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精霊の戦士たちへ  作者: 遠藤ゆきな
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    常夜の森の吸血鬼 〈後編〉

薄暗い、森の中を歩く三人。

ミレットは怪訝そうに話しかける。


ミレット「…どうして、オルタ、楽しそうなの?」


オルタ「え? だって、吸血鬼が本当にいるなんて知らなかった。 吸血鬼は魔物より人間に近いって本に書いてあった」


ミレット「でも、人を襲うんだよ!!」


とやかく、言っている間に


ヴィネア「あれじゃない?」


森の中にひっそりと佇む、その洋館はあった。


オルタ「…とても、古いね」


ミレット「不気味だな…」


ヴィネア「…! 誰か出てくる!」


三人は草のしげみに隠れる。

その洋館の扉から、二人の男が出て来る。

背が大きい方と小さい方。身なりは二人とも綺麗だ。小さい方が話しかける。


プル「さて、どこに行く?」


ビートロ「東のシオナギか、西のリーフマティか、北のモクジュか…」


プル「やはり一番、行き慣れている、リーフマティだな」


ビートロ「そうだな」


二人は歩き出す。その方向には三人が隠れた、草のしげみがあるので、三人は焦る。

小声で


ミレット「! どうする!?」


オルタ「今、リーフマティって言ってたよね。 …襲いに行くのかな?」


ヴィネア「たぶんね」


オルタ「…止めるよ」


オルタはしげみから飛び出す。


プル・ビートロ「!?」


オルタ「やい! お前たちは吸血鬼か?」


プル「何だ!?」


ビートロ「…高貴なる我らに、何用だ?」


オルタ「…やっぱり、吸血鬼か… 戦いたくないが、リーフマティの人々を襲うなら容赦はしない!」


プル「妙なのに絡まれたな…」


ビートロ「…仕方がない。 やるぞ!」


吸血鬼二人がナイフを持って、オルタに襲いかかろうとしたところ、盛大に転ぶ。


プル「ぶへっ!!」


ビートロ「こ、これは!?」


吸血鬼二人の足元は、水でぬかるんでいた。ミレットが水の精霊の力を使ったのだ。


オルタ「…ミレット! ナイス!」


ヴィネア「ハイ、没収」


ヴィネアは吸血鬼が落としたナイフを拾う。

吸血鬼は汚れを払いながら、立ち上がる。


プル「くっそー!」


ビートロ「…! プル、一度戻るぞ」


吸血鬼は洋館に走り戻る。


ミレット「…どうするの?」


オルタ「このままじゃ、また人を襲いに行くね」


ヴィネア「話し合いに行きましょう。 分かってくれるはずよ」


オルタ「うん」


三人も洋館に入る。



オルタ「…凄いね」


入り口の大ホールには階段があり。壁には何枚もの古い絵画が飾られていた。


ミレット「うう… 不気味だな…」


三人はとりあえず目の前の古い階段を昇る。ギシギシと軋む音。

そのとき、後ろから飛んできたコウモリが、三人を切り裂いた。


ミレット「っ… なに!?」


コウモリは階段を超え天井につく。その姿が女の子に変わる。

女の子は二階の床に着地した。

水色の髪のツインテールで、かなりのミニスカートの女の子はヴィネアを指さす。


カリーナ「そこのアンタ! 来てもらおうか!」


オルタ「なっ…!」


ヴィネアは無言だ。

女の子の影から、森で出会った、吸血鬼、二人が出て来る。


カリーナ「もともと、この二人には、リリスの為に女の子を攫って来いと命令したの。

やられて帰って来たのは情けないけど、

代わりを連れて来てくれたから、許してあげる」


オルタ「何言ってんだ、アンタ…!」


カリーナ「そこのアンタが協力してくれれば、二人には手を出さないわ。

フフッ… ちょっと血を貰うだけよ」


オルタ「……ヴィネア!?」


ヴィネアは前に出る。


ヴィネア「安心して。 オルタ。 さっきも言ったけど、話し合うだけよ」


オルタ「ヴィネア...! 待て!」


吸血鬼、二人がオルタの前を遮る。


カリーナ「話が分かるじゃない。 大人しく、着いて来な」


オルタ「お前ら…どけ…! 殺すぞ…!」


オルタは剣を構える。ヴィネアが振り返る。


ヴィネア「オルタ! 殺しちゃダメだからね?」


オルタ「ああ… 待ってて…!」


ミレット「…オルタ、本気!?」


カリーナ「フ―… アンタ達がそういうつもりなら… こっちもやっちゃて!」


ビートロ「カリーナ! リリス様を頼む…!」


オルタと吸血鬼の戦いが始まる。

ミレットも仕方がなく、弓に矢をつがえる。

ヴィネアとカリーナは奥へ進む。



ヴィネア「せっかくリーフマティの村長さんから貰ったマントがあなたのせいで傷ついたわ。 だから、あなたの事、少し怒ってる」


カリーナ「中のワンピースとお揃いになっていいんじゃない?」


カリーナはマントがめくれて見える、所々破けた黒いワンピースを見て言う。


ヴィネア「そうかもね。 ……さて、本題だけど、 リリスは元気なの?」


暗い廊下を歩く中ヴィネアはカリーナに話しかける。


カリーナ「!? 何を?」


ヴィネア「もしかして、まだ人の血が吸えないの? リリスは」


カリーナ「…どうして、そのことを…!?」


ヴィネアはカリーナに向き直る。


ヴィネア「あなた達は、運命に抗っている、リリスの重荷になっているのが 分からないの?」


カリーナ「……! あなたは誰…!?」


ヴィネア「リリスに聞きなさい…」


小さな部屋のドアを開ける。


カリーナ「…リリス…」


カリーナは窓から空を眺めていた女性に声をかける。深い青い髪を長い三つ編みにし、白いドレスの女性。


リリス「カリーナ… 本当に連れて来たのね…」


リリスはゆっくりと振り向く。ヴィネアの姿を見ると、驚き、急に声を上げる。


リリス「カリーナ!! 離れて! “魔法封じの呪い”!!」


リリスはヴィネアに呪いをかける。カリーナはリリスに駆け寄る。


ヴィネア「…相変わらず、呪いが得意なのね」


カリーナ「リリス! 誰なのあいつは!?」


リリス「はあはあ… 彼女は昔、吸血鬼一族を滅ぼそうとした娘… まだ、生きていたなんて…!」


カリーナ「え!?」


リリス「…何しに来たの。 今度こそ私達を、殺すつもり…?」


ヴィネア「随分、具合が悪そうね、リリス。 そのままだと、吸血鬼一族は滅びるわね。

…それとも、私の血を飲む?」


リリス「……」


カリーナ「リリス! 私達であいつを倒して、血を飲もうよ!」


リリス「カリーナ…」


リリスは動かない。 体調の悪い顔を悲しそうに歪ませる。


カリーナ「……どうしてよ、リリス……」


リリス「…ごめんなさい。 私達じゃ、あの子には勝てない。 それに私はもう人の血を飲むつもりはない」


カリーナ「リリス、あなたはもう限界なのよ!? なのにどうして!?」


ヴィネア「教えてあげるわよ。 リリスが人の血を飲まなくなった、理由」


リリス「!? …ダメッ! ゴホッゴホッ…」


リリスは咳き込む。 カリーナはゆっくりヴィネアに顔を向ける。


カリーナ「…教えて」


ヴィネア「リリスは百五十年前、人間に捕まったの。 その村の人間たちはリリスを当然殺そうとした。 でも、一人の青年がリリスを助けた。 その青年にリリスは恋をした」


リリス「……」


ヴィネア「でも、吸血鬼達はリリスを助けようと、その村を襲った。 人間と吸血鬼の激しい戦闘が起きた。 その戦いの中で青年は命を落としてしまった。

しかも、人間と吸血鬼の戦いをチャンスだと考えた魔物は、村を襲い、弱りかけた人間と吸血鬼を次々に殺していった」 


リリス「…私のせいで、無益な争いが起こり、憎むべき魔物に隙を与えてしまった。

同胞達を殺し、罪の無い村人達を、村ごと壊滅させてしまったのは私です」


ヴィネア「そのことを、今も気に病んでいるのね? そして、愛する男性を思うと、血を飲めない」


リリス「…なんとでも、言いなさい」


カリーナ「……」


リリス「…ごめんなさい。 カリーナ。 あなたには関係が無い事だけど、やっぱり血は飲めない。

私はこの洋館を去るわ…」


カリーナ「…どうして…?」


リリス「私にはもう、この森を夜にし続ける力は無い。 この力を、誰かに引き継ぐために、私は砂になるしかない」


吸血鬼が陽の光を浴びると、砂になる。 このことはカリーナもよく知っていた。


カリーナ「…ううん。 ダメだよ。 私達は一心同体でしょ?」


リリス「カリーナ…?」


カリーナ「リリス、今まで気づけなくて…ううん気づかないフリをしていた。

リリスが今でも、百五十年前の事を罪だと思っているのなら、私達もその罪を背負うよ」


リリス「……!」


カリーナ「私も、もう人の血を飲めないよ。 リリスの愛した人の為に♡」


リリス「カリーナ…」


カリーナ「…プルとビートロも止める。 …話して来るよ。 苦しみながらも私達を守ってくれた、リリスの話」


カリーナはコウモリの姿になり、飛んで行く。

その姿をリリスは静かに見送る。


リリス「……あなたは結局、吸血鬼一族を滅ぼす事になったわね」


ヴィネア「……」



しばらくすると、カリーナ、プル、ビートロとオルタ、ミレットが部屋に入る。

後者の四人は戦いあって、ボロボロだ。

リリス「…プル…ビートロ…カリーナ…」


ビートロ「リリス様の運命…それは我々の運命です…!」


リリス「一緒に滅ぶのでいいの?」


プル「はい。 私は太陽の光に憧れていました。 もう夜の闇はうんざりです」


ビートロ「もうじき、朝です。 …我々は最期の時を楽しんで来ます」


プルとビートロが部屋を出ようとする。それをミレットが引き留める。


ミレット「あっ! 待って! ……“光の水”!」


プル「! これは!?」


ミレットの手から出た水が二人の傷を回復させる。

二人の傷が完全に消える。


ミレット「僕達がつけた、傷だから…」


ビートロ「…ありがとう」


二人は部屋を出る。


リリス「プルとビートロには気を使わせたわね… 

あなた達、迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。

二人を癒してくれて、ありがとう」


オルタ「…アンタがべっぴんさんの吸血鬼?」


リリス「え?」


オルタ「森の木こりの小屋に行っていたんだろ?」


リリス「ああ… あれは、この子達があの方の血を飲みすぎないように、見張っていたんです。 悪い事をしてきました…」


オルタ「大丈夫だよ。 あのおじさんは気にしてないから」


リリス「そうですか。 フフ…」


楽しそうに二人が話すのを見て、ヴィネアはふてくされる。

オルタに詰め寄る。


ヴィネア「…オルタもリリスが美人だと思ってるの?」


オルタ「え? ヴィネア?」


カリーナ「ちょっとー! 騒ぐなら、外でやってくれる?」


カリーナが遮る。


リリス「一階の階段裏の部屋には吸血鬼一族の宝があります。 あなた達には迷惑をかけましたので、持って行って下さい」


カリーナ「朝が近いんだから、とっとと、バイバイ!」


三人は部屋を出て、一階の階段裏の部屋に向かう。



部屋には大きな絵画、謎の液体が入った瓶、オシャレな鎧、剣、ナイフと宝石と金塊などがあった。


ヴィネア「…ほとんどいらないわね」


オルタ「金塊だけ貰う。 ミレット 行くよ!」


ミレット「ちょっ、もうちょっと貰っても…!」


宝石を沢山持った、ミレットは焦る。そのミレットを置いて、オルタは扉を開ける。

オルタ「あとは、木こりのおじさんの分だよ」


三人は洋館を出て、再び“シオナギ”を目指す。

徐々に森が明るくなった。



リリス「……そう。 私は本当に沢山のものに迷惑をかけた…」


カリーナ「リリス……」


リリス「この森も今まで光を奪ってしまった事を、許してくれた。

これからは、たくさんの光が注ぎますように……」


窓から日の光が部屋いっぱいに入る。

この洋館の吸血鬼が砂に変わっていく。


これからはたくさんの光を浴びるように、どこからか吹く風が砂を運ぶ。

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