プロローグ
運命を変えることのできる魔力――。
大昔から現代に、そして未知の先までも続いていて、続くであろう世界の器に入れられたもの。それが魔力であり、人間が扱いきることのできない恐ろしくも魅力的な代物だった。
それを管理するのが『門番』であるミリアムとミリオン。
双子で性格もよく似た二人は、いつも一緒で、なにをするにも一緒。
寝るとき、起きるとき、出掛けるとき、帰るとき、遊ぶとき、お風呂に入るとき……と。
数え始めれば切りがないくらいに一緒で、いつも自分の倍の高さまである斧を持っていた。
だが、一緒であるぶん孤独だった。
二人には、二人の仕事を監視する役目を持つ主がいた。
その主は忘れたころに時折ふらりとやってきて、二人の様子を見てその場を去っていく。そんな主の奔放さは、二人にとってはまるで夢の塊だった。
自由になりたい。
遊びたい。
武器を捨てたい。
愛されたい。
主人公でない、重要だけれど重要視されない役割の二人は器の前を離れることが許されなかったのだ。それでも、主からの「ありがとう」という言葉を糧にがんばって耐え忍んで、仕事をまっとうしていた幸せな日々にも終わりがやってきた。
自分たちが、なによりもどんなことよりも愛してやまなかった主が死んでしまったという訃報が届いた。
二人は絶望を感じたが、つぎに取った行動は全くの別物だった。
ミリアムは泣きながらも『門番』としての務めを果たし、主の最期の命をまっとうすることが主への真の愛だと胸に刻み監視した。
だが反対にミリオンは、怒りと復讐の念に駆られて『門番』としての務めを放棄して主が死んでしまった理由を探しにその場を去った。
もちろんミリアムは止めたが、言い知れぬ覚悟の表れのように怒りと復讐に燃える瞳になにも言うことができなくて、結局のところミリオンを留まらせることはできなかった。
『門番』が決別し、欠番状態となってしまった状態は瞬く間に広がり、他の役目を持つ住人たちにはその理由がすぐにわかったが、最早どうしようもなかった。
死んだ人間を生き返らせることなど不可能なのだから。
だが住人は『門番』の心情など知る由もなく、ただ〝 代わりがくれば戻る 〟と思っていた。そのため、気に留める者など誰一人としていなかったのだ。
いなくなった『門番』の主の代わりがやってきた日――それが、本当の崩壊のときだとも知らずに。
新たにやってきた主は、元の主同様の見た目と性格だった。
自由奔放だが気遣いのできる主。双子が愛してやまなかった、夢そのものの主だった。
――だが、違った。
似ているけれど、決定的に違う。
だが、双子のいる世界ではそれは至極当たり前な常識であり、それを疑うということはつまり、自分たちが住む世界の常識を疑うということと同義なのだ。だから、ミリアムはその主を受け入れる他なかった。
いつか戻ってくるであろう片割れを待ちながら……。