第三話 常夜の森の吸血鬼 〈前編〉
“リーフマティ”の村長の家で一夜を明かした、オルタ・ミレット・ヴィネアの三人。
朝食を頂き、出発の準備をしていた。
ミレット「オルタ、あの傷は大丈夫なの?」
オルタ「うん。 ミレットが回復させてくれたおかげで、すっかり治った。
ミレットはすっかり、精霊の力を使えるんだな」
ミレット「えへへ。 でも、まだまだだよ。 きっともっと、力は強くなれる。 それで、ヴィネアは大丈夫?」
ヴィネア「私は平気だよ」
オルタ「じゃあ、出発だね」
村長の奥さんにお礼を言い、外に出る。
村人達が復旧作業をしているのが分かった。
ミレット「すぐに直りそうだね」
オルタ「ああ…」
村長が荷物を持った村人と駆け付ける。
村長「皆さん、おはようございます。 気持ちばかりですが、旅に役立つ物を準備しました」
それは腐りにくいパンと干肉と、ハーブ。水筒に毛布と新しいマッチ。
ミレット「これは、リーフマティ原産のハーブですね!」
村長「はい! 何とか無事だったハーブです。こちらは味がよく、こちらは傷に聞きます」
ミレット「すごい! 無事で良かった…」
オルタは新しいリュックを貰い、ミレットと貰った物を持ち合う。
村長「後、お嬢さんにはこれを」
ヴィネア「?」
ヴィネアは受け取る。受け取った布を広げると、それはマントであった。
村長「お嬢さんの服は袖が無く、寒そうですから。 …もしよかったら」
ヴィネア「え…あ、ありがとう…ございます」
オルタ「どうしたの? 泣いてるの?」
オルタはヴィネアの顔を覗き込む。
ヴィネア「なっ…何でもないよ!」
さっそくヴィネアはマントを羽織る。
村長「ところで、王都へはどう向かいますか?」
オルタ「え?」
村長「今、このウェストトウィン地方の西の島にいるから、東の島に行くには“シオナギ”の港に行かなくちゃならない。
“シオナギ”には真っ直ぐ行くか、迂回して遠回りするか… どうするんです?」
オルタ「…真っ直ぐじゃない?」
村長「そうすると、危険な常夜の森を通らなくてはいけない」
ミレット「常夜の森?」
村長「…私も詳しくは知らないが… 人が一度足を踏み入ると、二度と出て来れないという噂が…」
「……」
一同は静まり返る。
ヴィネア「大丈夫じゃない? 私達は村を救ったぐらい強いのよ」
オルタ「そうだね。 少しでも早く王都に着かなきゃ」
村長「…そうか。 心配だが、私には君達を止めることは出来ない。 気を付けて。 村の外まで送ろう」
三人と村長は歩き出す。その村を歩く間、村人から感謝され応援される。
子供「お兄ちゃん達ありがとう! 頑張って!」
女性「どうか、神様を… よろしくお願いします…!」
村の出口に立つ。
村長「この道を真っ直ぐ行くと、三日程で森に着きます」
ミレット「はい …ではこれで」
村長「…村の復旧がすんだら、グリーンベルの復旧もしたいと思っています」
ミレット「……っ」
オルタ「…ありがとうございます」
三人はリーフマティを後にする。
それから、二日が過ぎた。遭遇した魔物を倒し、川で水を汲み、自然に生えた果物を取ったりした。二回、野宿し三日目の旅で、道がすっかりなくなり、森に入った。
ミレット「…ちょっと待って! 森をどう進めばいいの!? …遭難だよ!」
オルタ「…ただひたすら、真っ直ぐに…」
ミレット「その方向が分からなくなってる! うわー! どうしよう…」
三人は立ち止まる。ミレットの混乱の原因は、森の異様な暗さにもあった。
ヴィネア「待って! 誰かいる…!」
ミレット「えっ! 二度と出られない森に…!?」
三人に緊張が走る。
遠くの沼に釣り糸を垂らす、木こりの姿が見えた。
三人は木こりに近づく。
ミレット「…あのう」
木こり「! うん! 何だ? おめえら?」
ミレット「僕達、実は迷っちゃって」
木こり「! お嬢ちゃん! ……違うな」
ヴィネア「?」
ミレットの質問は無視された。
オルタ「おじさんはこの森に、住んでるの?」
木こり「そうだ」
オルタ「一人で? こんな暗いのに?」
木こり「…一人じゃねえ。 それにまだ明るい。お昼だ」
木こりは立ち上がる。
木こり「着いてくるか?」
三人は顔を見あい、仕方がないから着いていくことにした。
しばらく、歩くと小さな小屋に着いた。
小屋の周りにはウサギやコジカがいた。
ミレット「可愛いね」
オルタ「…このおじさんのことだから、食べるんじゃない?」
ミレットも嫌な予感がした。
木こり「食べるか?」
今、収穫したばかりのトマトを三つ貰う。ミレットはハーブを分け、木こりにあげた。
木こり「おお、ありがてえ」
木こりは小屋に入り、何やらゴサゴサ、荒らし回り、しばらくすると出てきた。
木こり「これは、この森の地図だ」
ミレット「えっ! ありがとうございます!」
早速、地図を見る。そこには子供の落書きのような図が書いてあった。
ミレット「…えっと…これは…?」
木こり「あん? ここがオラん家で、こっちがリーフマティだ」
木こりが葉っぱのマークを指さす。
ミレット「…シオナギは……」
木こり「なんだ、おめえら、シオナギに行きたいのか?」
オルタ「うん」
木こり「なら、こっちだ」
リーフマティの反対側を指さす。
ミレットはその間の四角いマークが気になった。
ミレット「この四角いマークは何ですか?」
木こり「フ… これはなあ」
ミレット「……」
木こり「…吸血鬼の洋館だ…!」
オルタ・ミレット・ヴィネア「…!?」
木こり「ここにはなあ、超べっぴんの吸血鬼がいるのさ」
ミレット「ま…待って! 吸血鬼? あの、人の血を吸う…?」
木こり「そうだ」
オルタ「…どうしておじさんはべっぴんって知ってるの?」
木こり「会ったことがあるからだ。 …正確に言うと、時々血を吸われてる」
ミレット「えっ!!」
木こり「夜、腕に凄い痛みを感じて、起きることがあるんだ。 その時、動けないが、凄いべっぴんさんを見るんだよ」
ミレット「どうして、そんな危ない所に住んでいるんですか!?」
木こり「いや、オラは… めろめろだからさあ。 それはもうこの世のものとは思えない、絶世の美女だあ…」
ミレット「……」
木こり「きゃ! こっ恥ずかしい!!」
ミレット(どうでもいいわ!)
ミレットは心の中でツッコんだ。
木こり「だから、洋館の前を通って、その吸血鬼を見ても、惚れるなよ!」
三人は地図を頼りに出発した。ミレットの元気は無くなっていた。
地図を見ていたのは、ミレットだった。
ミレット(この子供の落書きのような地図… 悔しいけど凄い分かりやすい!)
三角のマークが描いてあると、三角の岩があり、丸いマークの所は、丸い沼だったりする。
これなら迷いそうにない。
もうすぐ、吸血鬼の洋館と言われた場所に着く。
ミレット「その洋館にたどり着く前に、今日はもう休もう?」
オルタ「……ヴィネア」
ヴィネア「…うん。 オルタも…?」
オルタ「うん。 ……おじさんが惚れたって言う、吸血鬼… 見たいよね」
ミレット「えぇっ!!」
オルタ「行こうよ、ミレット!」
ミレット「えぇっ!!」
るんるんと、オルタとヴィネアは歩き出す。
今日は振り回されてばかりだと、ミレットは思った。
元々、薄暗く日差しの届かない常夜の森に、本当の夜が来ようとしていた。