第十八話 炎の記憶
三人は山を下り、“ユリア”の村に着く。
オルタとミレットはディハールに別れを告げる。
オルタ「ディハール。 本当にありがとう」
ミレット「ノースユースはとても良い所でした!」
ディハール「ノースユースの魅力はまだまだあるから、またいつでも、来てくれ。
お嬢さんに出会える事を、祈っているぞ」
二人は定期便に乗り、一度王都の島を目指す。
そして、その島を南に歩き、南の船着き場で船に乗る。
ミレット「今まで南に行く船は無かったけど…」
オルタ「南の再建が進んでいるんだね…」
船には木材や、レンガの材料ものせられていた。
しばらくして、サウスボム地方の新しい村“サンデラ”に着く。
まだ建設中の家々を見ながら、道を歩いていると、前から馬車をひく行商の一家が来る。
空の荷馬車に羊と座った女性が赤ん坊を抱いている。その荷馬車の後ろを歩く少年に見覚えがあった。
オルタ「!?」
ミレット「!! ゴーシュさん!?」
ゴーシュ「!? ミレット…オルタ…?」
女性「あら、ゴーシュさん。 知り合い?」
羊「メェー」
オルタとミレットは行商の一家の新しい家に招いてもらった。
ミレット「ゴーシュさん! 驚いたよ!!」
オルタ「…お前、何やってんだ?」
ゴーシュ「俺もそのセリフを言いたいな…」
「……」
ゴーシュ「……はぁ。 俺はお前と別れた後、しばらく、一人で罪を償おうとした。
……だが、このクラウドに引っ張られてな……
魔物に襲われていた、この村に連れてこられた。
…魔王がいなくなっても、魔物はいなくならないからな…
俺はその魔物共を倒した。 そして、この村で道具屋をやると言った、この家族に出会った。
そのなかで…俺は…この子が…オリビアの生まれ変わりだと分かった…」
オルタ「……神様は、本当に生まれ変わらせたのか……」
ミレット「…どうして、この子だと…?」
ゴーシュ「…オリビアのことならなんでも分かる。
そして、この村の人達に頼まれて、今はこの村の警護をしている」
オルタ「はあ…」
ゴーシュ「最初、オリビアを嫁に下さいと言ったら、
この家族達に反対されてな」
ミレット「ぶっっ!!」
オルタ「……」
ゴーシュ「まあ、まずはこの村を発展させてからだと思っている」
ミレット「……」
ゴーシュ「それで、お前達はなぜ来たんだ?」
オルタ「俺達はヴィネアを探しに…」
オルタはノースユースで聞いたことを話す。
ゴーシュ「魔王の力を開放する方法があるのか!?」
オルタ「ああ。 それをヴィネアはこの地で… 過去と向き合っているんだと思う…」
ゴーシュ「…過去と向き合うか… 簡単な事じゃない。
……俺自身もそうだ… …だが、いつか俺も罪を償えた日がきたなら…
…人間に戻れるのかも、しれない……」
ミレット「……」
オルタ「ゴーシュはどんな過去を…?」
ゴーシュ「…お前らに話す気はない。
…一応この島の地図を描く。 …早く行け……」
ゴーシュは紙に地図を描き、オルタに渡した。
オルタ「ゴーシュ。 元気でな」
ゴーシュ「…フッ」
オルタとミレットは村を出る。
それをゴーシュは陰から見送る。 その後、行商の家に戻る。
オリビア「ゴー、ゴー!」
ソファの上の赤ん坊がゴーシュを呼ぶ。
ゴーシュ「オリビア。 どうした…?」
ゴーシュは赤ん坊を抱きかかえる。
オリビア「キャッ、キャッ!」
喜ぶオリビアを見て、ゴーシュも微笑む。
ゴーシュ「俺の過去か…」
ゴーシュは魔王に支配されたこのサウスボム地方の数少ない、小さな集落で生まれた。
生まれてすぐ、この赤ん坊は精霊の力を持つと分かり、
脅威になると思った魔物はこの赤ん坊を攫った。
赤ん坊は魔物に殺される寸前、魔物のザマに救われた。
だが、ザマがゴーシュを救ったのは新しい力の持ち主を魔物にするためだった。
こうして、ゴーシュは魔物になった。
魔物として育てられたゴーシュは、サウスボム地方で生き延びていた人間を殺し続けた。
自分を魔物だと思っていた、ゴーシュは人を殺す事に、何も感じなかった。
魔物(アイツはもはや、人間じゃないな)
ザマ(ああ。 化け物だ)
そして、最後の人間の集落を襲った時、人々を守るため、ゴーシュに戦った一人女性がいた。
それが、オリビアだった。
絶望的な状況でも光を放ち続ける彼女に、ゴーシュは興味を持った。
ゴーシュ(人間がどうして、立ち向かって来る?)
オリビア(あなたこそ… どうして、人間のあなたが、私達を襲うの…!?)
ゴーシュ(!? …俺が人間…?)
オリビア(そうよ… 私達と同じ人間…)
魔物(騙されるなゴーシュ!! 早くやっつけろ!!)
オリビア(ゴーシュっていうのね…
ゴーシュ! 私はみんなを必ず守る…
だから! あなたも負けないで…! 本当の自分を取り戻して…!)
ゴーシュ(……)
魔物(ええいっ! 俺達がやっつけるぞ!!)
魔物はオリビアや人々に襲いかかる。もうダメだと思った時、
魔物は炎に包まれた。
オリビア(……助けてくれたの...? ゴーシュ…)
ゴーシュ(…気がついたら… 俺は…)
オリビア(ありがとう… ゴーシュ…)
オリビアは立ちすくむ、ゴーシュを抱きしめる。
人の温かさに初めて触れたゴーシュは、初めて涙を流した。
しばらく、ゴーシュはオリビアのいる集落で過ごした。
オリビア達と一緒に魔物とも戦った。
ゴーシュとオリビアはたくさんの話をした。
オリビア(この子はクラウド。 私の友達)
羊(メェー!)
ゴーシュ(…よろしくな… クラウド)
オリビア(私の夢はね、この島で平和にただ、静かに暮らす事…)
ゴーシュ(…こんな島より、もっと、北の島の方がいいんじゃないか…?)
オリビア(…それでも、私はこの島が好きなの。
…必ず、いつか…この島に戻ってくる…)
オリビアは残された人々と船で北の島を目指すことにした。
出発の日、オリビアはまず、子供達を船に乗せる。
辺りを見張っていたゴーシュは魔物の襲来に気づいた。
ゴーシュ(オリビア! 急げ!!)
ゴーシュは炎の届かない位置から、石や木の実を投げてくる、魔物に苦戦した。
ゴーシュ(…くっ!)
老人(オリビアさん!! 全員乗ったぞ! さあ、早く!!)
オリビア(……! みんな!! 先に行っていて!!)
子供(お姉ちゃん!!)
オリビアは人々が乗った船を力いっぱい押し出した。
そして、ゴーシュの元に走る。
オリビア(ゴーシュ!! みんなは無事に行けたわ!!)
ゴーシュ(バッ…バカ!! なんで一緒に行かなかった!?)
オリビア(あの魔物を倒さなきゃ、船は襲われるわ!!)
ゴーシュ(…くそっ!!)
ゴーシュは前に走り、魔物達を燃やす。オリビアも船の方に向かって飛ぶ、木の実などを剣ではじく。
オリビア(皆は無事に行けたみたいね…)
船は海岸から、見えなくなっていた。
だいたいの魔物を倒し、少し安心したとき、闇の矢がオリビアの心臓を貫いた。
オリビア(……ゴフッ)
倒れるオリビア。口から血を吐く。
どこからともなく、現れた羊がオリビアの顔をなめる。
ゴーシュ(!! オリビア!?)
ゴーシュはオリビアに駆け寄り、抱きかかえる。
ゴーシュ(オリビア!! しっかりしろ!! オリビア!!)
オリビアは胸元からペンダントを出し、ゴーシュに渡す。
ゴーシュ(これは…?)
オリビア(…私の…宝物…… あなたに…)
ゴーシュ(…そんなこと… 言うな…!)
ゴーシュの涙がオリビアの頬を伝る。
オリビア(……泣くな…みんなを…北に逃がせた……ガハッ……私は守れた……)
ゴーシュ(ああ、そうだ。 お前のおかげで……
……だから…お前も生きろ!! オリビア!!)
オリビア(…私じゃない…私の思いを忘れないで…ゴー…シュ……)
オリビアはゴーシュの腕の中で息絶えた。
ゴーシュ(…………)
ザマ(その娘はお前のせいで、死んだ。 お前のお陰でここまで生きたとも言える)
ゴーシュ(……ザマ、貴様…!)
ザマ(安心しろ。 この娘の魂はここにある。
……強くなれ、ゴーシュ。 そうすれば、愛しい娘は生き返る…!)
ゴーシュ「…あれから五十年か…」
あの時、オリビアから貰った、ペンダントを見る。
魔物になった人間は歳を取るのが遅い。
羊「メェー」
ゴーシュの足元に羊がいた。
ゴーシュ「クラウド! …お前も長生きだな…
……あの時、逃がせた人々は無事に北の島に着けたのだろうか…?」
クラウド「メェー」
オリビア「メェー、メェー!」
ゴーシュ「オリビア。 きっと、お前のお陰で助かったな…
今度こそ、俺達もこの島で平和暮らそうな…
……そうすれば、いつか俺も人間に戻れるかもしれない……」
ゴーシュはオリビアのほっぺにキスをした。
いつか、オリビアが大きくなったら、このペンダントを返すのだろう。




