未来都市V
ここは世界で最も優れた未来都市。
この街を守る警備隊員であるユーミュの物語。
「お前は自分の命と引き換えにこの街を救う覚悟があるか?」
壁にもたれかかりながら座っている男が話しかけてくる。
俺はトランクからスナイパー銃を取り出し、目標に向ける。
「いいや、俺は生き残る為に撃つつもりです。」
俺は引金を引く。
少し前までは地方都市と言われていたこの街は、
空を走る電車が試験的に導入されて以来、急速的に成長を遂げた。
この街の名はヴィシャック。現在最も近代的な街だ。
そして俺の名はユーミュ。
ヴィシャック警備省の19部2番隊に所属している。
と言ってもこの街は基本的に安全なので、我々は巡回ぐらいしかすることがない。
巡回ルートは空中庭園と呼ばれる高層ビルを繋ぎ合わせた街だ。
とは言ってもこの街全体に張り巡らされているので一部だけだ。
その空中庭園の噴水広場で揉め事が起きていた。
何やら少年が2人の若者に絡まれている。
周りの取り巻きは何もしていない。
こんな昼間の広場で何やってんだ・・・。
ユーミュ「君ら何やってんの?ダメだよそんなことしちゃ。」
全員がこちらを向く。
若者A「あぁ?警備隊様がなんですかねえ!?」
ユーミュ「その子困ってるじゃないか。」
するともう1人の若者がこちらへ向かってきた。
若者B「うっせぇ!めんどくせぇんだよ!」
どこからか取り出したナイフを振り上げてくる。
話し合いじゃ無理か・・・。
振り上げられたナイフが寸前まで来る。
周りの取り巻きが目を覆う。
しかし、響いた音は金属が弾かれる音だった。
若者B「なっ・・・。」
左腕のそれは、ナイフを弾いていた。
ユーミュ「俺じゃなかったら君ら銃でドカンだよ?これで済んだと思えば安いもんだ。」
若者の腹を殴る。右腕で。
若者A「ひっ・・・。」
若者は倒れた相棒を背負いながら去っていった。
ユーミュ「大丈夫だったか?」
少年の手をとって起こす。
少年「えっと、ありがとうございます。それ、なんですか?」
ナイフで切れなかった左腕のこれか。
ユーミュ「これは、最新型のパイルバンカーだ。これだけでもかなりの威力だぞ?」
少年「こんなことになってるんですね・・・。」
ユーミュ「じゃあ、今度はこっちから質問だ。君の事を聞かせてくれ。」
見た目は随分変わっている。異国の人間か?
少年「いえ、僕のことはもう大丈夫です。」
ユーミュ「そういう訳にはいかないんだ。こっちも仕事なんでね。」
襟の隊員章を見せる。
しかし、警備隊のことを知らないようだ。
ユーミュ「じゃあ、名前はいいからせめて住民ナンバーだけでも教えてくれ。外から来たなら入ったときに渡されてるはずだぜ。」
少年「いや、僕ちょっとわかんないです・・・。」
ユーミュ「そんなはずは・・・おわっ!」
突然揺れる。空中なので揺れは激しい。
おいおい、地震は起こらないようにできてるんじゃなかったのかよ。
ユーミュ「大丈夫か・・・てっ・・・。」
少年が居ない。どっかいっちまったか。
取りあえず広場にいる人間を安全な場所に逃がさなければ。
俺は応援を呼ぼうとした。しかし、連絡機が反応しない。
おいおい、警備隊回線が死んでるのか。
その時、爆音が鳴り響く。
空を走っていた電車が高層ビルのひとつに突っ込んでいた。
車道もめちゃくちゃになっている。
あちこちで炎が上がり、煙が渦巻いていた。
どうやら街中の電力が落ちているようだ。
そのことにより大規模な混乱が起きている。
もう俺の声も届かない。
他の警備隊員は何をしているんだ?
街を守るはずの航空機が一切飛んでいない。
俺は人々への避難誘導を一旦諦め、広場を離れる。
そこで響いてきたのは銃撃戦の音だった。
今まで平和だったこの街が一瞬にして戦場になった。
どうやら警備隊と敵対組織が戦闘しているようだ。
応援に行きたいが、いささか距離がありすぎる。
しかし、敵対組織がいるということはここも安全ではない。
背負っていた荷物を降ろし、簡易的だったパイルバンカーに付属品を付け足す。
これは特注品で、先が針のようではなく、円柱の形になっている。
多少重たいが、これをつけるだけで戦車であろうが鉄の扉であろうが吹っ飛ばすことができる。
ライトマシンガンを左肩に掛け、いつでも右手で扱えるようにする。
荷物は最低限のものを除いて置いていく。
爆音とともに、また揺れる。どうやらもう空中庭園は持ちそうに無い。
この街を覆っている空中庭園が落ちると地上の方もひとたまりもないだろう。
何か手段は無いのだろうか。
俺は地上と空中庭園をつなぐ東地区に行くことにした。
ついたのはいいが、そこは悲惨なことになっていた。
事故を起こした車を銃撃戦の盾として使っていた跡がある。
その中に警備隊が仰向けに倒れているのを発見した。
ユーミュ「おい!あんた!大丈夫か!」
起こしてみるも既に息はない。
開いていた目を閉じてその場に寝かせた。
その時、横転していたトラックで何かが動く音がした。
ユーミュ「誰だ!」
右手でライトマシンガンを握る。
その物陰から声を掛けてきたのは警備隊員だった。
「俺は7部1番隊所属の者だ。このパスを預けたい。俺はこのとおりもう動けない。」
どうやらトラックに足がはさまれているようだ。
俺はパスを受け取る。
ユーミュ「このパスは?」
「平常時に管理している、大型電力管理施設のパスだ。」
どうやら、この止まった電力を動かすことができるらしい。
ユーミュ「後は・・・任せてくれ。」
「分かった。英雄に幸運あれ。」
そう言うと、彼は気絶してしまった。
俺は託された任務を成功させるために、大型電力管理施設のある、北地区へ向かった。
施設に着いた頃には空中庭園がかなり傾いていた。
今からやっても手遅れなのかもしれないが、できることだけはやってやる。
パスを使い、中へ入る。
施設の中は異様なほどに静かであった。
なるべく足音を立てないように歩き、ライトマシンガンを構えながら歩く。
廊下の奥で話し声が聞こえる。
詳しい内容までは聞こえないが、物騒な話だということは分かる。
相手は見えるだけで3人。
しかし、他にどれだけいるか分からない。
よし、1人になった。
俺は獲物を狙う肉食獣のように、物陰からパイルバンカーを打つ。
人間に打つので威力は大分抑えてある。
それでも獲物を吹っ飛ばす事ぐらいは楽勝だった。
静かにやるつもりだったが思ったより大きな音が出てしまったようだ。
敵の応援が来てしまった。
銃撃戦の始まりか。
しかし、俺にはパイルバンカーを盾にする術がある。
少しずつ前進してライトマシンガンをばら撒いていく。
それだけで、片はついた。
敵の練度が低い気がする。寄せ集めの部隊なのか?
とはいえ、ライトマシンガンの弾薬が無くなってしまった。
荷物になると戦闘に支障が出るだろうと思い、置いていく。
さて、そんなことを考えていると、管理室に着いた。
待ち伏せに気を配る・・・のは思ったよりも大変なのでパイルバンカーで扉を吹っ飛ばす。
管理室の中には誰もいない。
敵は背後から迫っていた。
俺は間一髪の所で避ける。
すぐさま左腕で殴る。
しかし当たらない。
互いに距離を取り、様子を伺う。
ユーミュ「あんたが主犯か?」
「貴様に答える義理は無い!!」
持っていたナイフを投げてくる。
俺は癖で左腕で弾いてしまう。
相手はそれを見て、右方面からの斬り込みを増やした。
相手が斬り込んで、俺が弾く。
完全に不利な状態だ。
しかし、いつかは綻びが生まれるものだ。
俺はあえて、攻撃を弾かず、左方向に避けた。
右方向に斬り込んでいた相手はバランスを崩す。
そこに俺のパイルバンカーが決まる。
俺は管理室の装置を動かす。
非常灯しか点いていなかった施設に電気が点く。
思わず目を閉じる。
目を開いて確認した画面の映像には、街中の電気が復旧しているのが見られた。
連絡機で通信を図ってみる。
ノイズだらけだが、多少聞き取れるものがあった。
その声はあの時の謎の少年だった。
「・・・・の・・をはか・・・・れば・・・せん・・・」
何やら必死に繰り返している。
「・・・像の爆弾を・・・・なけれ・・・ません・・・」
像?爆弾?
次の声ははっきりと聞こえた。
「記念聖像の爆弾を破壊しなければ助かりません!」
記念聖像に爆弾?正直今はどうでもいいと思うが。
ユーミュ「こちらユーミュ、君はあの時の少年か!?」
すると、声の主は驚いた声で返答してくる。
「あなたがユーミュさんだったんですね、こちらは警備隊基地です。シャイラさんからの連絡です。」
シャイラというのは俺の直属の上司だ。
ユーミュ「その情報は部長からのものなんだな?」
「はい、記念聖像には爆弾が仕掛けられています。どうやら特殊な爆弾なようで、外側から爆発させないと恐らく中心街が吹き飛びます。」
記念聖像は空中庭園にある15mを越える像だ。
ユーミュ「了解したと伝えてくれ。」
「分かりました。」
通信を切る。
さて、記念聖像は空中庭園の中央部にあるので、ここからだと、少し時間がかかりそうだ。
できるだけ急ごう。
記念聖像の周りには遠目で見ても誰もいない。
その時、通信機が震えた。
ユーミュ「はい、ユーミュです。」
シャイラ「私だ、記念聖像通りにある保険ビルの6階までばれないように来てくれ。」
ユーミュ「了解しました。」
路地裏を静かに通り、ビルの2階から入る。
6階の記念聖像の見える部屋に行く。
そこには壁にもたれかかっているシャイラの姿があった。
シャイラ「よう、ユーミュ。生きているな。」
シャイラは血だらけであった。
シャイラ「このトランクを運ぶ時にしくじっちまったぜ。」
ユーミュ「今は安静にしていてください。」
止血はしてあるが、重症には変わらない。
ユーミュ「このトランクは?」
シャイラ「記念聖像の爆弾を破壊するためのスナイパー銃だ。」
これで爆弾を破壊するのか。
ユーミュ「分かりました。任せてください。」
トランクからスナイパー銃を取り出そうとする。
その時、シャイラが話してきた。
シャイラ「今すぐ逃げりゃ爆風に巻き込まれずに済む、だが、ここであの爆弾を撃っちまうと、爆風の巻き添えを食らうかもしれない。お前は自分の命と引き換えにこの街を救う覚悟があるか?」
俺はトランクからスナイパー銃を取り出し、記念聖像に付いた爆弾に向ける。
「いいや、俺は生き残る為に撃つつもりです。」
引金を引く。
長い銃身から発射された銃弾は動かない的である爆弾に当たる。
瞬間、光が街を覆い隠した気がした。
朝っぱらから物騒なニュースが流れている。
恐らく今日一日中このニュースで持ちきりだろう。
それでも、少しは耳を傾けることにした。
「昨日午前11時、ヴィシャックで大規模テロ事件が起きました。
死者・行方不明者が10万人を越える悲惨な・・・・・・・・・」
突然テレビを消されてしまう。
「駄目ですよ、怪我人は寝てないと。」
「少しくらいいいじゃないか。減るもんじゃなしに。」
「それで傷口でも開かれたらかなわないので」
「あいわかりましたよ。」
俺はベッドに寝る。
そして、昨日の出来事を振り返る。
結局、電力管理施設で倒した奴は主犯ではなかったらしい。
これだけ大規模な事件を起こせるだけの組織と繋がっていたのだろうか。
それにシャイラさんは助からなかった。
俺が生き残れたのも彼が俺に覆いかぶさって爆風を受けたからだそうだ。
感謝しても仕切れない。
それに、空中庭園も、約半分が無くなってしまったらしい。
それでも、残りの半分を守ることができた。
それだけでも俺は嬉しかった。
外に巣を失った、たくさんの鳩が飛んでいる。
窓から見えるその景色に俺は平和を願わずにはいられなかった。
どうも緋吹 楓です。
読んでいただきありがとうございます。
一度、こんな話を書いてみたかったので。
彼の扱うパイルバンカーは、人を無力化させるのが目的なので安全です。
もしかしたら、話の続きを書くかもしれません。
まだ謎の少年の名前を出していませんしね。
それでは。また違う作品でお会いしましょう。




