ヴィネアの記憶 〈後編〉
三人はウェストトウィン地方の“イバラ”村を歩く。
魔物に荒らされたこの村も、すっかり修繕されていた。
ソウラ「!? お兄ちゃん!!」
双子のアスカとソウラが三人を見つけて、かけてくる。
オルタ「アスカ、ソウラ、久しぶり」
アスカ「心配したよ!! だって、魔王を倒したって聞いてからしばらくたつのに、
姿を見せないんだもん!!」
オルタ「ごめん。ごめん。 元気だった?」
アスカ・ソウラ「うん!!」
アスカとソウラからウェストトウィン地方の現状を聞いた。
オルタ「なるほど、魔物に支配されていた南部も、被害は少なく、
今は元通りなんだね。 良かった」
ヴィネア(…やっぱり… イリューの支配だったから…)
アスカ「それより、お兄ちゃん達も、魔王を倒したなんて!」
ソウラ「やっぱり、お兄ちゃんは凄いや!!」
オルタ「俺達の力だけじゃない。 たくさんの仲間がいたからね」
アスカとソウラにまた来るよと言って、別れを告げる。
三人は海の見える海岸に行く。
ヴィネア「あの時、私は魔剣“クリムゾン”を魔王の武器として預けて、
ウェストトウィン地方に来た。 そして最初にこの辺りにあった村を滅ぼし、
東の島の村を全て支配した…」
ヴィネアは海を見る。
ヴィネア「百五十年前、西の島も支配しようと機会をうかがっていた私は、
人間と吸血鬼の激しい戦闘を好機だと思い、魔物の軍勢を率いて戦争を起こした。
魔物と人間と吸血鬼、三つ巴の戦い。
人間と吸血鬼に、魔物と止めることは出来なかった。
私は次々に村を壊滅させていく」
オルタ「…それが常夜の森の吸血鬼…」
ヴィネア「そして、百三十年前、最期の村“グリーンベル”を壊滅させようとした時、
…奴は瞬間移動で現れた…
……英雄・バルト……」
ミレット「ちょっと待って…! オルタのおじいさんが百三十年前に現れたら…
いくらなんでも、年齢が… 古すぎない…?」
ヴィネア「そうよ。 バルトは私達、魔物が東の島に後退しなきゃならないほど
強かったけど、私も弱くない。
バルトを五十年、封印することに成功した」
ミレット「なっ…!」
ヴィネア「…だけどその間、私も傷を癒すのに遅れて、しばらく動けなかった。
その間にまた新しい戦士が現れて、バルトの封印を解かれてしまった」
ミレット「新しい戦士…?」
ヴィネア「…あなたのおじいさん、水の戦士・ストームよ」
ミレット「!?」
ヴィネア「バルトを封印した頃に王都の魔王も他の英雄にやられててね…
それで、大半の魔物は魔王とサウスボム地方に帰ってしまっていた…
だから八十年前の戦いは、実質バルト・ストーム対私になっていた。
戦いの中、着ていた黒いワンピースはボロボロになり、
今の“エールガーデン”辺りでこのサンストーンのバングルを失くし、
“モリオン”の大岩に魔法を封印され、
私自身も水の精霊の上位の力、氷の永久封印に閉じこめられた訳」
ミレット「あれが、水の精霊の力!? でも、だから水の精霊の紋章が…!」
オルタ「でも、なんでジジイの廃屋にいたの?」
ヴィネア「…多分、バルトが連れて来たのね。
あんなことを言ったから…」
ストーム(こっちだ! 魔物め!! “永久の氷”!!)
ヴィネアの後ろに素早く回り込んだストームは、氷の粒を手から出し、ぶつける。
ヴィネア(! …そんなの効く訳…!!)
ヴィネアの体についた氷は徐々に広がっていき、次第に体の自由を奪う。
ヴィネア (……!!)
バルト(これは…?)
ストーム(近づかないで! バルトさん!! …はぁ…はぁ…
これで終わりです……)
ストームは倒れる。
ヴィネアの顔まで氷は近づく。
バルト(…これで終わりだな。 …ヴィネア…)
ヴィネア(くっ……)
バルトはヴィネアの正面に座る。
バルト(…長かったな。 俺達の戦いは…
…でも、これでようやく本音で話せる…)
ヴィネア (……?)
バルト(……お前を、救ってやれなくて済まなかった… ヴィネア…)
ヴィネア (…!)
ヴィネアの目から不意に涙が流れた。
ヴィネア(…どうして、あなたは“グリーンベル”に現れたの…?)
バルト(…助けて欲しい… そう女の子の声が聞こえたんだ…)
ヴィネア (……)
バルト(…お前は、魔物になったことを、後悔しているのか…?)
ヴィネア(…後悔はしていない…
でも… あなたみたいのが、助けてくれたら…
…魔物にはならなかった…かもしれない……)
バルト(…人を助けるのは…大変だ… 俺も“グリーンベル”しか、
助けられなかった…
でも、もし、お前が良いのなら…
これから先、俺の大切なものに何かあった時…
お前が…助けてくれないか…?)
ヴィネア(……どうして、私が……)
バルト(人間と魔物… 両方の、強さと弱さを知っている、お前だからこそ
頼める…
……もう、自分を…責めるな……)
ヴィネア(…ふぅ… 私はあなたと戦って、随分、人間くさくなったわ…)
バルト(人間だろう? 同じ)
ヴィネア(…分かったわ… …バル…ト………)
氷はヴィネアの全身を覆い、氷の大きな物体へとなる。
ヴィネアの頭の上辺りに水の精霊の紋章が現れる。
バルト(…これで封印完了か…
…悪いな、ストーム……)
バルトは氷の物体と“グリーンベル”の森の奥に瞬間移動をする。
そして、厚い氷の奥に微かに見えるヴィネアに、また来ると言って、
瞬間移動をし、ストームの元に戻る。
バルト(おーい、ストーム。 しっかりしろー)
ストーム(…うっ… バルトさん…?
!! 奴は…!!)
バルト(…ああ、あの魔物なら、動けなくなった所を斬った)
ストーム(…さすがですね。 バルトさん…
これでやっと… ウェストトウィン地方は救われた……)
バルト(…ああ)
ヴィネア「…これで私は、バルトの森の廃屋に、七十年間、封印された訳」
オルタ「…ジジイとの約束でヴィネアは俺達を、守ってくれたの…?」
ヴィネア「…ええ。 …でも、それだけじゃないわ…」
オルタ「…?」
ヴィネア「…あなたは、誰でも助けた。 私も助けられている気がしたの…
…本当にバルトにそっくりだわ」
オルタ「なら、今こそ本当に、ヴィネアを助けたい。
…俺はどうすればいい…?」
ヴィネア「…そうだなぁ……」
バルトとストームはウェストトウィン地方の英雄となった。
バルトは“グリーンベル”の村長の娘と結婚し、幸せに暮らした。
ストームはウェストトウィン地方を巡り、村々の再建を手伝った。
バルト(…本当に、行くのか?)
ストーム(ええ。 この村にはバルトさんとその聖剣があるから大丈夫です)
バルト(この剣は無銘だ。 それに、剣なんて必要ないような、島を目指そう)
ストーム(はい!)
バルト(…もし、困ったら、いつでもこの“グリーンベル”に帰ってこい!)
ストーム(…もしかしたら、俺の孫ぐらいが再びこの村を訪れるかもしれませんね…
それでは!!)
バルト(おう! 元気で!!)
ストームが再び“グリーンベル”に来ることはなかったが、
孫のミレットは母親とこの村に帰って来た。
バルト(…オルタよく聞きなさい。 もしこの村が魔物に襲われたら、
山の中の私の廃屋を目指しなさい。
とっておきの武器があるから。 …きっとお前を助けてくれる)
オルタ(なに? すごい剣?)
バルト(…それもあるが…
……もっと、大切で強い、約束がある……)
オルタ(…ふぅーん…)




