第九話 呪いの解けるとき
オルタ・ミレット・ヴィネアの三人が“イバラ”の宿暮らしを始めて一週間が過ぎた。
戦える男達が呪いにかかったこの村の、魔物に荒らされた場所の修繕はなかなか大変だっだが、オルタ・ミレットの協力もあり、元に直りつつあった。
生き残った、神に仕えるシスターの力では、呪いを解くことが出来なかった。
時々、数匹で襲って来る魔物はヴィネアと双子のアスカとソウラが倒した。
この二人は村で唯一魔法を使えるので、元々、村の守護者でもあった。
そんな二人を守って、母親は呪いにかかったらしい。
ヴィネア「二人のお母様も、魔法を使えたの?」
アスカ「ううん。 私達だけ。 …どこに行ったのか分からない、父親の影響だと思う」
ヴィネア「そう… 今は二人だけで辛いけど、“神の使者”が来てくれれば、
きっと、お母様の呪いも解けるわ」
ソウラ「…ありがとう」
“イバラ”の村でそこそこ平和に暮らしていたある日、ついにグリーンベルにも来た“神の使者”が現れた。
早速、アスカとソウラは呪われた、村の男を診て貰った。
神の使者「これは…! カラナギの呪いと一緒ですね……」
ヴィネア「あなた、カラナギにいたの?」
神の使者「ええ。 そこでも男達が呪いにかかっていて… 隣の村から神父が来ていましたが、その方の力では効かなかったようで…」
アスカ「あなたの力は効くの?」
神の使者「はい」
神の使者は呪文を唱える。そうして、頭を触る。
神の使者「ハッ!」
呪いにかかっていた男はハッと目を覚ます。
男「…痛みが…消えていく...!」
双子の姉弟は喜ぶ。
男は立ち上がる。足取りはおぼつかないが、意識はハッキリしていた。
ソウラ「やった…!」
アスカ「早く、みんなを!」
二人に引っ張られ、神の使者は呪いを解き、回る。
村の全ての呪いを解き、最後に双子の家に来た。
ソウラ「お願いします」
神の使者「分かりました…… …… ハッ!」
双子の母親も目を覚ます。
母親「…これは… アスカ…! ソウラ…!」
姉弟は泣き、母親に抱きつく。
ヴィネア「良かった」
神の使者「…これで、私の役目は済んだのでしょうか?」
ヴィネア「まだよ。 ついて来て」
ヴィネアと神の使者はそっと、双子の家を出て、オルタとミレットの作業所に行く。
オルタ「なんかさあ。 俺の目的が宙ぶらりんになってる気がする」
ミレット「え?」
オルタ「俺は神を復活させて、魔王を倒してもらうために、ここまでやって来た。
それが… こんな王都を目の前にして、打つ手が無くなるとは」
ミレット「…王都が陥落… 確かに絶望的だ… でも、“神の使者”さんに相談できれば何か手が…」
オルタ「そうだな。 そう願う」
オルタは立ち上がり、前を見る。その目線の先にヴィネアと神の使者がいた。
オルタはニヤリとする。
オルタ「希望はあるか…?」
ミレット「“神の使者”さん!! お久しぶりです!」
神の使者「ミレットさん、あなたがハトを飛ばしてくれたのですね」
ミレット「はい」
神の使者「ああ、会えて良かった。 無事で何よりです」
ヴィネアはカラナギとイバラの呪いは解けたことを二人に言う。
ミレット「ああ。 良かった」
オルタ「じゃあ、アスカとソウラのお母さんも…」
ヴィネア「うん。 解けたわ」
オルタ「良かった」
神の使者「私もこの村に来て、始めて王都が陥落してしまったことを聞きました…」
ミレット「なにか、手はないんでしょうか…?」
神の使者「…私達だけではどうすることも…
今夜、他の“神の使者”と連絡を取って、状況を聞いてみます」
ミレット「はい…」
ミレットは神の使者を宿に案内する。
残される、オルタとヴィネア。
オルタ「神の使者さんは、伝書鳩を使わずに、連絡を取ることが出来るんだね」
ヴィネア「多分、神の修行での力だと思うわ」
オルタ「俺はこの冒険で沢山の力を見てきた。
ミレットの力だったり、吸血鬼の力だったり…
他に人間の力、俺自身の力。 そして、魔物の力…」
オルタはヴィネアを見る。
オルタ「俺の村を滅ぼした、魔物のボスはヴィネアと同じ炎を使った。
エールガーデンの強かった魔物は人間の姿をしていた…」
ヴィネア「……」
オルタ「……ヴィネア……お前は魔物なのか……?」
ヴィネア「……そうだよ」
オルタ「……」
ヴィネア「私は八十年前まで、ウェストトウィン地方を蹂躙していた」
ヴィネアは自分でも気づかずに泣いていた。
ヴィネア「今まで出会った老人が、私を見ても分からなかったのは、ウェストトウィンの住人じゃなかったから。
ウェストトウィンの人間は全員殺したの。 私が…!」
オルタ「……!」
ヴィネア「オルタ… 私を倒して……」
オルタ「……今のヴィネアは倒せない。 だって、ヴィネアが今まで戦ったのは… 俺を守ったのは…!」
ヴィネア「ただの約束だよ… 大切な人との……」
オルタはヴィネアの涙に触れる。
オルタ「なら… その約束で俺をこれからも守って。 俺もヴィネアを守るから……」
ヴィネア「……」
ミレット「おかえり! 遅かったね!」
外はすっかり日が暮れていた。
ミレットは二人を出迎える。長い時間を過ごしたせいで、汚くなってきた、宿の部屋だ。
オルタ「…うん」
ミレット「? どうかしたの?」
オルタ「なんでも」
ヴィネア「……」
ミレット「それより、今、隣の部屋で、神の使者さんが連絡中なんだ」
オルタ「いよいよ…」
オルタ・ミレット「!」
部屋の扉を外から叩く音がする。
神の使者「ミレットさん! 少しいいですか?」
ミレット「ハイ!」
扉を開ける。
神の使者「他の“神の使者”に連絡を取った所、他に二人の精霊の力の持ち主が見つかったそうなんです!」
ミレット「それじゃ…」
オルタ「あと、二人…!」
神の使者「はい。 そこで… ! 今、連絡が入りました!
…これは、アイラス大神官様!?」
オルタ「誰?」
神の使者「…王都のセラフィリア大神殿の大神官様です。
今回、我々を送り出し、“神を復活させる”方法を持つ方です……」
オルタ・ミレット「!?」
神の使者(…アイラス大神官様…! ご無事ですか?)
アイラス(セラフィリア大神殿は土の精霊の力を持つ戦士によって守られています。
…しかし、それも時間の問題… 何より王様と王妃様が心配です)
神の使者「では、見つかった精霊の力は四人…!!」
アイラス(そうです。 今こそ、四人の力を合わせ、王都を奪還する時です…!)
神の使者「王都を奪還…!」
オルタ・ミレット「!?」
アイラス(三人の神の使者に伝えます。
王都の土、東の雷、北の風、西の水…それぞれの精霊の力を今、王都に集結させます…!)
神の使者「三方向からの同時攻撃…!」
アイラス(精霊の戦士たちよ、今こそ、それぞれの精霊の力をもって、戦って下さい…!)
通信が切れる。
ミレット「…僕達が、王都を奪還…」
オルタ「やってやる……」
ヴィネアは一人、部屋の窓から星を見る。
ヴィネア(…リリス。 おちょくって悪かったわね。 …私も結局同じだわ…
……私がどんなことになっても、必ずバルトの守りたかったものを守る…!
私がこれ以上…失わせないわ……!)
三方向の戦士たちが動き出そうとしていた。