第十三話 炎の愛 〈前編〉
修繕中のシエル城にオルタ・ミレット・バゼル・ライメイ・ディハールは
王都が解放された喜びの宴に呼ばれた。
ヴィネアは元は同志であった、スナップの墓をつくりに一人、秘密で旅立った。
今、ヴィネアの正体を魔物だと知っているのはオルタとディハールだけだ。
そのことを、この二人は誰にも言わなかった。
だが、ミレットは薄々感づいていた。
王の元へ呼ばれる。
大臣とアイラス大神官のいる玉座の間に並ぶ五人。
王と王妃が現れる。
王「戦士達よ。 この度の王都を救った事に礼を言う。
…しかし、未だに魔王の危機は強まりつつある」
王妃「アイラス。 この者達が“神を復活させる”戦士ではないのか?」
アイラス「いえ。 まだ火の戦士がいません。
ディハール殿の情報によると、その者は南にいるそうです」
王「しかし、南は魔王の支配により…」
王妃「分かりました。 精霊の戦士達よ。 そなたらの力を見越して、頼みをする。
南に行き、その戦士も連れてまいれ。
そなたらにしか出来ぬ任務じゃ」
アイラス「それでは、また王都の守りが」
王妃「それならば、バゼル。 お前は王都に残れ。
王の兵として、嫌とは言わせん」
バゼル「…ハッ!」
セラフィリア大神殿に五人は戻る。
バゼル「皆、俺だけ行けなくて、済まない」
ミレット「いえ! 確かに王都の守りは大事ですよ」
ライメイ「そうだよ!!」
鐘の音が聞こえる。
バゼル「すまない。 俺はもう行かなくては…」
ライメイ「いってらっしゃい!」
バゼル「皆も気を付けて。 …必ず全員無事で帰って来てくれ」
バゼルは神殿を出る。
ディハール「…さて、作戦を と」
四人は地図を見る。
ディハール「サウスボム地方のこの辺りに、魔王城があると言われている」
地図を指さす。
ディハール「さすがに魔王城に行く気はないが、魔物の話から察するに
やはり魔王の精鋭に入るような、奴なんだとは思う」
ミレット「この広い島からどうやって…」
ライメイ「逆に、騒ぎを起こしておびき出すとか?」
ディハール「…それは危ないですな…
向こうから来てくれると楽だが…」
結局、王都から途中にある無人島を通りながら、サウスボム地方の島に上陸することになった。
上陸した後は、穏便に魔物から情報を聞き出す作戦だ。
チカ「あの! 姐さん! 私も行きます!!」
南に向かう準備中、チカはライメイに話しかける。
ライメイ「チカ! 魔王の占領地なんだぞ! 誰も行きたがらない所にわざわざ…」
チカ「だからこそ、船を操れる人間が多い方がいいと思います!」
確かに全ての船乗りは南に行くのを拒んだので、四人は小舟で行くことになる。
その分時間もかかるだろう。
ライメイ「…本当は、行かせたくないが…
いいチカ。 アタシにもしものことがあっても、アンタは逃げるんだよ。
海を一人で泳いででも、アンタは生きなきゃならない。
分かった?」
チカ「…はい」
ライメイ「よし。
みんな、チカも行くから、五人だ」
オルタ「…いや。 ヴィネアも行くから、六人だよ」
オルタは荷物をまとめ、立ち上がる。
オルタ「俺はヴィネアを探してくるから。 先に船の所で待ってて」
オルタは神殿を一人出る。
ディハール「まあ、確かにあのお嬢さんがいれば、心強いな」
ミレット「……」
オルタは王都の城壁から出てしばらく歩く。
そして、一本の高い木の下にリュックを置き、登り始める。
オルタ「…よっと。 ふぅー。 見つけた」
ヴィネアはその木の太い枝に座っていた。
ヴィネア「……」
オルタは隣に座る。
オルタ「ヴィネアも来てよ。 精霊の戦士ばかりで居心地が悪いんだ」
ヴィネア「…オルタは私がまた魔王の配下になるとか、思わないの?」
オルタ「思わない。 ヴィネアは人を襲ったことに、後悔しているんでしょ」
ヴィネア「…分からない。 ただ、あなたみたいな人間ばかりなら、
…私は……」
オルタ「……」
ヴィネア「今、火の精霊の力を持つ少年は、何かに失望している。
だから、魔王から力を得て、復讐しようとしている。
…かつての私と同じ。
そんな私が彼を説得できるかどうか…」
オルタ「…それは、ヴィネアにしか出来ない」
ヴィネア「え」
オルタ「ヴィネアの言葉だからこそ、伝わるんだと思う」
ヴィネア「……!」
オルタ「行こう。 みんな、待ってる」
オルタは木にしがみつき慎重に降り始める。
ヴィネアは一回息を吐き、伸びをする。
ヴィネア「……よし!」
クワガタみたいに降りる、オルタを見て少し笑うと、枝から飛び降りる。
オルタ「!?」
地面に綺麗に着地するヴィネア。
まだ木の途中にいるオルタに声をかける。
ヴィネア「オルタ! 置いていくよ!」
オルタ「ヴィネア!」
オルタは急いで着地出来る場所まで降りて、リュックを背負う。
二人は、南の船着き場に走る。
ミレット「あっ! オルタ! ヴィネア!」
四人は既に船の準備をしていた。
ライメイ「ほら。 行くよ」
六人は小舟に乗る。 ライメイが船を操り、ディハールが風を起こした。
まずは、南の一番近い、それなりの大きさの無人島を目指す。
サウスボム地方・魔王城の近くの占いの館。
魔物と人間の少年が話していた。
魔物「…マネは死に、マルギッタは行方不明…
お主が魔王様からの力を独占できるというわけじゃ…」
???「本当にそれで、魔王を倒せるのか?」
魔物「そうだ… それで、お前は新しい魔王になり…
愛しい娘が生き返る……」
???「……最後の任務はなんだ?」
魔物「…精霊の力を持つ者共がここを目指している…
そいつらを、あの無人島で出迎え、殺せ…」
???「分かった。
…今まで黙っていたが、お前自身の望みはなんなんだ?」
魔物「儂は領土も部下も力もいらん……
人間の怒り…憎しみ…苦しみ… をつくれれば…
それでよい……」
???「……俺は、お前の悪趣味を手伝っていたのか」
少年は魔物を睨みつけ、館を出る。
森の中の黒い沼まで歩く。
???「…それでもいい。 俺は」
手のひらから、小さな火を出す。
うっすらと移り出される、沼に立つ半透明の女性。
???「必ずお前を生き返らせる」
女性(......)
???「行ってくる。 …オリビア」
一瞬、少年の体全体に炎が点き、炎と共に少年は消える。
森の奥からペンダントを首につけた羊が現れる。
羊「メェー…」
女性(……クラウド…お願い…ゴーシュを…止めて……!)
羊の毛が雲となり、羊は空を飛んだ。
少し北の無人島を目指す。
ディハール「…なんだ? どうなっている…」
オルタ・ヴィネア・ミレット・ディハール・ライメイ・チカの六人は、
王都から南の一番近い、無人島が肉眼で見える位置まで小舟で来ていた。
その目的の島全体は炎で燃えていた。
ライメイ「山火事…?
! あれは!!」
大きな火の玉が小舟に向かって来る。
ディハール「全員、海に潜れ!!」
六人は海に飛び込む。
火の玉が小舟に当たり、小舟は燃える。
オルタ「ガッハ! ゴッホ!」
ミレット「オルタ!」
ミレットがオルタの周りの水を固定する。
オルタ「……俺、泳げないんだった……」
ライメイ「そんなんでよく来たね!」
ライメイとチカは島まで泳ぐ。
ディハール「ライメイ殿! お待ちを! 島に上がるのは危険じゃ…」
ライメイ「この火は間違いなく、火の戦士!
海を漂ったままじゃ、狙い撃ちよ!?」
六人は島まで泳ぐ。
途中でディハールは攻撃がこないことを不思議に思った。
砂浜に辿り着く、ライメイとチカ。
二人はあたりを見る。
燃える無人島の森の中から、銀髪の少年が歩き出る。
歳はオルタと同じくらい。
ライメイ「…あなたが、火の精霊の力を持つ者ね」
ゴーシュ「……」
ライメイは手を差し出す。
ライメイ「あなたの力が必要よ。 一緒に…!」
一瞬で炎がライメイの目の前に広がる。
炎がライメイとチカを包み込もうとしたとき、後ろから強風が吹き、
炎がはじけ飛ぶ。
ディハール「ライメイ殿! ご無事か!?」
ライメイ「やはり、無理よ。 奴は正真正銘、魔王の手先になっている」
ゴーシュ「…一人」
オルタ・ヴィネア・ミレットも陸に上がる。
ミレット「まず、僕の力で、森の火を消します」
ミレットは天に手を掲げ、力を送る。
徐々に雲が広がり、雨が降り始める。
ゴーシュ「…二人」
ディハール「…アイツを殺すことはできない」
ライメイ「私の雷を抑えて放って、気を失わせてやる…!」
ライメイは手から電気を放つ。
ゴーシュはとっさに腰に差していた剣を鞘ごと抜き、鞘を目の前に投げる。
電気は鞘に当たる。
ライメイ「くっ…!」
ゴーシュ「…三人。
…土の精霊の力を持つ奴はいないのか?」
ミレット「……」
ゴーシュ「なら三人。 …殺す!」
降り続く雨など関係なく、ゴーシュの火は燃える。