りに来ていた。 人々は自然と汚れた格好の三人を見る。


ヴィネア「だから、こんなの巻いてるから… とっていい?」


オルタ「だめ」


オルタは譲らない。


まず、道具屋に行き、吸血鬼の洋館で貰った金塊をお金に換えた。

三人は大きな洋服屋に辿り着く。


ヴィネア「わー! すごい綺麗…」


まずヴィネアの服を探す。


オルタ「これはどう?」


オルタが出したのは、王都の兵士が着る制服だ。


ヴィネア「嫌だ。 可愛くない」


その後に出したのも、長袖、長ズボンのカッチリした服ばかり。


ヴィネア「もーオルタ! 私はスカートの方がいい!」


オルタ「俺は、これがいいと思うんだけどな… ミレット、どうすればいい」


ミレット「えーと… あっ、あそこから選んだら?」


ヴィネア「うん! いいかも」


オルタ「…流石、ミレット…! じゃあ、これはどう、ヴィネア」


オルタが出したのは、水色のハイネックのベスト。


ヴィネア「うん。 可愛い… これに決める! オルタ!」


ヴィネアは他に半ズボンとベストと同じ色のアームウォーマーを買った。

それと、腰に装着できるポーチを選んだ。


ヴィネア「戦いの邪魔にならなくて… あ、あとベルトも買わなきゃ!」


オルタ「何を入れるの?」


ヴィネア「リーフマティの村長さんから貰ったマント。 …とっておきたいの」


オルタ「新しいの買ってあげるのに」


ヴィネア「あれがいいの」


オルタ「ふーん」


ヴィネアの物を全て買い、オルタとミレットは自分の服を探す。


オルタ「やっぱり俺は今と同じでいいや」


オルタは同じような黒いタンクトップと上着にし、ミレットは少しデザインの違う長いトレーナーを選んだ。

洋服屋から出ると、すっかり日が暮れていた。


ミレット「じゃあ、一旦宿に帰ろう」


帰る途中でハンバーガーとコーヒーを買い、宿に帰った。

順番にシャワーを借り、久しぶりにキレイになり、宿で借りたルームウェアに着替えた。

三人が部屋に戻り、ハンバーガーを食べ始める。


ヴィネア「あっ、美味しい」


ミレット「今まで、乾燥したパンと肉ばかりだったからね」


話しているうちに、食べ終わり、ミレットはこれからの話をする。


ミレット「ウェストトウィンの東の島に行くにはここから船に乗るんだよね」


オルタ「船か… 初めて乗るよ」


ミレット「僕、東の島には行ったこと無いよ」


オルタ「随分遠くまで来たね」


ヴィネア「何言ってるの。 目指す王都は、もっと遠いんだから、気合い入れないと!」


オルタ「うん」


夜になり、部屋の明かりを消し、ベットに寝る。

ミレットは横になりながら、手のひらを見る。


ミレット(神の復活までもう少しか……)


三人は久しぶりのベッドで眠りに着く。



朝、一番最初に起きたのはミレットで、新品の服に着替える。

次にオルタとヴィネアが起きる。


ミレット「二人とも、おはよう」


オルタ「おっ、ミレット似合ってるね」


ヴィネア「じゃ、私も」


ヴィネアが着替えようとするので、ミレットは慌ててオルタを引きずって、部屋を出る。


ヴィネア「別にいいのに!」


ミレット「ダメだから!」


オルタ「俺ここで着替えるの?」


ミレット「オルタは待ってようね!」


部屋で一人になったヴィネアは、ルームウェアを脱ぎ、昨日の傷跡を見る。


ヴィネア(すっかり元通りか……)


半ズボンを履き、黒いキャミソールを着て、その上にベストを着る。

そして、両腕の包帯も見る。


ヴィネア(アームウォーマーを買ったから、この包帯ともさよならだね…)


ゆっくり両腕の、包帯を外す。

左腕の包帯を外すと、左腕に描かれた黒い紋様が出てくる。


ヴィネア「……」


ヴィネアは無言でアームウォーマーをする。



ヴィネア「もういいよ」


扉の奥から声がする。

オルタとミレットは部屋に入る。


ミレット「わぁ! ヴィネア、凄い綺麗!」


ヴィネア「えへへ。 オルタ、どう…?」


オルタ「……うーん。 あっ、髪を結んでみたら?」


ヴィネア「え?」


ヴィネアはクルミ色の長いぼさぼさの髪を触る。


オルタ「戦いの時、邪魔そうにしてたから」


ヴィネアは近くにあったリボンで髪を結ぶ。


ヴィネア「うーん。 こんな感じ?」


オルタ「うん。 さっぱりして、可愛くなった」


ヴィネア「…! ありがとう」


オルタも着替え、宿に支払いとルームウェアを返して、外に出る。


ミレット「よし! 気分が新鮮になって気持ちいいね!

まず、東の島まで行く船を探さないと」


ミレットは、朝ごはんとごねる、オルタとヴィネアを連れ出す。



三人は埠頭に行き、漁師に話しかける。


ミレット「あのう、東の島に行く船はありませんか?」


漁師「東の島にはここ一ヶ月、誰も行ってないと思うな」


ミレット「どうしてですか?」


漁師「なんでも東の島はもう、魔物で酷いらしい。 “カラナギ”からの定期便も来ない。

様子を見に行った、漁師も帰って来ない状況だ」


ミレット「そんな…」


オルタ「だからこそ、ミレットが行かなきゃ」


ミレット「…そうだね。 なんとか僕達だけでも、東の島に行けませんか?」


漁師「そうだな… あそこの、大行商様が、船と漁師達を束ねているから。

そこで聞いてみてくれ」


ミレット達はお礼を言い、大行商の家を訪ねる。


ミレット「すいませーん」


女性「ハイ! あら? あなた達は昨日の!」


ミレット「ああ! あなた達が大行商さんだったんですね」


女性「大行商だなんて、そんな。 あら、あなたもう起きていて大丈夫なの!?」


ヴィネアに話しかける。


ヴィネア「え…ええ、まぁ…」


女性「良かった…! 父さんと一緒に心配してたの。 まあ、上がって。

父も連れて来るから」


大きな接客椅子に三人は座る。

奥から行商の男性と女性が出て来る。


男性「おお君達、昨日は本当にありがとう。 お嬢さんも無事で良かった」


ヴィネアはペコリと頭を下げる。


男性「私はゲイザー。 こっちは娘のエレインだ」


三人も自己紹介をし、東の島に行きたいことを話す。


ゲイザー「東の島に行き、そこから王都へですか… ところでミレット君、君は、水の精霊の力を使えるのかい?」


ミレット「ハイ」


ゲイザー「なるほど、あの神の使者様が言った、力の持ち主なのですね。

ならば我々が協力しない訳にはいかない。 船と乗組員を準備しましょう」


ミレット「ありがとうございます」


ゲイザー「いやいや。 君達は命の恩人だ。 これぐらい当然です。

出発はお昼の十二時でいいですか? その時間なら、日が暮れる前に“カラナギ”に着ける」


ミレット「分かりました」


ゲイザー「カラナギは正直どうなっているのか分からない。

準備を念入りに… エレイン! 色々と案内をしなさい」



三人はまず、エレインおすすめのフィッシュパイを食べた。


オルタ「そういえば、漁村に来たのに一度も魚を食べてなかったね」


ミレット「そうだね。

エレインさん、どうして漁師を大勢束ねているなら、昨日も護衛を頼まなかったんですか?」


エレイン「本当は昨日も護衛が二人いたのよ。 でも、隣の村に干物を売りに行ったんだけど、護衛が二人とも具合が悪くなってね。 しょうがないから、父さんと先に帰って来た訳。 まさか盗賊がいたなんて思わなかったの」


ミレット「そうですか。 その二人が心配ですね」


エレイン「ええ。 でも、東の島はもっと危険だと思うから、ちゃんと準備しないとね」


エレインの案内で、旅に必要なものを補充する。

パンに干物、ドライフルーツ。傷薬に包帯。後、簡易型のシエル王国の地図も。

準備が終わり、埠頭に戻る。

大きな船の準備が進んでいた。


オルタ「凄い、大きな船だね」


ヴィネア「うん」


ゲイザーがやって来る。


ゲイザー「カラナギの港がどうなっているか分からない以上、私が船の指揮を執る。

エレイン、シオナギの港を頼んだぞ」


エレイン「分かったわ」


船に水と酒、食料も運び入れる作業が終わった。


ゲイザー「では、ミレットさん方、出発しますか」


ミレット「ハイ!」


三人とゲイザー、九人の海の男達は船に乗る。

エレインや村の人々が見送り、船が出発する。


オルタは新たな島への好奇心と不安を胸に抱いた。

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