炎の愛 〈後編〉
ディハール「くっ… ミレット殿は援護を!」
ディハールは鞘に入れたままの剣を構え、飛び出す。
彼に向けられた火はミレットが水の玉を投げ、消す。
ゴーシュに鞘で殴りかかろうとするが、ゴーシュの剣に防がれる。
そのまま、ゴーシュはバランスを崩したディハールを切ろうとする。
ミレット「ディハールさん!!」
間一髪で風を出し、ゴーシュを飛ばす。
その間に体制を立て直す。
ディハール(…殺しちゃいけない相手が、殺す気まんまん、なのはな…)
ディハールは汗を拭く。
オルタ「あの剣戟が通じないのなら、俺の力では倒す事ができない。
ヴィネア、どうすればいい?」
ヴィネア「…彼をなんとか捕まえても、力を貸すはずがないわ。
…彼の抱えた失望をなんとかしないと、
彼は救えない……」
オルタ「…分かった。 ヴィネア」
オルタはディハール・ミレット・ライメイの前に出る。
オルタ「お前はなんで、魔王の配下になった」
ゴーシュ「……」
オルタ「お前に家族はいないのか? 仲間は? …愛する人は?」
ゴーシュ「…!」
オルタ「俺は家族を村ごと失った。 だから、魔王に復讐したい!」
ゴーシュ「…うるせぇ…! お前みたいな奴に何ができる。
だから俺は、お前達と…魔王を倒し、俺が……
新しい魔王になる!!」
一同「!!?」
その時、ゴーシュの前に羊が歩み寄る。
クラウド「…メェー……」
ゴーシュ「! クラウド… ぐっ…! 邪魔だ! どけっ!!」
ゴーシュは羊に向かって炎を出す。
オルタは羊を抱えて滑り込む。
オルタ「くっ…… 良かった」
ゴーシュはもう一度、羊とオルタに炎を出そうとする。
チカ「ダメッ!!」
チカが羊とオルタを背に庇う。
ライメイ「! チカ!!」
ゴーシュ「どけっ!!」
チカ「ダメだよ… この子は… あなたの大切な人の為にここに来たんだよ!?」
ゴーシュ「!?」
ライメイ「…チカ… 見えたのか…?」
ディハール「?」
ヴィネアがチカのもとへ近づく。
ゴーシュは火の攻撃をしようとするが、
火はヴィネアの抜いた剣に吸収される。
ヴィネア「魔剣“クリムゾン”。 この剣は炎を吸収し、放出する」
魔剣をゴーシュに向けると、思いっきり炎が放たれる。
オルタ「ちょ… ヴィネア!」
ヴィネア「大丈夫。 彼はこのくらいじゃ、死なないわ。
…ミレット! この二人を連れて行くから、死なない程度に戦ってて!」
ミレット「ヴィネア!?」
ヴィネアは羊を抱えたオルタとチカを連れて森の奥に行く。
ライメイ「ちょっ… なに、あの女!?」
ミレット「…分からない……」
ディハール「…来るぞ」
ゴーシュはヴィネアの炎から脱出する。
森を行く三人は安全な所に辿り着く。
チカ「…なんですか」
ヴィネア「あなたは死者の魂が見えるのね」
チカ「…この子はある魂の願いを叶えようとしている」
ヴィネア「その魂の場所は分かる?」
チカ「! やってみます」
チカは羊をなでる。
オルタ「どういうこと?」
ヴィネア「この世を漂う魂は、本来、自由なものなの。
その魂の代わりにこの羊が来たってことは、魂がここに来れない理由がある」
オルタ「……」
ヴィネア「その魂を救えれば、あの火の戦士のことが少し分かる」
チカ「…分かりました。 魂の場所は南南西。
…女性の名前はオリビア……」
チカは羊のつけていたペンダントを見る。
裏に名前が彫ってあった。
チカ「…彼女のね」
羊「メェー…」
ヴィネア「その場所を、オルタに伝えて」
チカはオルタの手を掴む。 オルタの頭の中に位置や距離が伝わる。
オルタ「…!?」
ヴィネア「…行くわよ。 オルタ」
ヴィネアとチカはオルタの手を掴む。
オルタ「え? どうやって…」
ヴィネア「目を閉じて。 その場所を想像して」
オルタ「? ……」
オルタが次に目を開けると、さっきまでとは違う森にいた。
オルタ「!?」
ヴィネア「これが、瞬間移動…」
目の前に黒い沼があった。
オルタ「何だこれ…」
チカ「近づかないで!
…あなたが、オリビアさん?」
オルタ「?」
ヴィネア「この子にしか、見えないわ…」
チカは沼の方を見つめる。
森の奥から、何者かが出て来る。
魔物「なんじゃ… 騒がしい…」
黒いマントを羽織った、魔物が現れる。
魔物「お前さんは!? ヴィネア……?」
ヴィネア「久しぶりね。 ザマ爺さん」
魔物「まだ生きておったとは… 儂を殺しに来たのか…?」
オルタ「そうだ」
魔物「待て、儂を殺せばその魂は消えてしまい、火の精霊使いに殺されるぞ…?
…そうだ… ヴィネア… やっと完成する術で、お前の姉を生き返らせてやろう…?」
ヴィネア「…!!」
ヴィネアの怒りが膨れ上がる。
チカ「…オリビアさんはもう限界です。 解放してあげて下さい」
その言葉を聞いてオルタは魔物を斬る。
魔物が倒れると、オリビアの魂はゆっくりと消えた。
チカ「…オリビアさんは私に言葉を託されました。
行きましょう…」
オルタ「ヴィネア…」
ヴィネア「…大丈夫」
三人と羊はもう一度手を握り、瞬間移動する。
ライメイ「…あつっ」
ミレット「ライメイさん!」
ディハール(…ミレットの水で火を消しきれなくなっている… このままでは…
…やはり…殺すしか……)
その瞬間、オルタ達が現れる。
ミレット「え!?」
チカが前に出る。
チカ「ゴーシュさん…! あなたが魔王になることをオリビアさんは望んでいない!
オリビアさんの願いは、ただ静かに暮らす事!
…あなたと!!」
ゴーシュ「……」
チカ「…でも、もうそれは叶わないから… …自分に囚われないで、
幸せになってほしいと、オリビアさんが…」
ゴーシュ「…そんなことはない。 …俺が魔王になれば叶えられる…」
ヴィネア「人が生き返ることは出来ないわ。 それが、魔王でも。
あなたが信じたのは、ただのまやかしよ」
ゴーシュ「…まさか… ザマを殺したのか?」
ヴィネア「ええ」
ゴーシュ「貴様っ…!」
ゴーシュの炎が大きくなる。
ヴィネアに向けた炎は全て魔剣に吸収される。
ヴィネア「ザマの術は魂を醜く汚す。
本人もあなたも苦しむわ!
…私達は、死んだ人の思いを引き継がなきゃいけない!
それを忘れてしまったら、本当に彼女を殺す事になるわよ!
……あなたは…まだ……間に合う……!」
ゴーシュ「…お前になにが分かる…!」
ヴィネア「……私も同じだったから… 私も憎しみで魔王の力を求めた。
……私は先代の魔王直属の精鋭の一人」
ミレット・ライメイ「!?」
ゴーシュ「……」
ヴィネア「大切な人を殺した人間を全員殺しても…
魔王のために戦い続けても…
結局、大切な人は何も喜んではくれないことが、ようやく分かった」
ゴーシュ「…っ」
ヴィネア「あなたの愛した人が、何を願っていたか、
……もう一度、思い出して……」
ゴーシュ「……」
オリビア(…私がみんなを守るから…あなたも負けないで…!
……助けてくれて、ありがとう…ゴーシュ…
…泣くな…みんなを北に逃がせた……ガハッ……私は守れた)
ゴーシュ(ああ、そうだ。 お前のおかげで…
…だから…お前も生きろ!! オリビア!!)
オリビア(…私じゃない…私の思いを忘れないで…ゴー…シュ……)
ゴーシュ「オリビアの思いは…人々を守ること……」
オルタ「みんなは精霊の戦士だ。 だから、お前の力も必要なんだ」
ゴーシュ「……精霊の戦士を集めて、どうするつもりだ?」
オルタ「“神を復活させる”。 そして、魔王を倒す」
ゴーシュ「…!」
オルタ「多くの人が救われる。 …死んでしまった人も」
ゴーシュ「……」
羊「メェー…」
ゴーシュ「クラウド… 今まで済まなかった……」
ゴーシュは羊をなでる。
ペンダントに気が付く。
ゴーシュ「…これは… お前が持っていてくれたのか…」
羊「メェー」
羊はペンダントをゴーシュに渡そうとする。
ゴーシュ「…ありがとう。 ……もう一度俺は……」
ゴーシュは六人の方を向く。
ゴーシュ「…俺は、魔王の力で俺の女を生き返らせたかった。
…だがそれが不可能だというのなら…
この国全部を守るよう、願ってやるよ」
オルタ「……」
ライメイ「…フ―」
ディハール「なんとか、任務成功ですな…」
ミレット「ん? ここまで来た小舟は燃えて、どうやって帰るの…?」
ライメイ「…泳ぐか」
チカ「…姐さん……」
ヴィネア「……みんな、オルタに捕まって」
ライメイ「それより、お前! 私達を騙していたのか!?」
ヴィネア「……あとで牢にでもいれればいいわ。
まずは、王都に帰りたいでしょ?」
ライメイ「…くっ」
ミレット「……オルタ……」
オルタ「……」
六人はオルタの手を掴む。
オルタ(…もう一度…王都をイメージ…)
オルタが目を閉じると、景色が変わる。
皆は気が付くと王都の城門前にいた。
ライメイ「…うそ…!」
ディハール「これは、これは…」
ミレット「オルタ!」
オルタ「これが、俺の特技…」
七人はシエル城に向かう。