死んだ時間5聯
死んだ時間
どす黒い闇が永く積もり
鳥どもの強襲がつづく
木樹の影が不吉に伸びて
昏い部屋の中で
おれは喚いた
這う大蛇のように
うねりながら
襲ってくる何かを
ただひたすら避けようとするが
それでもなお
おれの足に纏わりつく
流れてくる屍たちの血
憎々しいたましいの悲しみだ
噴出したまま凝固しない
排され苦しみながら
おれのみつめた先にそれはあった
遠く先にあったもの
それこそ
空虚の淵よりにじりよる
すべてを呑みこんでいく
死んだ時間である
巻貝
巻貝の螺旋の中には
むかし殺された女の無念が
孕んでいるのです
だれにも悲しまれず
ひとりで死んだ女のたましい
死の世界にも生の世界にも
どちらにもゆけず
とわに漂っている
いまでも巻貝を耳にあてれば
その叫びが聞こえるでしょう
ひたすら哀しくとどろく
その怨みが
副葬品
赫く錆びた一体の埴輪
永い時間を経て
泥でその身を汚しながら
死の王に従事する
人工の涅槃をみつめて
千年も佇んでいた
その身を窶して
欠落していくつちくれ
形を変えながらも
姿をなくしていく
空間に溶解していく
いつになれば亡べるのか
もし朽ち亡べば
この世には
ふたたびはもどってこれぬ
それでもよいのなら
その積み重なった時間を
祝福しよう
そして
闇に濡れた
死へ帰そう
水準器
あべこべの命がはびこったせかいに
もはや水準といえるものはない
原初からはがれた思想を
ひたすら産みつづける病
自然をまねた構造はもはや破綻しており
貧困も宗教も死んで
倫理や道徳の輪郭は
地の底へ
自由という地獄に
浸りすぎている
何が基準だ
何が水準だ
いよいよ
連綿といままで
紡ぎついだ時間は
いま
きえはてた
かつて聖餐台にだけあった
仄暗い現実が広がってきている
そこにあるのは
見知らぬ死だ
見知らぬ地獄だ
蝶のとばない夜
この蝶はヒトの夢
何億年もの時間をもつ
それがもう飛んでいない
羽根の垂れた死骸が
宙に浮いているだけだ
そのことを誰がしっているのだろう
そのことを誰がしっているのだろう
時間から血が流れている
時間が殺されている
もう誰も夢を見ない
この深い夜に生命は消えていく