冬のある日−1
〔 冬のある日 〕
まだ夜の明ける前だった。やがて東の空から蒼い光が空を包み、その色がそのまま部屋の空気を染めていく。
部屋のカーテンを閉めていなかったのは、昼前に家をでた道旗の帰りが深夜になったからだ。おまけに珍しく酔いが回っていたらしく、几帳面な彼にしては室内は随分な有様だった。
部屋の床には脱ぎ捨てたままのジャケットが。紺色の靴下まで部屋の入り口に片方が見える。
部屋に着くなり襲いかかる眠気に勝てず、道旗の後ろからおずおずと着いて来た愛しい子を掻き抱いて眠ってしまったのだ。
道旗はそんな昨夜の記憶を徐に回想しながら、軽くみじろぐ。柔らかい温もりが身体の隣にあったのを気遣い、もう一度横を向き直した。そうしてそのなだらかな丘のような曲線に顔を埋めた。
こうすると心が落ち着く。
丸みに沿って、手をゆっくり這わせていくと、相手は少しむず痒そうに顔を上げて路旗を見た。
「起こしてしまったかい」
囁くように呟いた路旗に応えず、また眠りに引きずられるように伏せたその横顔に、道旗は堪らず口づけした。
彼女がこうやって道旗のベッドになすがままに潜り込むのは、暦が冬を示し、いよいよ寒くなってからである。
道旗も寒がりであるがために、彼女の訪問を快く迎えていた。いや、路旗もまた彼女の体温を欲していたのだ。
「君はとっても暖かいな」
毛布をもう一度肩まで引き上げ、道旗は目を閉じた。
それから、思いがけず彼も深い眠りに落ちる。
この瞬間が永劫に続くのであれば、二度と目覚めなくてもいい。そう思えるほど道旗にとっては至極の一時だった。