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2013年・2014年

死んだ時間5聯

  死んだ時間



どす黒い闇が永く積もり

鳥どもの強襲がつづく

木樹の影が不吉に伸びて

昏い部屋の中で

おれは喚いた

這う大蛇のように

うねりながら

襲ってくる何かを

ただひたすら避けようとするが

それでもなお

おれの足に纏わりつく

流れてくる屍たちの血

憎々しいたましいの悲しみだ

噴出したまま凝固しない

排され苦しみながら

おれのみつめた先にそれはあった

遠く先にあったもの

それこそ

空虚の淵よりにじりよる

すべてを呑みこんでいく

死んだ時間である
















   巻貝



巻貝の螺旋の中には

むかし殺された女の無念が

孕んでいるのです

だれにも悲しまれず

ひとりで死んだ女のたましい

死の世界にも生の世界にも

どちらにもゆけず

とわに漂っている

いまでも巻貝を耳にあてれば

その叫びが聞こえるでしょう

ひたすら哀しくとどろく

その怨みが















   副葬品



赫く錆びた一体の埴輪

永い時間を経て

泥でその身を汚しながら

死の王に従事する

人工の涅槃をみつめて

千年も佇んでいた

その身を窶して

欠落していくつちくれ

形を変えながらも

姿をなくしていく

空間に溶解していく

いつになれば亡べるのか

もし朽ち亡べば

この世には

ふたたびはもどってこれぬ

それでもよいのなら

その積み重なった時間を

祝福しよう

そして

闇に濡れた

死へ帰そう













   水準器



あべこべの命がはびこったせかいに

もはや水準といえるものはない

原初からはがれた思想を

ひたすら産みつづける病

自然をまねた構造はもはや破綻しており

貧困も宗教も死んで

倫理や道徳の輪郭は

地の底へ

自由という地獄に

浸りすぎている

何が基準だ

何が水準だ

いよいよ

連綿といままで

紡ぎついだ時間は

いま

きえはてた

かつて聖餐台にだけあった

仄暗い現実が広がってきている

そこにあるのは

見知らぬ死だ

見知らぬ地獄だ
















   蝶のとばない夜



この蝶はヒトの夢

何億年もの時間をもつ

それがもう飛んでいない

羽根の垂れた死骸が

宙に浮いているだけだ

そのことを誰がしっているのだろう

そのことを誰がしっているのだろう

時間から血が流れている

時間が殺されている

もう誰も夢を見ない

この深い夜に生命は消えていく








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