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冷酷宰相は私だけを甘やかす  作者: 絵宮 芳緒
歪んだ家族

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第3話|父の誤認

母アデリーヌの葬儀は、静かで厳かに執り行われた。


屋敷のあちこちには悲しみの影が差し込み、集まった者たちは深く頭を垂れる。


屋敷に集まった人々の沈黙の中で、リリアーナは深く胸を震わせ、涙を堪えながら母を見送った。


棺の前で黙祷するヴィクトルは、心にぽっかりと空いた穴を感じながらも、屋敷の空気に漂う悲壮感に押されているようだった。


その傍らで、ヴァネッサは静かに微笑んだまま、ヴィクトルの注意を逸らすように動く。


その瞳の奥には計算された光が潜み、葬儀の厳粛さの中でも、彼女の目的は確実に進行していた。


「ヴィクトル様…お疲れでしょう」

ヴァネッサはそっと声をかける。


「セリーナ――彼女は、あなたの娘です」

声は柔らかく、しかし力強い。

ヴァネッサの瞳にはわずかな覚悟が浮かぶ。


「今までは、アデリーヌ様がいらした手前、事実をお伝えできませんでした。

ですが、これからはしっかり愛してあげてください」


ヴィクトルは一瞬、言葉を失う。

深緑の瞳がセリーナの瞳に重なる――偶然にも、二人の瞳の色は非常に似ていた。


その無邪気な笑顔と澄んだ目に、ヴィクトルは心を揺さぶられる。


「…そうか…そうだったのか」


胸の奥に、これまで表立って可愛がれなかった娘への思いが、急に押し寄せる。


その小さな背中を抱きしめ、手を添えた瞬間、ヴィクトルの心には決意が生まれた。


「これからは、しっかりと…」

セリーナは嬉しそうに顔を輝かせ、無邪気に父に抱きつく。


その笑顔は純真そのもので、だがヴァネッサの計算通り、ヴィクトルの心を完全に捕らえていた。


一方でヴァネッサは、その光景を静かに観察していた。

表向きは微笑み、ヴィクトルの心を温めるかのように振る舞う。


だが、その裏ではセリーナの存在を巧みに利用し、屋敷内での自身の地位を確固たるものにする布石を打っているのだった。




数日後、屋敷では婚約の話が動き始める。

エドガー・ブランからの申し出に、ヴィクトルは喜びを隠せず、セリーナを次期後継者として迎えることを確信する。


「セリーナ、君には素晴らしい未来が待っている」


無邪気に笑う娘を見つめ、父は未来の安心を思い描く。

セリーナもまた、純粋にその承認を受け取り、父に甘えたまま微笑む。


ヴァネッサは静かに微笑み、二人の間に立つ影として完璧なバランスを保つ。


屋敷全体の空気を掌握し、誰もその意図に気づかないまま、すべてが彼女の手のひらで動いていた。


そして、セリーナもまた、自身が次期後継者として疑わぬ確信を持つ。


エドガーに寄せられる視線や、父の愛情を独り占めにする様子に、少女の心は誇らしさで満ちていた。


だが、それはまだ浅はかな思いに過ぎない――ヴァネッサの計算と、父の誤認によって築かれた幻想の上で揺らぐ未来の物語の始まりに過ぎなかった。

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